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Vol.034 2016.07.15

米国農務省 農務スペシャリスト
倉井 友寛さん

<後編>

目標に向かって
惜しまず努力をすれば
自分の可能性は広げられる

米国農務省 農務スペシャリスト

倉井 友寛 (くらい ともひろ)

三重県生まれ。1998年、スイス公文学園高等部卒業後、カナダ・クイーンズ大学へ進学。アメリカ・コーネル大学大学院修士課程、東京大学大学院博士課程修了後、東大の研究職を経て、国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)へ。現職は、米国農務省に勤務する農務スペシャリスト。

多感な10代を海外で過ごしたことをきっかけに、国際的な課題解決のために貢献したいと視野を広げた倉井友寛さんは、グローバル化する食糧問題や農業政策のフロントランナーとして奔走しています。「スイス公文学園高等部」での学びが、その後の人生を大きく変えたという倉井さんの、「世界から飢餓を無くし、おなかいっぱいになる感覚を世界中の人々に味わってほしい」という壮大な目標の源流を探ります。

目次

    自分の進む道を決めた一冊の本との出会い
    世界の広さを教えてくれた大学生活

    倉井友寛さん

    スイス公文学園高等部(以下、KLAS)に進学すると決めた時から、日本の大学に進学する意識はありませんでした。ですから、高校2年生からは迷わず海外の大学に進学するプログラムを選択しました。当時はスタンフォード大学を志望していたので、高校在学中にはスタンフォードのサマースクールにも参加しました。サマースクールにもさまざまな種類がありますが、私が参加したプログラムは大学の単位が取得できるもので、世界中からさまざまなバックグラウンドを持つ高校生が集まっていました。改めて世界の広さを感じると同時に、彼らとの意見交換や会話を通して、それまでの高校生活にはなかったさらなる刺激を受けました。

    そこで受講した授業を通して『The Population Bomb』という一冊の本に出会いました。「このままいくと人口が増えすぎて食べ物がなくなる」という内容を含んでいたのですが、高校生の自分にとってそれは衝撃的でした。世界規模で物事を俯瞰して考えるという経験が当時の私には乏しかったこともあるかもしれません。それまで私は国際弁護士に憧れて目指していましたが、この本が食糧問題や関連する国家安全保障問題に関わりたいという目標を持つきっかけになりました。その切り替えは結構早かったですね。

    いい意味で若かったのだと思います。「飢餓を無くしたい」という漠然とした目標に、全身でぶつかることができました。しかし、大学受験で志望校への入学は叶わず、私にとって初めての大きな挫折であり、良い意味で自分と向き合い、1 から出直す良い機会となりました。カナダのクイーンズ大学に進学することに対し、入学前は不本意な思いもあったのですが、クイーンズ大学では素晴らしい能力や個性を持つ多様な同世代の人たちに囲まれて、自分の了見の狭さを思い知りました。今では、この挫折もある種の「導き」であり、気持ちも目標も新たに新天地で再出発をしたことが現在の私に繋がっているとさえ思っています。

    こうした私自身の経験からも、若い方々には積極的に海外にも飛び出して欲しいですね。一般的には、小学校から中学校、高校、そして大学と少しずつ触れる世界が広がっていきます。それに伴って、出会う人や活動範囲も自宅のある小学校区内から町、県、全国へと広がっていくでしょう。その中でさまざまな新しい価値観や刺激を受けることと思います。国外というさらに大きな枠組みに身を置くことで享受する経験は、グローバル化が進む今後を生きる若い方々にとっては大きな糧になることと思います。

    「グローバルに仕事をする」とは?

