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Vol.090 2026.07.03

特別対談 
水族館の達人・下村実さん×SKE48・鎌田菜月さん

<後編>

水族館は多様性を教えてくれる場所
「好き」が学びを深くする

水族館の達人・下村実さん×SKE48・鎌田菜月さん

「水族館の魚は、いったいどうやって集めているの?」「ジンベエザメは食べられるの?」――水族館を訪れた時、ふとそんな疑問が頭に浮かんだことはありませんか。無類の水族館好きとして知られるSKE48の鎌田菜月さんも、これまで数多くの「なぜ?」を感じてきました。そこで話を聞いたのは、大阪にある世界最大級の水族館である海遊館やすみだ水族館などの立ち上げや運営に携わってきた“水族館の達人”下村実さん。鎌田さんが感じてきた水族館の「不思議」を率直にぶつけ、下村さんがその一つひとつに丁寧に答えていくやりとりが、このたび一冊の本『水族館の達人に聞いてみた ~ぜったいに行きたくなる37の発見~』にまとまりました。今回の対談では、本書の読みどころに加え、水族館をより深く楽しむための視点や、生き物から私たちが学べることについて語っていただきました。

目次

    下村 実(しもむら みのる)

    1965年大阪府出身。近畿大学農学部卒業。海遊館の立ち上げに関わり、以降生物の飼育を中心に30年以上勤務。その後京都水族館館長を経て、2020年より四国水族館飼育展示部長。2024年4月から公益財団法人日本モンキーセンター附属動物園長。

    鎌田 菜月(かまた なつき)

    1996年愛知県出身。アイドルグループ・SKE48の第6期生メンバー。幼少期から昆虫や金魚を育てていた生き物好き。水族館にも子どもの頃から何度も通い、現在もアイドル活動の合間に足を運ぶ。歴史や将棋好きアイドルとしても知られている。

    基礎知識なくして
    生き物は飼えない

    下村:私はもともと勉強が得意ではありませんでした。ただ、好きなことに関しては自然と取り組めるものです。生き物を飼うようになると、適切な飼育方法を知る必要があるため、結果的に勉強せざるを得なくなります。今でこそインターネットで調べられますが、昔は本を探して自分で調べるしかありませんでした。

    当時は生き物に関する研究がドイツでとくに進んでいたこともあり、私は辞書を引きながらドイツ語の専門書や論文を読んでいました。今はすっかり忘れてしまいましたが…。そして水槽の水量を測るための計算には物理の知識が必要ですし、適切な生息環境を整えるためには、その生き物の生息地の気候や水温を調べる必要があります。また地図を広げ、地域ごとの温度や環境条件を確認することも欠かせません。こうした基礎的な知識がなければ、生き物を飼うことはできないんです。学校で学ぶ内容は、実は様々なことにつながっています。もっとしっかり勉強しておけばよかったと思うこともありますが、好きなことを起点に積み重ねていけば、学びは自然と広がり、人生をより豊かにしていくのだと思います。

    鎌田:「勉強」という枠にはめて考えると身構えてしまう方も多いかもしれませんね。でも、水族館のような興味のある対象を入り口として何かを知ること自体が、すでに学びなのだと思います。そしてその経験が、いつか別の分野で基礎となることもある。学校の勉強も「今は使わない」と感じることがあるかもしれませんが、水質の割合を考えるには算数が必要ですし、本を読むには国語の力が欠かせません。そうした知識を薄く何層にも重ねていくことで、人の人生は形づくられていくのだと感じます。

    飼育員の方々を見ていると、水族館の仕事はまさに日々の経験の積み重ねですよね。生き物相手だからこそ数字だけでは測れない部分もたくさんあります。そうした経験則の蓄積もひとつの「学習」のかたちと言えるのではないかと思いました。

    下村:鎌田さんはご自身をふり返ってみて、今につながっていると感じる積み重ねはありますか。

    鎌田:家族が水族館をはじめ、様々な場所に連れ出してくれたことが、今につながっていると感じています。私は歴史も好きなのですが、お城にもよく連れて行ってもらったことで、自然と歴史への関心が深まりました。文字で学ぶことももちろん大切ですが、実際に足を運び、実物に触れることで想像力が大きく膨らみます。そうした体験を子どもの頃に重ねられたことは、とても大きかったと思います。

    下村:アイドルとしての活動も、そうした積み重ねと関係しているのでしょうか。

    鎌田:それも家族が時間をかけて、様々な経験をさせてくれたことの延長にあるのかもしれません。幼い頃からミュージカルやテーマパークに連れて行ってもらい、自然とエンターテインメントに触れる機会がありました。また、SKE48の活動では総選挙※のように順位が明確に示される場面もあり、精神的に追い込まれる状況が少なくありません。ただ、私は幼少期から水泳とクラシックバレエを続けており、どちらも評価や順位が伴う世界でした。その経験があったことで、競争環境の中での楽しみ方や、気持ちのコントロールの仕方を自然と身につけていたのではないかと思います。
    ※総選挙:アイドルグループのファンが、所属するメンバーの人気投票を行うイベント

    「無」になるか、一点に集中するか
    楽しみ方は自由自在

    下村:学びの話にも通じますが、水族館ではあえて何も考えず、ただぼーっと過ごすのがいいと思っています。まるで自分が魚になったかのように、水の中に身を委ねるような感覚ですね。クラゲに癒やし効果があると言われるのは、その動きが、人がリラックスしている時の人間の心臓の動きのリズムに近いからだそうです。

    そもそも人間も、もとは海から生まれた存在です。そうした意味でも、水中の環境は自然とリラックスできるのでしょう。まずは「無」になって眺めてみる。すると「あれは何だろう」「口を開けた」「一匹だけ逆方向に泳いでいる」など、思いがけない発見が自然と生まれてくるはずです。

