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Vol.049 2018.05.11

広島大学 教育開発国際協力研究センター長
吉田 和浩先生

<前編>

日本は「教育」で世界に貢献できる
持続可能で平和な社会を築くことが
「教育の国際協力」のゴール

広島大学 教育開発国際協力研究センター長

吉田 和浩 (よしだ かずひろ)

長野県生まれ。獨協大学外国語学部英語学科を卒業後、商社に就職。海外コンサルティング企業協会の研究員に転じ、英国のサセックス大学の開発学研究所IDS(Institute of Development Studies)に留学。開発学修士。その後世界銀行に入行、アフリカ局人的資源エコノミストとして、ガーナ、ナイジェリア、ザンビアなどの教育プロジェクト担当、人間開発ネットワーク副総裁室業務官、国際協力銀行開発セクター部社会開発班課長などを経て、2006年4月より広島大学教育開発国際協力研究センター助教授、2009年10月より教授、13年4月から同センター長に就任。

日本の学校教育は、学力・体力・人間性がバランスよく含まれ、全人的な教育が行われているとされますが、世界には学校に通えない子どもたちが多い国や、子どもたちが学校に通っていても「学びが身についていない」という問題を抱える国も少なくありません。そうした問題の解決に向けて、大学の知を有効に活用し教育の分野で国際協力を実践するため、日本で初めての研究拠点として設立されたのが広島大学教育開発国際協力研究センターです。センター長である吉田先生が考える「教育の国際協力」のゴールとは? 教育開発の現状と課題、日本の役割などをうかがいました。

目次

    教育の問題は教育の中でだけでは解決できない

    広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生
    広島大学 教育開発国際協力研究センターでの授業の様子

    私は広島大学で大学院生に国際教育協力論などを教える一方で、同大教育開発国際協力研究センターのセンター長を務めています。ここでは、教育開発について「研究開発」「戦略政策提言」「知見の発信」「モデル事業形成・実施支援」の4本柱で活動しています。

    大きな特徴としては、日本で唯一この分野の学術誌『国際教育協力論集』を、英語版と日本語版で毎年発刊していること、国内外の研究者や専門家人材のネットワークを構築していることです。また、本センターが事務局となり、アフリカ12か国16大学と日本を含むアジア8か国14大学で「教育開発のためのアフリカ・アジア大学間対話(A-A Dialogue)」というネットワークを結び、教育開発についての共同研究もしています。

    教育分野の国際協力というと、「学校のない貧しい地域に学校を建てる」といった活動が思い浮かぶかもしれません。たしかに日本の支援はこれまで、そうした個別の問題を扱うプロジェクトが主体で、ひとつの国でほかの援助機関によるものとともに複数のプロジェクトが走っているのが一般的でした。

    しかし、たとえば学校が近くになく、学校教育の価値を見出してもらえない保護者が多い地域で、「通学していない子が多い」という側面だけ見てしまうと、「学校を建てよう」「教員の数を増やそう」というように、その地域の問題は個別具体的なわかりやすい課題に置き換わってしまいます。

    このように特定の問題を細切れにして支援すると、たしかに学校ができて、先生も養成されるかもしれませんが、それはその地域の根本的な問題解決にはつながりません。「子どもたちがなぜ学校に来ないのか」を考えると、それは社会全体の問題の裏写しになっているからだということがわかります。そこには貧困問題や宗教、社会、文化、言語の問題もあり、それらも含めて教育に対するかかわり方を一緒になって考えないと、長期的にその国の人たちが自分たちの手で解決していく力につながりません。

    教育の問題には複雑な要因が絡んでいますし、教育の中でだけでは解決できないことがほとんどです。関係している問題を全体的、包括的に考えなくてはなりません。それが国際協力における世界の潮流となっています。

    SDGs達成のために「教育協力」で日本ができることとは?

