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Vol.090 2026.06.26

特別対談 
水族館の達人・下村実さん×SKE48・鎌田菜月さん

<前編>

水族館は多様性を教えてくれる場所
「好き」が学びを深くする

水族館の達人・下村実さん×SKE48・鎌田菜月さん

「水族館の魚は、いったいどうやって集めているの?」「ジンベエザメは食べられるの?」――水族館を訪れた時、ふとそんな疑問が頭に浮かんだことはありませんか。無類の水族館好きとして知られるSKE48の鎌田菜月さんも、これまで数多くの「なぜ?」を感じてきました。そこで話を聞いたのは、大阪にある世界最大級の水族館である「海遊館」や「すみだ水族館」などの立ち上げや運営に携わってきた“水族館の達人”下村実さん。鎌田さんが感じてきた水族館の「不思議」を率直にぶつけ、下村さんがその一つひとつに丁寧に答えていくやりとりが、このたび一冊の本『水族館の達人に聞いてみた ~ぜったいに行きたくなる37の発見~』にまとまりました。今回の対談では、本書の読みどころに加え、水族館をより深く楽しむための視点や、生き物から私たちが学べることについて語っていただきました。

目次

    下村 実(しもむら みのる)

    1965年大阪府出身。近畿大学農学部卒業。海遊館の立ち上げに関わり、以降生物の飼育を中心に30年以上勤務。その後京都水族館館長を経て、2020年より四国水族館飼育展示部長。2024年4月から公益財団法人日本モンキーセンター附属動物園長。

    鎌田 菜月(かまた なつき)

    1996年愛知県出身。アイドルグループ・SKE48の第6期生メンバー。幼少期から昆虫や金魚を育てていた生き物好き。水族館にも子どもの頃から何度も通い、現在もアイドル活動の合間に足を運ぶ。歴史や将棋好きアイドルとしても知られている。

    どの水族館に行っても楽しめる
    「水族館愛」にあふれた一冊

    下村実さん(以下、下村):ご無沙汰しております。今回、こうして再びお会いできて、とてもうれしいです。

    鎌田菜月さん(以下、鎌田):私もです。ご一緒させていただいた水族館巡りは本当に楽しかったです。私たちの本もいよいよ完成しましたね。

    下村:そうですね。本を制作する際は、鎌田さんからたくさんの質問をいただいて、正直かなり緊張しました! この本は、一般的な水族館ガイドブックのように「珍しい生き物を紹介する」だけではなく、どこの水族館に行っても楽しんでいただけるよう、幅広い内容に仕上がったと思います。

    鎌田:今回の本づくりを通して、何より強く感じたのは、下村さんの「水族館愛」でした。いくつかの水族館巡りをご一緒しましたが、どこに行っても、飼育員の方々との会話がとても盛り上がっていましたよね。

    下村:ついつい話に夢中になってしまい、すみません…。

    鎌田:いえいえ。それと私が「これはどういうことだろう?」と疑問に思ったことをひとつうかがうと10くらい答えてくださって。そのたびに世界が広がっていく感覚があり、とても面白かったです。本書はそうした疑問についてのやりとりを37個にまとめたものですが、当初は100近いエピソードがありました。

    本書を読んで実際に水族館へ足を運んでいただくと、さらに「不思議だな」「もっと知りたいな」と思うことが次々に見つかるはずです。そうした読んだ後の広がりも含めて楽しんでいただければと思いながら制作しました。

    下村:そう言っていただけて、胸がいっぱいです。私たち専門家が「面白い」と感じていることは、一般の方にはなかなか伝わりにくいことも多いんです…。だからこそ、それをどう表現すればよいのか、悩む場面もありました。

    鎌田:何度もそうおっしゃっていましたね。水族館というと、「大きな水槽に魚が泳いでいる」というわかりやすいイメージがありますが、お話をうかがううちに、その裏側には、専門的で奥深い世界が広がっていることを知りました。それがとても新鮮で、印象的でした。知ることで、さらにもっと知りたいと思うことが枝分かれするように増えていきました。

    たとえば、魚にも左利きと右利きがあることや、水槽のアクリル板をかじってしまう魚がいることなど…。

    下村:イシダイやサメなどですね。ぶつかって水槽を傷つけてしまう種類もいます。

    鎌田:そうした損傷を防ぐために、飼育員の方々が日々丁寧に水槽をメンテナンスされていると知り、とても印象に残りました。そのお話を聞いてからは、水槽そのものにも注目するようになりました。

    せっかく捕れた川魚を煮付けにされて大ショック
    「命をいただく」感覚

    鎌田:下村さんは、小さい頃からずっと生き物が大好きだったそうですね。

    下村:はい。それは実家の環境が影響しています。私の実家は農家でしたが、代々、馬を貸すことも生業としてきた家系で、私が17代目になります。敷地が広かったので、様々な生き物が身近に生息していました。近くには川もあり、飼っていた牛を洗いに行くこともありました。物心がついた頃から、生き物とともに暮らしていましたね。

    鎌田:まるで「もののけ姫」の世界ですね! その川で魚を捕ったりもしていたんですか?

