元公文式指導者
武井 知子(たけい ともこ)
秋田県出身。東京で小学校の教員を4年ほど務めたのち子育てに専念。保護者として公文式と出合う。『子どもの“自学”する力を育むKUMON』(著者・多賀幹子、PHP研究所)に登場する神奈川県鎌倉市/津村教室の元指導者。2024年3月まで43年にわたり指導者として多くの子どもたち・保護者と関わる。3月に行われた指導者引退時の講演には多くの公文式指導者が参加し、創始者から学んだことを伝える。子どもと読書の出合いの場をつくろうと始めた「よみましょ会 ききましょ会」は子どもたちに「読書のきっかけ」を与える場となった。
読書能力は自学自習力、後々までその子を輝かせる
景山:読書は幼児から、と考えるに至ったきっかけや思いをお聞かせください。
武井:読書環境に恵まれない子もいますよね。小3や小4まで本になじみなく育った子たちが、国語が苦手、教科書を読むのが嫌、国語のテストの点数が悪いということで教室にきます。
教材以前の読書力不足から、本物の読む力がついてないまま教材が進む子どもたちをつくりたくないと思いました。まずは幼児のお母さんに働きかけて、乳幼児から本を好きになるよう導き、本のグレードを上げていきました。幼児期は時間もあるしお母さんたちの熱心さも加わって、8A~3A教材の学習中に2Aのすいせん図書レベルの本を紹介していきました。本を読む効用や情報を教室だよりや口頭で伝えたり、読むきっかけづくり、動機づけをして、本を読む雰囲気づくりを教室でも家庭でも醸し出すように導いていきました。お母さんたちには「言語能力(読書力)×意欲(やる気)×継続(根気)」と言って、お子さんを一緒に導きましょうと声をかけました。
今24歳で東大生から銀行員になった元生徒がいます。1歳4か月の時に国語と算数で入会して2歳10か月で本が読めるようになりました。「お母さんも本を読んであげることを楽しんで一緒に同じことを共有する時間をつくる努力をしてください。そういうやりとりの中で子どもが本好きになり、読む本のジャンルも広がりレベルも上がります」と伝えました。その子が3歳8か月の時に読み聞かせ1万回を達成しました。
お母さんも記録をよくとってくれました。「絵本を仲立ちに、言葉で育んだ親子のやりとりと、絆づくりを1万回やったお母さんはすごいのよ」と声をかけました。
この子は小2で英語、小3でドイツ語もやりたいと言って4教科学習になりました。2歳で本が読めるようになった効用だと思うんですけど、2歳読書を達成したことで彼の可能性は高まって、興味を持ったものはどんどん吸収していきました。英語が好きで小2で英検準2級合格。小3で英語最終O教材、国語よりも先に英語が最終教材※4までいきました。この子のすいせん図書レベルは当時G~Iで中学生レベルでしたから、すでにそのときになりたい職業に思いを馳せていました。歴史ものもどんどん読んでいました。読み聞かせ1万回のおかげで本は楽しいという思いで本の世界に入って、古文・漢文のプリントもはかどりました。2歳読書が彼を後々まで輝かせるんだなと思いました。読んでわかる正確さと速さがあって、英検の問題集もあっという間に終わって「もう終わったの!? 先生、まだ時間かかると思ってたけど」というくらい驚きました。
※4 英語の最終教材はO教材で高校卒業(英検2級)程度。O教材の後に大学教養課程相当の研究コース(P~T教材)が用意されています(2023年4月現在)。
景山:自学自習力は読書能力と同一だというのを教えてくれたすばらしい生徒さんですね。歌・読み聞かせから読書に親しんで、心豊かな自立した子に育って、そういう子たちが世の中に増えると地域も世界も平和になるとよく思うんですよね。
武井:公会長がおっしゃる通りだなというのがこの子を見ていて思いました。この子はどんなことでも「順番通りやれば必ずできるようになるよね」と、自分で教材も「ここに戻ればできるようになるよね」と言ってました。まさに自学自習が身についた子どもでした。
AI社会を生き抜くために
自分で学ぶ力をつけて、大いなる問いをもってほしい
景山:AI社会を生き抜くため、公文で学ぶ子、未来を生きる子どもたちにどう育ってほしいと思いますか。
武井:新井紀子さんの『AIに負けない子どもを育てる』と『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の本を読んだとき、教室のスタッフと一緒にリーディングスキルテストもやってみました。やはりAIというのは良識とか心とか感情や問いをもち続けることに対応する能力はないなと思いました。それは人間だからできることです。
インターネットで検索すればすぐ答えは出ますが、答えを探す、答える力以上に、問い続ける力をもってほしいと思います。人生に関わる大いなる問いをもってほしいですね。たぶん簡単に答えは出せないことも多いし、正解がひとつでないかもしれません。そんなとき人は「問う」ことから始めるのではないでしょうか。周りのあの人はどう思うのだろうか? 自分の答えはこれでいいのだろうか? AIとちがって人間だから、迷って修正して、また問い続ける。
公文式で培われた高い学力と自分で学ぶ力があるので、どんな時代になっても人間として正しい生き方を選んでほしいと強く願います。
いざというときに「咄嗟に善に傾く」ことが人間として一番大切なことかもしれません。善という大いなる問いをもつことで大いなる人生をつくってほしいと思います。何が起こるかわからない時代に咄嗟に善に傾く子にしたい、そういう子どもたちが世界中にいれば世界平和になることまちがいなしですよね。
