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Vol.251 2018.03.27

療育のなかのKUMON-放課後等デイサービスでの取り組み

障害のある子たちによりそい
一人ひとりが幸せになるサポートをしたい
~ ライフステージに合わせた“つながる療育支援”をめざして ~

「放課後等デイサービス」。ここ数年、よく見聞きするようになった言葉ではないでしょうか。障害のある子たち(6~18歳)を対象として、その名のとおり、放課後や学校がお休みの日などに利用できる「療育の場」としての福祉サービスです。2012年からスタートした比較的新しい福祉制度ですが、子どもたちの将来の自立のために、学校での教育とあいまってとても大切だと認識されるようになってきました。今回は千葉県千葉市からのレポートです。

目次

    障害のある子たちの保護者が切望していた「放課後等デイサービス」

    放課後等デイサービス 斉藤すみ子さん斉藤すみ子さん

    JR千葉駅の東口方面に出て、デパート・量販店・銀行などが立ち並ぶ中心街を抜けた旧街道沿いにキッズルームチャコ(以下「チャコ」と表記)の本部と事業所があります。1階は夜間保育を含む0歳児からの子どもたちを預かる小規模保育事業の認可園、2階が今回ご紹介する障害のある小中高生を対象とした放課後等デイサービスです。すぐそばの別棟には児童発達支援があり、こちらは2歳くらいから年長までの子どもたちが通ってきます。

    平日は午後3時ごろになると子どもたちが集まりはじめ、夕方までが“子どもたちファースト”の時間。チャコでは、まず全員で歩行や集会、リズム運動などをしたあと学習の時間(公文式算数と国語、後述)になります。チャコを運営するトレンディワールド社の斉藤すみ子さん(取締役)に、放課後等デイサービスをスタートさせた経緯をうかがってみました。

     「弊社の主な事業は保育とベビーシッター事業で、放課後等デイサービスや児童発達支援を手がける前から、障害の有無にかかわりなく、未就学のお子さんたちをお預かりしてきました。そのなかで学ばせていただいたことは、ふつうのお子さんの子育てでもたいへんなのに、障害があるとその困り度が何倍にもなることでした。さらにたいへんなのは小学校へ入学してからです。生活面、行動面、メンタル面などで課題や問題が一気にふき出してくるような印象があり、お子さん本人もですが、ご家族の疲労困憊ぶりがいたたまれませんでした」

    「小学校に上がってからもなんとかサポートできないものかと考えたのですが、制度上の壁もありもどかしい気持ちが続いていました。ところが、2012年に児童福祉法が改正され、放課後等デイサービスという福祉サービスが手がけられるとわかりました。さっそく、うちの保育園に通っていただいたことのあるお母さん方にうかがってみると、“毎日、無為にすごす放課後の時間がもったいない”、“そもそもうちの子には放課後の居場所がない”、“将来の自立のために、学校の教育だけでよいのか心配”といったご意見が。まさに保護者の方たちが切望していた福祉サービスだとわかりました。みなさんの悲願だったのですね」

    ちなみに、トレンディワールド社の理念は「ご家族が幸せになるサービスを提供する」「健やかな子育て・子育ちのパートナーである」のふたつ。制度ができてすぐの2012年から放課後等デイサービスをスタートさせたのも、この理念に沿っての実践だったわけです。

    ※放課後等デイサービス
    小学生から高校生の障害のある子や発達に課題や特性のある子を対象に、生活能力の向上や将来の自立支援のための療育を提供する福祉サービス(児童福祉法)。運営母体は社会福祉法人、NPO法人、株式会社をはじめさまざまで、提供される療育内容やプログラムも運動系、学習系、音楽系など多種多様。6歳から18歳までの就学年齢の子どもたちが利用でき、ほとんどの放課後等デイサービス事業所は定員が10人となっている。同じ仕組みで、未就学の障害のある子を対象とした「児童発達支援」という福祉サービスもある。

    療育プログラムに公文式を選んだ理由とは?

    障害があるからこそ、子ども時代から“生きる力”を育てたい

    放課後等デイサービス 斉藤玄樹さん斉藤玄樹さん

    こんどは同社の斉藤玄樹さんに、チャコの療育方針や公文式学習を放課後等デイサービスでの療育プログラムに導入しようと考えた理由をうかがってみました。

    「放課後等デイサービスと児童発達支援をはじめるにあたって、スタッフ全員で熟考し共有したことがあります。それは、保護者の方たちの期待を考えたとき、とても大きな責任を担うという自覚。そして、その期待に応えるために、きちんとした療育の方針を立てようということ。そのなかから出てきたのが、“社会のなかで『生きる力』を身につけてほしい”という方針であり、身辺自立・集団適応・学習支援という、わたしたちが考える療育の3本柱です」

    「障害のある子たち対象の療育や教育を学び、実践を通してさらにレベルアップをと考えていました。そうして身辺自立や集団適応には手応えを感じられるようになったのですが、学習支援については課題がたくさんありました。たとえば、保育ではプロであっても教育のプロではないため、教えるスキルやレベルにスタッフ間で個人差がある。障害が重いレベルの子にも、自分の名前が書け、簡単なお金の計算ができるだけの基礎的な読み書き計算をどう教えたらよいかの指針が見えない。それ以前に、きちんと席にすわって学習に取り組めない子もいる…などです。そんなとき、障害者や障害児支援施設での公文式導入を知ったのが公文との出会いでした」

