国から評価された教育法
公文に関わる皆さんの元気の素に!
――このたびは受章おめでとうございます。受章の率直なご感想をお教えください。
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――永山さんは大学を卒業後、鹿児島県立高校の家庭科教員になられたそうですね。教職の道を目指された理由をお聞かせください。
中学二年生のときに出会った、厳しくも優しく生徒たちを包み込んでくださる女性の先生にあこがれて教職を目指しました。当時は「女性が大学に行くなんて」という時代でしたが、父は「国立大学なら」と応援してくれました。当時はちょうど化学繊維(ナイロン・テトロン・ビニロン)の黎明期、私は繊維化学を専門に学びました。よき先生に恵まれ、時間を忘れて実験に没頭していましたね。夢がかなって教員になりましたが、結婚を機に名古屋に引っ越すことになり退職しました。
――公文の指導者になられたきっかけをお教えください。
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大学時代の友人から贈られた、公文式の創始者である公文公さんの著書『公文式算数の秘密』を読んだことがきっかけです。この本を初めて読んだとき、体の中に電気が走るような感じで、「この教育はすばらしい。我が子に受けさせたい!」と強く思いました。とくに心に響いたのは、「一人ひとりの子どもの中にはすばらしい能力がある」との信念です。基礎学力を大事にする教育法にも共感しました。
ところが近所に公文の教室がなかったため、8畳一間あればできるとのことで、当時7歳の娘と4歳の息子とその友人の子どもたち7名からのスタートでした。他の塾や保護者は応用問題や入試問題に注力する中、わが子の将来を見据えて「基礎学力が最も大事」と考える保護者がお子さんを通わせてくださいました。子どもたちはものすごく伸びましたね。教室に来る子も1年間で100名を超える形で増えていきました。
子どもたちに勇気と自信を与える
――教室を始めて10年ほどたってから、瀬戸少年院での公文式の導入について相談されたそうですが、不安などありませんでしたか。
近くに少年院があることは知っていました。この学習方法なら「少年たちの役に立つのでは?」と漠然と思っていました。そんなあるとき、少年院で講師をされていた地元の小学校の校長先生から、「公文式で国語を学習させてくれないでしょうか」とお声がかかりました。ちょうど10年ほどの指導歴がありましたので、何とかなるかなと半分不安を抱えながらもお受けすることにしました。ところが実際に導入するとなると、「どんな子がいるのかな……」と不安にはなりました。
少年院は14歳から20歳までの子が入院しています。当時の院内では「院では中学生で分数ができれば十分」という雰囲気もありました。「公文式で学習すればもっと伸びるはず」そう強く思いました。
――少年院での公文式学習について、具体的にご紹介いただけますか。
少年院の入院には、次のような特徴があります。
①五月雨式に(様々な時期に)入院してくる。
②小中学校にはほとんど通っていない少年が多い。
③家庭や学校で学習する機会がほとんどない状態の少年。
④補導された100人の中の1人という重篤な犯罪を犯した少年。
授業は毎週火曜日の午前中にあります。公文式学習は、数・英・国の3教科がありますが、毎年の院の方針で学習教科が決められます。少ないときは5~6名、多いときは37名を超えるときもありました。どの子もA教材(幼児~小1相当)から始め、中学3年生ならばI教材(中3相当)まで終わらせることを目標にしました。学習期間はほぼ8カ月となるので、その間にどう学ばせるか、院の担当者と話し合いながら進めました。
昼間は中学校の授業がありますので、公文のプリント学習は家庭で宿題をするように、寮での自習時間「1日1時間」と決められた勉強時間内にやるしかありません。すると「時間が足りない」と、自分から「勉強したいから消灯時間を延長してほしい」と院長先生に申し出る子も出てきました。
私は一人ひとりの気持ちを聞いて、「一日何枚やること」と約束し、守れていないとその理由を聞き、できていれば「やれたね!」とほめてあげたりと、通常の教室の子どもたちと同様に接していました。
驚いたのは国語力の伸びです。私は、一人ひとりとやりとりするために「公文ノート」をつくっていました。今月の進度実績・学習枚数・感想文、次月の進度目標・学習枚数、少年なりの作文を毎月書かせました。私がコメントをつけて返すのですが、数カ月経つと、始めた頃とは見違える文章になります。書き方もそうですし、内容や気持ちにも変化が見られました。