大いなる問いをもてる子たちは自分の殻をやぶっていける、新しい自分を見つけていけると思います。だから、「君が自分の可能性を拓くんだよ、君の本の読み方を鍛えてごらん。すいせん図書を手にとり丸ごと一冊読んでごらん、様々なジャンルに出合ってごらん。本の中の人物や歴史的事実から、君だったらどうする? 自分はこれからどう生きる?」と声をかけたいですね。
景山:公文で学んだ子は自分で突破してくれていますよね。「問いを立てる」という言葉を最近よく聞きますが、AI時代を生き抜くためには自分で学ぶ力をつけて、大いなる問いを抱いてほしいですね。
武井:かなりの本を読んでらっしゃったジャーナリストの故・立花隆さんもやはり読書と、知・情・意と言ってました。情報って否応なしに頭の上を通過するじゃないですか、インターネットだけでは情報が浅い、より深い情報は本からだと、文章を通してより深く脳を刺激させてくださいとおっしゃってました。思考力を培うのは読書、読書は総合メディアとおっしゃってましたね。
公文の国語教材もしっかり読ませる方法が教材にしかけられているから、本を読めるようになる教材です。教材制作者の意図として、それがしかけられてますからね。
景山:本が読めるような子になってほしい、創始者の想いですからね。
子どもの負の感情を深堀りせず笑顔で明日に向かわせる
生徒・保護者の声なき声を聞く
景山:公文の先生方、保護者の皆様へのメッセージをお聞かせください。
武井:先生方には、KUMON CONNECT(タブレット学習)でもやっぱり対話は避けて通れない、いつも人を感じて、人とつながっていることを強みとしてほしいです。AIに育てられない力は対話だと思いますし、耳をそばだてて生徒・保護者の声なき声を聞きとって、対話を深めてほしい、心までつなげてほしいと思います。
文章だけではわからない生徒・保護者の声なき声がある。それも聞き取って対話を深めて心までもつなげてほしいです。言葉の力で、人の心の隙間に入って明日の灯りをともせるのも指導者だと思います。社会の中でこの分野をしっかり受けもつことが公文の役目のような気がします。心がつながらなくても一応仕事にも教育にもなる時代ですが、公文の先生方には対話という分野をしっかり受けもち、生徒・保護者が輝ける足場をつくってほしいと思います。
景山:私はよく人にはそれぞれ果たすべき役割があると言っていますが、受けもつ分野というのは同じ意味ですね。とても共感します。
武井:公文式は専門の教育領域の中だけで考えることなく、国や人種や文化を越えて、人間の本質や良心という立場から世界平和を祈るという気持ちが公会長にはありました。だから地区会(同一地域の教室の指導者が集まる勉強会)でも教室の事例を持ち寄って、より早くより高くと、明日への、子どもたちが輝けるための足場の知恵を出し合っていくのが指導者たちです。だから令和でも輝ける公文であってほしいと思います。輝くためにはしっかり対話という分野を受けもってほしいですね。
景山:足場というのは広い意味では先生や人物を指していると思いますが、狭い意味では教室の場ですよね。その場合は指導者は黒子のような感じになるんでしょうか。
武井:はい、指導者はやはり前に出ません、寄り添います。
景山:子どもを主役にして、子どもを輝かせたい、ということですね。
武井:公文の先生は教室が終わって家に帰っても、頭の中は公文の子どもたちのことを考えているんですよ。明日のあの子というのをいつも考えています。公文を考えるということは明日を考えるということ。疲れたなと思っても、家事をしながらもあの子の公文のことを考えると止まらなくなるんです。あの子ができたなら他の子にもできるかもしれないと終わりがないんです。私は、自分の可能性も公文のおかげで拓けたと思っています。公会長をはじめ、人とのいろんな出会い、生徒・保護者、お仲間の指導者たち、公文の社員含め皆さんのおかげです。
景山:最後に、子育て中の保護者の皆さまへのエールをいただけますか。
武井:子育てをがんばっている世代の方々には、ひとつのことを続けるということを伝えたいです。公文もそのひとつですが、子どもまかせではなかなかうまくいかないものです。とくに子どもが小さいうちは、親の方も強い意志や気持ちを持ち続けることが大切かもしれません。たとえ短い時間でも毎日休まずまじめにプリントに取り組むのは並々ではない努力を要します。そのときタイミングよく、親が笑顔でほめて励まして認めてあげてくださいと伝えたいです。親御さんの笑顔にはすごい力があります。子どもがやりたくないときの負の感情を深堀りせず、中断させてしまうことなく向かわせるところは前へ、先へ、明日へ。そこを親御さんにお願いしたいですね。
また、高度な基礎学力、読書能力をしっかりつけておけば人生の選択肢も広がりますし、大いなる問いももちます。小さいときから読書で育った心ある子は、思いやりや親切心も含めて親も指導者もらくです。してはいけないことやしないほうがよいこと、しなければいけないことやしたほうがよいことの区別が小さいときから本を読んでる子は教えなくてもできます。
教室では生徒・保護者の皆さんのその時々の気持ちに寄り添って、一緒に前に進む気持ちを育んでいます。公文の国語教材では、くもんのすいせん図書から多くの作品が採用されており学習と読書がお互いに補完し合って一体化してるので、百利あって一害なしです。教室の生徒たちが物語っていますし、卒業生が立証してくれています。教室とご家庭が手をとりあって、人格教育、すなわち人生いかに生きるべきかの知恵を育むことをしてほしいですね。自分で善悪を考えたり、夢や生きていく方向を自ら考える子どもに育てることを保護者とも共有したいことです。公文育ちの子どもたちの輝かしい未来が見えてくるので、教材を信じ、お子さんを信じ、笑顔を送り続けてください。
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