    学習支援のさまざまな課題が公文式なら解決できそうだと斉藤玄樹さんは考え、2016年からチャコの放課後等デイサービスと児童発達支援では、従来からの療育支援とともに公文式学習を療育プログラムとして提供するようになりました。とはいえ、公文式学習をすることにチャコのスタッフのみなさんがもろ手を挙げて喜んだわけではなく、やはり心配や不安もあったそうです。そのあたりのことを現在の状況と比べて、スタッフの方2人にふり返っていただきました。まず、児童発達支援(未就学の障害のある子対象)の指導員、宮澤さん。

    放課後等デイサービス 宮澤さん宮澤さん

    「現在、児童発達支援には2~3歳の子から年長さんまで通ってきていますが、なかでも印象に強く残る子がいます。当時3歳だった女の子。わたしも含め、スタッフの髪の毛をひっぱったりかみついたりがありました。こういう子に学習ができるだろうか? 学習してどんな効果があるだろうか?という疑問はあったのですが、とにかく手を添えてでも運筆のプリント教材に線を引いてみようと週4日のペースで学習を続けてみました。はじめのころは手を添えられるのをいやがったり、鉛筆もうまく持てなかったりでしたが、“まっすぐ線が引けたね”、“きれいに書けたね”とほめ言葉をかけながら学習していくと、だんだん自分から線を引こうとする動きになり、10か月がたつころには手を添えなくても、始点から終点へきちんと線が引けるようになりました。不思議なのは、そのころになると髪の毛のひっぱりやかみつきはほとんどなくなり、表情もとてもやさしくなっていたことです」

    公文式で子どもたちに育ててほしいのは“自己肯定感”

    放課後等デイサービス 伊藤さん伊藤さん

    2人目は放課後等デイサービスの指導員の伊藤さんです。

    「公文の学習をすると聞いたとき、正直心配はいくつもありました。鉛筆を持つのもままならない子が学習できるのかな? 障害が重い子も少なくないのに、いっせいに限られた時間のなかで学習ができるのかな?といったことです。でも、いまふり返れば心配しすぎでした。確かにはじめのころは席にすわらない子、集中が続かない子が目立ちましたが、日を追うごとに学習姿勢がよくなっていきました。すごく嬉しかったのは、発語のない子がスタッフに手を添えられて運筆の教材を学習していたのですが、ある日、その子がキラキラした瞳で“自分ひとりでやりたい”と目でうったえてきたことです。そして、実際にひとりできちんと線を引いたのです。思わずたくさんのほめ言葉が出てくるのと同時に、その成長にわたしたちスタッフが元気をもらいました」

    ふたたび斉藤玄樹さんです。

    「以前から自己肯定感はとても大切だと考えていましたが、この2年近くの公文式の学習指導でのお子さんたちの変化と成長を目の当たりにすると、子どもたちの成長には不可欠なものだと実感できます。できたことをほめられるという積み重ねが、自信を生み、さらに“オレってイケてるよね!”“ワタシってもっといろんなことができるかも!”という自己肯定感を育てていけるのだと思います。学力はその結果として付いてくるとも思っています。昨年の春から、児童発達支援と放課後等デイサービスに加え、障害のある方対象の自立訓練と就労移行支援事業もスタートさせ、こちらでも公文式学習をその支援プログラムのメインにしています。その大きなねらいも、同じく自己肯定感です。自己肯定感は自分を信じる力と考えてもいいと思います。自己肯定感があるからこそ、夢や希望がもて、自己実現をしようという気持ちもでてくるはずです。幼児期、小中高の時期、大人というライフステージの違いはありますが、それぞれのステージに合わせた支援をして、幸せな人生を歩んでいけるサポートができればと考えています」

    子どもの変化と保護者の方々の声

    「見違えるように自信あふれる子になりました」

    チャコに通ってくる子どもたちの保護者の方たちのお話でこのレポートをしめくくることにしましょう。

    *年長の女の子のお母様(ダウン症)
    「どう育ててよいかほとんど情報がなかったのですが、3歳のころにここに来て受け入れていただき、心身ともによりどころができたような感じで親子ともども安心しました。障害があるので何もできないのかなと思っていたら、いまは自分の名前もひらがなで書けますし、“これなあに?”、“あれなあに?”と質問も増えましたね。家でも自分から進んでやる場面が多くなりましたが、ここではほかの子に率先してあいさつをしたり学習したりするというのを聞いて驚いています」

    *小3の女の子のお母様(発達障害)
    「初めての場所が苦手な子なので、ここにはじめて来たころは慣れなくて不安だったようですが、いまではすっかりなじんでいます。集団で何かをするという習慣は家ではなかなか身につかないので、こういう場所はとても貴重です。それに学習指導もあり、名前も書け、数字も書けるようになりました。以前はパニックになると自分の髪の毛をむしってしまうこともありましたが、いまはとても落ち着いていて、絵がとても上手に描けるというのもわかってよかったです」

    *中2の女の子のお母様(知的障害)
    「チャコさんで放課後等デイサービスをはじめてすぐからお世話になっています。いまの状態からはまったく想像できないと思いますが、はじめのころは自信がなく、意欲も低い子でした。見て書くのが苦手なので算数も国語もきらいでした。言葉も少なく、コミュニケーションもうまくできませんでしたね。そのあたりがなんとかなればとここに来たのですが、いまはまるで別人かと見違えるほどです。何事にも意欲的ですし、なにより中2の女の子としての話ができるようになり、自信に満ちあふれています。苦手意識が強かった算数の教材にも取り組めているのでうれしいです」

    保護者のみなさんのお話を聞いていて思いました。チャコのスタッフのみなさんは、子どもたちの人生の応援団なのだと。

    関連リンク “つながる”療育支援―児童発達支援、放課後等デイサービス、自立訓練・就労移行支援施設での公文式 キッズルームチャコ(放課後等デイサービス) 厚生労働省 (障害児支援施策)

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