「教育」と「社会」の
関係性を考える「教育社会学」

私は広島大学のIDEC国際連携機構にあるCGPに所属しています。CGPとは“Center for Global Partnership”(グローバル・パートナーシップ・センター)の略で、その名の通り、本学のグローバル化を加速させるための学際的な教育プログラムの提供や、国際共同研究を推進しているセンターです。IDECにはほかにも、国際教育協力や平和構築、環境など、地球規模の課題をテーマとするセンターがあります。
私は海外の企業や国際機関などに学生を派遣するグローバル・インターンシップといった教育プログラムの運営に携わっています。また、それに関連するセミナーやワークショップも開催しています。
そのほか、大学院での講義や、海外大学に短期留学する学部生の引率、海外大学からの学生の受け入れなども担当しています。直近では、マレーシアやエジプト、インドネシアに行き、この夏には、学部1年の学生たちや職員の方々とアメリカに渡航する予定です。
私の講義を受ける学生の多くが、日本以外のアジアやアフリカから来ている留学生で、講義はすべて英語で行います。科目は「Private Sector Analysis & Research Method in Education(民間セクターの分析・方法論)」や 「Public Management(公共経営論)」などで、教育社会学という分野から、民間企業の活動を研究する手法や、公的機関と民間機関の連携について考えます。
私の専門である教育社会学では、教育と社会の関係を考えます。例えば、グローバルな経済環境の変化が教育にどのような影響を与えるのか、また生成AIなどの技術革新が進む社会における教育の変容といったことを研究します。
そんな教育社会学の視点から、私は「エデュ・ビジネスの国際展開」をテーマに、インドネシアやマレーシアの研究者と国際共同研究を行っています。「エデュ・ビジネス」とは、教育に関わるサービスや製品を提供する民間企業のことを指します。その事例のひとつとして、KUMONのアジア諸国での展開について、調査・分析を進めています。アジア諸国の中でも、今、私が研究対象としているのはインドネシアで、現地の公文式教室を訪問させてもらい、そこで学ぶ子どもたちの様子を観察したり、指導者や保護者、学習経験者の話を聞くといった調査をしています。今後はマレーシアでも調査をしたいと考えています。
恩師の助言がきっかけで
KUMONの研究をスタート

教育と民間企業との関係をテーマに研究するようになったのは、大学3年生の時に「東南アジア社会経済論」という講義を受けたことがきっかけです。その頃、有名な外国のスーパーマーケットが日本市場から撤退したこともあり、講義の中では、生活に身近な小売や教育は、現地の企業の方が強いのかもしれない、といった話を聞きました。
しかしその年の夏休み、私はオーストラリアやタイに行ったのですが、どちらの国でも、日本企業であるKUMONのロゴがついた教室の看板を見つけました。そこで帰国してから先生に、日本のKUMONが海外で広がっていたことを伝えました。すると、それは面白いので、ぜひ調べて、授業で発表してみなさいと返されました。おそらく先生は、学校のカリキュラムや入試とった教育制度、子育ての文化が異なる地域で、なぜ外国企業であるKUMONが展開できたのか、調べたら面白いことがあるのではないかと考えてくださったのだと思います。そこで私は、KUMONが世界でどのように広がっていったのかを調べ、発表しました。それが今に続く「エデュ・ビジネスの国際展開」研究の始まりでした。
恩師の一言でスタートした教育産業の調査を、その後も、指導教官の先生に応援してもらいながら卒業論文をまとめていくうちに、もっと深く知りたいと思うようになり、大学院進学を決めました。大学院では、教育には、特定の生き方を「かっこいい」と思わせたり、「あこがれ」を促すような、人を惹きつける機能があるということを学び、教育産業はそれをうまく用いているのではないかと考えるようになりました。そこで、エデュ・ビジネスは、子どもたちや保護者に「あそこの英語教室に行きたい、行かせたい」と感じさせるために、どのようなストーリーを組み立てているのかについて、研究を続けました。
大学院の修士課程を修了した後、私は進路に迷いながらも、民間のシンクタンクに就職し、人材育成や新しい技術の社会実装に関する調査・研究に多く関わりました。例えば、新しいテクノロジーが登場したとき、EU諸国やアメリカ、インドなどの社会では、人々の期待や不安に応えるために、どのように政府や企業が対応しているのか、といった調査・研究です。
そんなあるとき、大学院の指導教官から、「博士課程は時間がかかるから、やるなら今しかないよ」と背中を押され、再び大学院に戻ることにしました。幸いなことに、上司が理解ある方だったので、シンクタンクに在籍したまま大学院の研究ができ、海外調査のための長期休暇も取らせてもらいました。
今、私は教育と、民間企業やデジタル技術との関係を研究していますが、勤めていたシンクタンクでの経験が活きていると感じます。民間企業が必ずしも経済合理性だけで動いているわけではないことや、アメリカで1年ほど調査・研究を行う中で、日本とアメリカの企業の考え方に違いがあることを、実際に体感できたことは大きかったです。
ふり返ってみると、私は「確固たる意思をもって研究する」というよりも、悩みながら進む道を選び、誰かに背中を押してもらいながら進んできたように思います。最近は大学の教員でも、研究一筋というよりも、いろいろな経験や失敗をしてきた方が多いと感じます。皆さんも失敗を恐れなくていいと思います。
多様な期待が向けられる教育だからこそ
民間企業との連携が大切

国際教育協力の取り組みにおいて、読み書き計算など学力調査で数値化しやすい認知スキルだけではなく、意欲や協調性といった社会情動スキルの向上やインクルーシブ教育への対応など、教育への期待が多様化しています。国際機関や各国政府の資金上の限界もあるなか、国際社会としてそれらに応えるためには民間企業にも頼るべきとの意見が2000年頃から出てきました。しかし教育に求められる平等や公正、教育の質の担保といった点から、警戒感も同時に強く示されました。
このような、民間企業も教育に関わるべきだという意見とそれに対する批判は、しばらく対立的に主張されてきました。しかし最近では、民間企業で働いている人がどのような動機で仕事に従事しているのかといった、より仕事の実態や関わる人々を深掘りする研究もみられるようになりました。また、教育行政はどのように民間企業と連携していくべきなのかといった点についても、ユネスコ(UNESCO)のような国際機関でも議論されています。
これまで公教育は、政府や自治体などの公的機関が担うイメージが強くありました。しかし近年は日本でも、学校が実現したいことを民間企業やNPOなどと連携しながら進めていくことも多くなってきていると思います。
例えば私は、東広島市の教育委員会と連携し、市内の小中学校の国際交流事業にも関わっています。昨年は市内の小中学校とインドネシア・バンドンの小中学校をオンラインでつなぎ、交流の機会をつくりました。この事業では、それぞれの学校の先生や教育委員会のほか、私たち大学関係者、パソコンや通信ネットワークを整備する企業など、さまざまな人たちが直接的・間接的に関わります。今後、公的機関が国際交流を企画するにあたっては、関係者の方々をどのようにコーディネートするか、公教育としてどうバランスをとっていくか、という視点が大切になると思います。
https://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.90ba4d230af1f3dc520e17560c007669.html https://researchmap.jp/takamichiasakura 広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田 和浩先生(前編)|KUMON now! 広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田 和浩先生(後編)|KUMON now!
![]() |
後編のインタビューから -KUMONの海外展開を支える「標準化」と「現地化」のバランス 後編へ続く(近日公開) |