    鎌田:私も水族館に行くとリラックスできる感覚があります。水の中はやはり別世界で、水面を見ているだけでも美しいですよね。そこに普段出合えない生き物たちが泳いでいるのも魅力です。幼い頃に水泳をしていたこともあって、「こんなふうに美しく泳げたらいいな」と思いながら眺めることもあります。

    下村:「食べたら美味しそうだな」と思いながら見るのだって、決して悪くありません。ジンベエザメを担当していた頃、「これは食べられるんですか?」とよく聞かれましたが、実際には食べることもできます。「気持ち悪い」と感じるのも含めて、感じ方は人それぞれです。しかし「水族館ではこう見るべき」といった固定的な見方を押しつける必要はないと思います。

    鎌田:私も自由に楽しむのが一番だと思いますが、今回、飼育員の方に解説をしていただきながら見て回ったのは、とても新鮮な体験でした。知識を得ながら巡ることで、また別の楽しみ方が広がりますよね。

    下村:最近はガイドツアーも充実していますからね。お泊まりツアーでは、昼間とはまったく異なる様子が見られます。魚たちが静かに眠っていたり、夜行性の生き物が活動を始めたりと、新たな発見があります。

    鎌田:私は同じ水族館に何度も訪れることがあるのですが、何度行っても飽きません。水族館は私たちにとっては非日常の空間なので、ただその場にいるだけでも楽しいんです。子どもの頃に訪れていた水族館を再訪したら生き物が世代交代していたり、「あ、この子見たことがある」と感じたりと、思い出も一緒によみがえります。

    そういえば、名古屋港水族館をクリスマスの時期に訪れた時には、サンタ帽をかぶったチンアナゴのぬいぐるみが飾られていて、館内のあちこちにクリスマス感あふれる演出が施されていました。そうした工夫もとても魅力的でしたね。

    下村:飼育員は来館者に楽しんでもらうために、様々な工夫を重ねています。生き物そのものだけではなく、そうした周辺の演出にも目を向けてみると、楽しみがさらに広がるでしょう。また観察する際には、目、ウロコ、泳ぎ方など、どこか1点に注目してじっくり見るのも面白い。細かな違いに気づくことで、学びにもつながります。子どもの夏休みの自由研究のテーマにもおすすめですよ。

    鎌田:飼育員の方から「魚たちにも表情がある」とうかがったので、表情に注目してみるのも面白そうですね。カニはとくにわかりやすいですし、「この魚は今、怒っているな」とわかる魚がいて、しっかりと感情表現があることに驚きました。

    下村:淡水熱帯魚のシクリッドの仲間などは顕著ですね。サメも怒ると体の色が濃くなったりしますよ。ぜひ、そうした喜怒哀楽の表れを探しながら観察してみてください。

    生き物は無駄な争いをしない
    「個性の美しさ」を教えてくれる

    下村:生き物にも喜怒哀楽はありますが、無駄な争いはしませんし、必要以上に搾取せず、生きるために必要な分だけしか食べません。無欲です。そうしたあり方には、人間が学ぶべき点が多くあると感じます。また、生き物の姿や形には何らかの理由があり、無駄にそうなっているわけでは決してありません。例えばノコギリエイの独特な形状などは一見すると不思議に見えますが、あの形は獲物を一撃で仕留めるためのもので、ちゃんと理にかなっているんです。そう考えると、「なぜこんな形をしているのかな」と想像しながら観察するのも水族館の楽しみ方のひとつですね。

    鎌田:それぞれの生き物は、その土地の環境や生き方に適応する中で進化を重ね、現在の姿になっていると思います。そして私たちは、その姿を見て「美しい」「かっこいい」と感じる。水族館はそうした多様な存在に触れながら、「個性は美しいものなんだ」と実感できる場所だと思います。それと同時に、多様性を学ぶ場でもありますよね。飼育員の方々はそれぞれの生き物の特性に合わせて環境を丁寧に整えていますが、ほんの少し条件が変わるだけで命に関わることもあると聞きました。

    人間も同じで、「自分には合わない」「つらい」と感じるとき、それは自分自身に問題があるのではなく、その環境が「自分の個性と合わなかっただけなんだ」という考え方もできるのかもしれません。水族館という空間が、誰かにとって心を休める「逃げ場」のような存在になってもいいのではないかと思います。

    下村:そうですね。そして、何よりも生き物の命は尊いものです。だからこそ、私たちが魚を食べるときも、「命をいただいている」という意識をもってほしいと思います。今は切り身の状態でしか魚を知らないお子さんも少なくありません。しかし、実際の姿を目にした上で食卓に向き合えば、「この魚の命をいただいているんだ」と思い、残さず食べられるかなと思います。生き物を好きになったら、こんなふうに見方が変わってきます。水族館がそのきっかけになってくれたらいいなと思います。

    鎌田:この本をつくる中で、下村さんには、海の中にはまだ解明されていないことが数多く残されているということを教えていただきました。ということは、これから先、大発見のチャンスがたくさんあるということですよね。例えば20年後、「この本を読んだことがきっかけで、大発見しました!」と言ってくれる人が現れたら、とても素敵だと思います。「この本を何度も読みました…」と、ボロボロになった本書を取り出してくれたら、それ以上にうれしいことはありません。下村さん、今日はどうもありがとうございました。

    前編を読む


     

     

    前編のインタビューから

    -どの水族館に行っても楽しめる 「水族館愛」にあふれた一冊
    -せっかく捕れた川魚を 煮付けにされて大ショック 「命をいただく」感覚
    -「一瞬の輝き」に出合える 実物を見ることの価値

    前編を読む

     

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