「くり返し」「こつこつ」は
「自己効力感」を高める
脳は、何歳になっても変化、成長することが明らかになっています。例えばピアノなら3歳から5歳ぐらいから始めるのが一番よく伸びますが、80歳からやっても必ず伸びます。
何かをくり返し一生懸命やると、脳のネットワークがどんどん変化していくのですが、このような脳の変化を「脳の可塑性」といいます。「くり返しこつこつやる」ことで、その可塑性自体も高まる可能性があります。
この「こつこつ」は、「自己効力感」を高めることにつながります。自己効力感とは、「自分が何かをすれば、将来何かを変えることができる」と確信すること。言い換えれば、「やればできる」と思えることです。
似た言葉に「自己肯定感」がありますが、これは「自己効力感」に「自尊感情」(自分自身を大切と思えるような気持ち)を合わせたものです。「自己効力感」を高めると、「自己肯定感」につながり、「自己肯定感」が高まると、学業成績の向上などいろいろなことに影響します。
私の場合、大学の再受験ではとても苦労しましたし、研究室も今のようになるまでには、一筋縄ではいかず、大変なことだらけでした。しかし私には「やればできる」という自己効力感がありました。努力さえしっかりと積み重ねれば、大体のことはできると思っています。
もちろん、例えば100メートルを8秒で走るとか、物理的に絶対にできないことはあります。ですから「これは確かに難しい」のか、「これは自分で『できない』と壁をつくっているだけ」なのかを、客観的に見極めることは必要です。
こうした「やればできる」という感覚は、学びに向き合う姿勢にも大きく影響します。
テストのために勉強することもあるとは思います。しかし、そもそも学びとは、人生を楽しむためのツールです。学ぶことを知らなければ、人生を楽しむことはできません。
学びを促進するには、脳科学的にいうと「単純接触効果」と「流暢性効果」があります。私たちは、これらの効果によって、人やものを好きになるのです。「単純接触効果」は、何度も見たり聞いたりするほどその対象に興味・関心が湧くというもので、「流暢性効果」は、その対象について少し知っていると、さらに興味・関心が湧きやすいというものです。
たとえば、旅行も、その土地のことを知らないで行くよりも、少しでも歴史や文化を知ってから行く方が楽しくなりますよね。そうやって、いろんなことを見たり聞いたり知ったりすると、人生が楽しくなります。学びはテストのためだけではないのです。
AIとは共存することが大事
正しく使いこなせる力をもとう
AIが進化する中、どのような学びをしていけばいいかということは、多くの方の関心事でしょう。「AIによって自分の仕事が奪われるのでは」と不安に感じている人もいると思います。しかし私は、AIと人間とは対立するのではなく、共存していくものだと思っています。
時代の流れは止められませんし、止める必要もありません。私自身、AIをパートナーとしてすごく活用しています。AIが進歩するほど、私たち人間ができることも多くなっていくでしょう。
大事なのはAIリテラシー、つまり正しく使いこなせる力です。これはスマートフォンやゲームも同じことですが、正しく使えるならば、遠ざけることは得策ではありません。
「子どもがゲームをやめられない」ということは、脳の仕組みからしたら当然のことなのです。人間の思考や記憶、感情などをつかさどる脳の「前頭前野」という部分は、「がまん」にも関わっていて、その発達は思春期まで続きます。ですから、脳の「前頭前野」が充分発達していない状態でスマホやゲームを使うと、がまんができず、やめられないのです。
現段階では、AIにしてもスマホやゲームにしても、使うことで脳にどのような影響があるか、また善し悪しについてもまだまだ結論が明確に出ていないと思います。ただ、脳の発達研究の視点で見ると、本来は運動しているはずの時間や読書の時間、寝る時間、家族との団らんの時間にゲームをするということは、必要な体験によって脳が発達する機会を損失していることになります。
ですからまずは、寝る時間をきちんと取るようにする、家族との会話の時間をつくる、といったことを意識するといいでしょう。
また、とくに小さなお子さんの場合は、虫取りや魚釣りなどの「自然に触れる」ことを促すことをおすすめします。スマホやゲームは簡単に「快楽」を得やすいですが、自然相手は思うようにならないことが多いです。そんな自然の中で苦労して「快楽」が得られたときの喜びは大きく、「またやってみたい」となり、知的好奇心が育まれます。
小さい頃にそうした体験があれば、一時期ゲームに没頭するようになってもまた戻ってきます。実際、ゲーム好きの私もそうでした。
人生は楽しさに満ちている
保護者自身が好きなことに打ち込もう
今後の研究テーマですが、私は「時間と空間の移動」に興味があります。「時間の移動」についてはGoogleとの「通学路再現プロジェクト」が動き出していますが、「空間の移動」は準備段階です。人は場所を変えることで視点や役割が変わりますから、それが脳にどんな影響を与えるかを追求したいと思っています。
ほかにも、ノスタルジーと脳への影響など、動き始めているプロジェクトがあるので、それらを推進して社会実装にまでもっていきたいと思っています。
プライベートでも様々なことを行っています。楽器演奏に関する研究・プロジェクトがきっかけで、子どもの頃にやっていたピアノを再開しました。ほかにも大人になってから、ドラムとキックボクシングを始めました。さらに今年からは、息子と一緒にスケートも始め、徹底的に自分の好きなことをやっています。
ちなみに私がドラムを始めたのは40代からですが、「脳の可塑性」のお陰で、どんどん演奏が上達しています。それだけでなく、同じ趣味の人たちとのコミュニティができます。仲間と話すのは脳にとって刺激になりますし、何より楽しいんです。
楽器演奏は、将来の認知症リスクを下げることがわかっています。「指を動かすからいい」だけではなく、楽譜を見るので一時的に覚え、ワーキングメモリを使いますし、五線譜を理解してその通りに演奏するので実行機能も使います。
さらに空間認知をして、リズムをしっかり取るなど、ありとあらゆる脳の機能を使うので、「脳の健康」に影響するのです。加えて、楽しくなって日々の幸福感が高まることもすごくいいのです。
私は「すべての人が楽器演奏する」ことを、日本の大きな流れにしたいと思っています。かつて、道を歩いていると、近所の家からピアノの音が聞こえてきたように、すべての人が日常的に楽器を演奏する世界をつくりたい。それも私の夢のひとつです。
このことはとくに現在子育て中の保護者の方にお伝えしたいのですが、ぜひ好奇心を大切にして、好きなことに思いっ切り注力することをおすすめします。取り掛かりやすい方法として、子ども時代の習いごとを再開するのもいいでしょう。
人は模倣、つまり「まねをする」ことで能力を獲得していきます。そして子どもがもっとも真似をするのは親の姿です。ですから子どもに何かをさせたければ、まず保護者自身がそれをすることです。大人が楽しそうにやっていれば、子どももやりたくなります。
私たち保護者自身が人生を楽しみ、好奇心をもつことこそが、子どもの夢の実現を助けるのだと思います。
やりたいことをお話していると、わくわくしてきますね。子どもたちにも「人生は楽しさで満ちている」と伝えたいです。大人になると日々忙しく、それを忘れてしまいがちですが、子ども時代に「人生は楽しいんだ」と思えれば、困難があっても乗り超えていけると思います。
大人の方も、何歳になっても好奇心をもって脳を健康に保ち、楽しい人生を過ごしてください。
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前編のインタビューから -「くり返し」「こつこつ」は 「自己効力感」を高める |