    日本は自国の取り組みをうまく発信することで、
    もっと世界に貢献できる

    広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生

    では、日本は「教育協力」の側面で日本の強みをどう活かせるのでしょうか。私は、世界共通の目標である「SDGs」達成に向けて、日本が蓄積したノウハウはとても役立つと思っています。

    「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(=持続可能な開発目標)」の略称で、国連加盟国が2030年までに達成しようとする目標です。大きく17の目標があり、第4目標に「包摂的で公正な質の高い教育を万人に」が掲げられ、その内容がさらに10のターゲットに分かれています。

    第4目標の大きな特色は「インクルーシブネス(=包摂性)」と同時に、「ラーニングアウトカム(=学習成果)」の重要性に触れていることです。とくにターゲット4-7では、「人権、男女平等、平和、文化の多様性などの普遍的な価値観を共有し、それを実現していくうえで必要な知識や技能を身につけ、持続可能で平和な社会を築いていくこと」をめざしています。それが教育の成果であり、教育の国際協力のゴールです。

    私はそこに日本ならではの強みを活かすことができると思うのです。日本では「SDGs」や「ESD(=Education for Sustainable Development: 持続可能な開発のための教育」などの概念を持ち出す以前に、「人が困っていたら助けよう」「ものは大事にしよう」というようなことが、学校だけなく、日本社会に共通の価値観として根づいています。土台となる制度もしっかり機能しています。そこが日本の教育が素晴らしいと言われる一番のポイントです。

    長年培われてきた努力のおかげでできあがったわけですが、途上国の人々の中には日本に研修や視察に来ても、「素晴らしいが、われわれにはとてもまねはできない」と、自分のものにしようとせずに帰ってしまう人もいます。言い換えれば、日本は発信すべきネタが多くあるのに、その素晴らしさをうまく説明する準備ができていない、しっかり発信できていない状況なのです。

    教育分野に限りませんが、「日本には宝がある」という視点で自分たちの取り組みをうまく発信すれば、日本人にとっても自分たちを見直すことになり、それが資産となって世界にもっと貢献できると思います。そのためには、協力する相手の側にどういうニーズがあるかを理解し、そことのつながりを全体として見渡せるようになることが大切でしょう。

    社会の教育機能としてのKUMONの優れた点とは?

    地域に密着して教育にかかわれるKUMONの仕組み

    広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生

    さらに日本では、学校だけでなく、家庭や塾なども含め、社会が幅広く教育機能に携わっています。学校教育をベースとして、その先の社会がさらに人を育てていく機能をもっているのです。それがなければ、どんなにしっかりした教育の基礎ができていても、社会としてはまとまらなくなってしまいます。

    そういう意味で、KUMONもその一翼を担っていると言えます。KUMONでは、地域の方々が公文式教室を開設し、その地域に根ざして教育にかかわっています。そのような形で、子どもたち一人ひとりが伸びていけるような基本的な仕組みができている。それがKUMONの優れた点だと思います。

    これは構図としては普遍的なものですし、一般の方がKUMONの活動に共感して、「かかわりたい」というところから出発できるので、潜在的に公文式教室の先生になれる方はたくさんいらっしゃると思います。それは普及の素地として重要なことで、途上国でも普及の可能性はあるとは思います。

    ただ、「教育は政府の役割」と考える途上国が多いのも事実です。「地域の参画」をすすめると、「自分たちに教育機能を押しつけるのか」と反発を受けがちで、日本の良いものをそのまま持ち込んでもなかなかうまく機能しません。その国の歴史などを知らないとシステムは根付いていかないのです。

    私は、日本で行われている良い取り組みを、システムあるいは制度として整理し直して、必要な国が受入れやすくすることが大切だと考えています。途上国において特定の課題解決のために、こちらの目線で「とにかくよい情報」を提供するのではなく、「その情報をどう現地の人たちが吸収するか」まで考えて情報を提供することが大事だと思います。

    関連リンク広島大学 教育開発国際協力研究センター


    広島大学 教育開発国際協力研究センター長 吉田和浩先生 

    後編のインタビューから

    -吉田先生が海外に目を向けるきっかけになった出来事とは?
    -英国での留学時代から抱いていた葛藤とは?
    -吉田先生から子どもたちへのメッセージ

     

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