    下村:はい。カマツカという川魚が特に好きだったのですが、めったに捕れなくて。でもある日、ようやく捕ることができたので、家で飼おうと思って、バケツに入れて持ち帰りました。私はその後、また遊びに出かけたのですが、戻ってきたら、おばあちゃんに煮付けにされていて…大ショックでした。味はとてもおいしかったのですが(笑)。

    鎌田:命をおいしくいただいた、ということですね。私は愛知県の山のある地域で育ち、よく虫捕りに行っていました。マンションの網戸に大きなカブトムシがくっついていたことがあって、それを捕まえて「カブ君」と呼び、大切に飼っていました。夏休みには、商店街のイベントでカブ君のお嫁さんをもらってきて、幼虫から始めて3世代にわたって育てたこともあります。

    下村:幼虫から3世代飼育したとは、すごいですね!

    鎌田:ありがとうございます。それと祖父が大の釣り好きで、祖父母の家には普通の冷蔵庫とは別に、釣った魚を入れる専用の冷蔵庫があり、いつも中はいっぱいでした。毎年私の誕生日には鯛を釣ってきてくれて、それを食べるのが楽しみだったんです。目の前でさばく様子も見ていたので、「命をいただく」という感覚は常にありました。釣りたての真鯛やカサゴはとてもきれいで、それも印象に残っています。あ、こうしてふり返ると、これは「育てる」というより「食べる」話ですね。

    「一瞬の輝き」に出合える
    実物を見ることの価値

    下村:鎌田さんは幼い頃から「本物に触れる体験」を重ねてこられたのですね。今の時代、SNSや映像技術の発達によって、たいていのものはインターネットで見ることができます。しかし、実物に向き合った時の感覚は全く別物です。とくに水族館の生き物は水中にいるため、日常生活では間近で見る機会がまずありません。水族館でそれを目の前で観察できるというのは、非常に魅力的な体験だと思います。

    例えば、恐竜の祖先とも言われる始祖鳥の化石は、有名な写真が世界中に出回っています。しかし実物を目にした人によると、その美しさは格別で、思い出すだけで感極まって涙するほどだそうです。インターネットを批判するつもりはありませんが、実物にはそれほどの力があります。そしてその体験は、人の好奇心を強く刺激するものでもあります。

    鎌田:動画は「美しい一瞬」や「見どころ」を巧みに切り取って見せてくれますよね。でも実際にその場を訪れれば、「どこを見るか」「どの動きを追うか」を自分で選べますし、気に入った対象を好きなだけ見ていられます。生き物は同じ行動をくり返し続けることはなく、その時々で様々な姿を見せてくれます。そこにリアルな体験ならではの価値があると感じます。

    下村:おっしゃる通りですね。生き物は同じ行動を二度と見せてくれません。泳いでいる魚が方向を変えた瞬間、ウロコがキラリと光り、その美しさに感動する。そんな「一瞬の輝き」があります。この一瞬のために水族館を訪れるという人もいます。

    鎌田:私もその「一瞬」に遭遇したことがあります。本書の取材で名古屋港水族館を訪れた際は、開館前の朝早い時間に入らせていただいたのですが、ゲート近くの水槽のイルカたちが一斉にこちらに向かって勢いよく泳いできたんです。普段と違う時間に人が来たので、イルカたちは「何ごとか」と感じたのでしょうね。その迫力に圧倒されました。しばらくすると、「あれ、とくに何もないな」と理解したのか、どこかへ去っていきましたが、まさに「生き物」の存在を強く感じた瞬間でした。

    下村:確かに、予測できない動きや反応は、その場にいないと体験できませんね。そういえば、水族館の飼育員の制服は青色が多く、いつもその姿でエサをあげているので、来館者が青い服を着ていると魚が寄ってくることがあります。ハリセンボンのように人の顔を覚えている魚もいますよ。そしてタコにはすぐれた認知能力があることが、最近わかりました。私自身、タコに「お手」を教えたことがありますが、ちゃんとしてくれましたよ。


     

     

    後編のインタビューから

    -基礎知識なくして 生き物は飼えない
    -「無」になるか、一点に集中するか 楽しみ方は自由自在
    -生き物は無駄な争いをしない 「個性の美しさ」を教えてくれる

    後編へ続く(近日公開)

     

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