――院内の子どもたちとのやりとりで印象的なエピソードをお聞かせください。
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I教材(中3相当)まで終わらせて合格すると記念の盾をつくってあげます。それを目標にしてがんばり、盾をとることに加え、L教材(高校上級レベル)まで終わらせ、英検4級にも合格した子がいました。毎月1回の進級式で院長から盾を贈呈されるのですが、本人はもちろん喜びますし、他の子も「自分もがんばろう!」とやる気になります。出院時は院内で使用したものは持ち帰ることができませんが、この盾は持ち帰ることができるのです。その後も子どもたちを奮い立たせるものとなっています。
はじめはなかなか学習習慣がつきません。それがG教材(中1相当)に入ると、多くの子が、喉が渇いたときに水を欲しがるように前のめりになって取り組みます。その姿を見ていると、子どもの中には「学びたい」という本能があることを実感しました。
院の指導に入る前に、「公文式の教室では公文式指導がうまくいくのは当たり前。もし教室以外の場で成果が出たとしたらこの学習法は本物であろう」と、自分なりに仮説を持って始めました。院内での指導を続けた結果、「やっぱり本物だ!」と確信しましたね。公文式は子どもに自信と勇気を与え、自立して自分の足で人生を歩いていける子に育ててあげることができる。人としての根っこを育てているのです。
子どもが100人いたら100通りの指導法がある
――公文式は少年院での導入のほか、高齢者の学習療法や60を超える国と地域への海外展開など、大きな広がりを遂げています。長年公文式教育に携わられたお立場から、この発展をどのように感じられているか、公文式の魅力とともにお話ください。
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私も公文式指導の研修会の講師として様々な国に行きました。公文が世界に広がったのは、やはり基礎学力に特化していること、そして子ども一人ひとりの中にあるすばらしい能力をのばす教育法だからでしょう。そして特筆すべきは、海外の公文式教室でも、日本と同じように、その国の指導者が自国の子どもたちの能力を伸ばしたいという強い思いを持って公文の教室を行っていることです。
21世紀の教育は、本物の個人別・能力別が主流になると公文公さんはおっしゃっていました。また公文公さんは「地球の宝物は子どもたち一人ひとりの中にこそある。その宝物を探し出すことこそが大人社会に課せられた最大の責務である」ともおっしゃっていました。そのことが可能になるのが公文式です。そして指導者の責務です。子どもが100人いたら100通りの指導法があるはずです。「この子たちのために」ではなく、「この子のために」今何をしたらいいのかを考えることがとても大切だと思います。
――最後に改めて、公文式教室の後輩指導者の先生方、そしてKUMONで学ぶ子どもたちへのメッセージをお願いします。
子どもたちが「言われてやる」指示待ちの学習ではなく、自分から考えて行動する。そんな“究極の自学自習”ができるように、公文式指導者は指導法や教材研究とともに、子どもを見る目について学ぶ必要があると思います。指導者同士、お互いの学びや工夫を分かち合うことも大切ですね。
公文式の指導者はいつもいつも子どものことを考えています。そしてお互いによい指導を目指して学び合い、その技術や指導法を惜しげもなく共有してくださいます。すばらしい人々の教育者集団だと思います。公文式学習は、どんないびつな器の中にもすうっと入っていってその器に馴染んでいくお水のようなものと思います。どんな子どもにも寄り添うことができるのです。
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公文式を学習のお子さんは、今はつらいと思うこともあるかもしれませんが、人生にはいつもその先に「未来」があります。未来の人生を自分らしく生きるためには基礎学力はとても大事です。頭と体で基礎を学び、その上でAIなどを活用できる大人になってほしいですね。
親や周囲の大人はお子さんに「あなたには未来がある」ということをぜひ説明していただきたいです。親子でそんな会話ができる関係性をつくっていければ、とてもすてきなことだと思います。
「よい教育はその国の礎になる」と言われています。日本の未来を託す子どもたち(私は「みらいびと」と呼ばせていただいております)を教室でたくさんお預かりし、心を強く、そして能力を高く育て、本物の自立を目指していくことが公文式教室の使命です。どうぞ皆さまがんばってくださいね。