    「違い」を理解、尊重しながら共に目的に向かう
    これがグローバルに仕事をするということ

    倉井友寛さん

    10代、20代の多感な時期を海外で過ごし、さまざまな経験をしてきましたが、文化背景が違う人たちと細かいレベルで相互に理解することは本当に難しいと感じています。だからこそ、理解できなかった点や誤解を生んだ点について丁寧に解決し、今後の相互理解につなげるということは絶対に怠りません。とても難しいことですが、根本は人と人ですからわかり合えるものと信じています。グローバルに仕事をするというのは、国境を越えたビジネスパートナーとお互いの「違い」を理解・尊重しながら、目的に向かってアプローチすることだと思います。

    さてここまで大風呂敷を広げましたが、目標の実現に向けたこれからの具体的なキャリアパスについては……わからないというのが正直なところです(笑)。ただ、食糧安全保障の問題の解決もしくは改善に貢献したいという目標と思いは変わりません。世界中の人に「おなかいっぱいになる感覚」とその幸せを享受してほしいのです。その解決に向けたアプローチは多様だと思いますが、この問題の背景には高度に政治的・経済的な課題が複合的に絡んでいます。その解決の一端に微力ながら尽力できたら、こんなに幸せなことはありませんね。そのためには、努力を惜しまないつもりです。

    私は小さい頃から「努力をすること」を怠らないよう教えられてきました。特に、今何をすべきか不明瞭な時ほど今目の前にあることに全力で打ち込む。そうすれば自ずと道が見えてくる、というのは海外で一人暮らしを始める際に両親から教えられた言葉であり、現在でも自身の指針の一つとしています。実際、努力して結果が出れば何か次に繋がりますしね。上杉鷹山の言葉に「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」で始まる一節がありますが、私はここに続くフレーズがとくに好きなんです。「成らぬは人の為さぬなりけり」。 ―結果が伴わないのは、努力が足らないからである―

    倉井さんから子どもたちへのメッセージとは?

    すべての基礎学習は、個人の可能性を広げるためにある

    倉井友寛さん

    何においても常に全力で取り組むことを意識しておりますが、仕事で高いパフォーマンスを維持していく上ではワークライフバランスも重要視しています。博士課程を修了したあと最初に就いた研究職では毎日仕事で午前様が当たり前。1分1秒でも先に論文を出したものが勝ちという世界でしたし、とても充実した時間でしたので特段苦に思ったことはありませんでしたが。幸いなことに現在の職は、ワークライフバランスをとりやすい仕事で、オンとオフの切り替えをしっかりし家族との時間も大切にしています。

    親となったことで教育をこれまでとは違った形で熟慮する立場になりましたが、やはりわが子も公文で学ばせています。自身の経験から、妻には「そばにいて見守ってやること」と「子どもには1枚でも1問でもいいから毎日教材に取り組ませてほしい」と伝えています。これは、私自身が母親に見守られて公文の学習をしていたのと、公文の先生から「1日1分でも1問でもいいから数学と向き合って、数学脳を使うことが大切」とよく言われていたからです。

    私は、「やりたいことがあるのに、その土台がないためにできない」というのが一番つらいことだと思います。子どもたちにとっての学ぶことの意味は、「本当にやりたいことができたときに選択肢の幅を持たせることができる」という点に尽きるのではないでしょうか。例えば、算数が将来何の役に立つのか?という思いを持っている子も多いと思います。でも、算数・数学ができないことで就けない職業や達成が難しくなる目標は多いですよ。そして算数や数学の力は一朝一夕で身につくものではありません。ですから、子どもたちが秘めている無限の可能性を引き出すためにも、基礎学習を大切にしてほしいと思います。“算数ができないから私は文系”という開き直りは、公文をがんばる子たちにはできればしてもらいたくないですね。私は、すべての基礎学習は個人の可能性を広げるためにあると思っています。そして培った基礎学力は自信になり、いつか大きな可能性へと続いていきます。

    前編を読む

    関連リンク米国農務省(United States Department of Agriculture)米国農務省日本代表事務所 (USDA Foreign Agricultural Services Japan)国際半乾燥作物研究所 (International Crops Research Institute for the Semi-Arid Tropics; ICRISAT)スイス公文学園高等部


    倉井友寛さん  

    前編のインタビューから

    -倉井さんの現在のお仕事
    -倉井さんの人生の転機となったインドネシアでの生活
    -スイス公文学園高等部で身につけたこととは?

    前編を読む

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