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Vol.105 2024.08.29

作家・英訳者
清涼院流水さん

<後編>

努力が苦にならない分野こそ才能でありギフト
ストッパーをかけずに没頭しよう
好きなことを「とことん」ルーツは公文

作家・英訳者

清涼院 流水 (せいりょういん りゅうすい)

1974年兵庫県生まれ。京都大学経済学部在学中の1996年に『コズミック』(講談社)により第2回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。以降、『ジョーカー』、『カーニバル』などミステリー作品を多数発表。30歳を超えて英語学習に目覚め、TOEICテストで満点を5回獲得したことから英語学習の書籍も多い。2020年にカトリック信徒となり、キリスト教に関する書籍も執筆。現在、「The BBB(作家の英語圏進出プロジェクト)」編集長も務める。この8月に『名探偵の英単語』(くもん出版)を上梓。

小説家と英訳者の二刀流という、他には類を見ない才能を発揮されている清涼院流水さん。幼少期は喘息(ぜんそく)持ちで運動もできず秀でたものが何もなく、周りは年上ばかりで同年代の子どももいない環境。つらかった幼少期を救ってくれたのが「公文」だったとふり返ります。子どものときに公文を夢中でやっていた頃のように、実は30歳過ぎてから夢中になった英語学習。好きなことを「とことん」やって結果を出すルーツが公文。大人の今でもその性質は変わらないそうです。公文で学ぶ子どもたち、そして保護者に向けて、人生がうまくいく努力の仕方について、これまでの人生をふり返りながら教えていただきました。

目次

英語にはまったのは30歳を過ぎてから
「スムーズ暗唱」と「カンニング英訳」を考案

ミステリー小説で作家デビューした私は、今では英語の学習法についての書籍も執筆しています。きっかけは、執筆の息抜きで始めた英語の勉強に夢中になったことでした。TOEIC満点を5回も獲得することができ、その勉強法をビジネス雑誌に連載するようになったんです。そして今では作家仲間が書いた小説を毎日英訳し、世界中で発売しています。

清涼院流水さん

英語学習関連本にも書いていますが、実は私はずっと英語が大の苦手でした。京大に現役合格するぐらいだから元々英語はできたのだろうと思われがちですが、本当に英語ができませんでした。前編で述べたように、京大の入試は論文で受験し、英語は受験していません。

30歳を過ぎて英語学習を始めたことがとてもよかったと思います。なぜなら、誰からも何も強制されずに、自分で好きなときに好きなだけ勉強することができたから。これは幼少期の公文式とまったく一緒です。このことはとても重要で、ほかの勉強でも仕事でも、すべてにおいて同じだと思います。好きで続けていれば、結果は後からついてきます。

では30歳を過ぎてどのように英語を学習したのかというと、詳しい話は長くなりますので、ここでは要点だけお話しします。まず私の自論ですが、お勧めの英語学習としてよく言われる「多読多聴」は英語ができる人向けです。上級者であっても多読多聴は大変なので、単語力も文法力もない初級者は、最初は一文ずつ、丁寧にしっかり読んで、聞き取って理解する「精読精聴」をするといいでしょう。きっちり理解した英語を復習として「多読多聴」するのは大賛成です。

語学はどれだけインプットしてもアウトプット練習しない限り上達しません。そこで独自に考案したのが、「スムーズ暗唱」と「カンニング英訳」です。「暗唱」というのは、文字を見ずに記憶した文章を声に出すことですが、スムーズに言えるまで仕上げるのが、私の提唱する「スムーズ暗唱」です。そしてその準備段階として有効なのが「カンニング英訳」です。和文を見て英文に翻訳するのが英訳ですが、最初はうまくできないので正解の英文をチラ見してカンニングしながら英訳するのです。最終的にはカンニングせずに再現できるようになれば、それが「スムーズ暗唱」につながります。

TOEICは、自分の現在の英語力を知るために受けました。大人のやり直し英語学習を始めて3年後の2008年に初受験したときは595点でしたが、2010年に900点を突破、その後満点の990点を5回獲得できました。

この8月にはくもん出版から『名探偵の英単語』が発売されます。英語の基礎固めをしたいお子さんや学び直しをしたいという大人の方にはぴったりだと思います。ミステリー小説を読みながら英語を学べるという、これまでにない楽しい構成になっています。英語に苦手意識のある人に「英語って楽しいな」と思ってもらえるきっかけになれば嬉しいですね。

反対の声に負けないで
夢を見る子が叶えられる世の中になってほしい

清涼院流水さん

私は、「作家になりたい」という子が一人でも多く作家になることを心の底から願っていて、そういう夢のあるお子さんの味方でありたいと思っています。というのは、私が「作家になりたい」と言ったとき、誰一人味方をしてくれなかったからです。母は、自分もアーティストなので、男兄弟3人のうち私だけは芸術家の道へ…と期待していたわりには、私が作家になりたいと伝えたら、「作家では食っていけないから、お願いだからやめて」と学生時代に毎晩泣きながら電話をかけてきたくらいです。

ところが私が作家になって本が売れると、「私が一度も反対しなかったおかげで作家になれた」と、手のひらを返したようなことを言っていました(苦笑)。母だけでなく、私が作家になることに反対した人全員が「なれると思っていた」と、手のひら返し。それで、何かチャレンジするときに反対されること、そしてそれが成功したときに手のひらを返されるということは当たり前なんだと悟り、何を言われても気にならなくなりました。これが当たり前だと思えば腹は立ちません。なので、子どもたちも周囲から反対されても、足を引っ張られても、やりたいと思ったことはとことんやって、自分の夢を純粋に追いかけてほしいです。

とはいえ、その夢を叶えるのは決してらくではありません。作家の場合、デビューさえすれば一生安泰ではなく、作家であり続けることの方がずっと難しい。でも、公文式を続けている子の中から作家になる子が必ず出てくるでしょうし、専業作家にならなくても別に本職を持って兼業で細々と書き続けるのもいいと思います。そういう人と「お互い公文式で育ちましたね」などと語り合える日が来ることを期待しています。

そんなふうに、「夢を見ている子」たちが夢を叶えられるような社会になるといいな、というのが私の夢のひとつです。作家は世の中で一番不安定な職業なので、生活の安定を求めるのであれば、客観的にはお勧めできません。でも夢を追う人は、全力で応援したいですね。

「作家であり続ける」ためにはどうしたらいいかというと、努力はもちろん必要ですが、努力だけではなく「運」も大事。運とは「時代との相性」です。時代から求められなければ、作家であり続けることも終わってしまいます。私自身、28年も作家を続けられているのは幸運だと思っていて、運命というものに畏(おそ)れのような思いも抱いています。それがクリスチャンになったことにも関係しています。自分は並外れた幸運をいただいたと思っているので、つりあいをとるために、できるだけ日々善行を積むように心がけています。このインタビューも、何かひとつでも子どもたちや保護者、読者の方の心に響けばいいなと思っています。

1冊の本が人生を変えることがある
本を出すことを通じて世の中に貢献していきたい

清涼院流水さん
清涼院流水さんの座右の銘
「努力が苦でない分野こそ才能(ギフト)」

「努力はもちろん必要」とお伝えしましたが、その「努力」については、思うところがあります。それが子どもたちに一番伝えたいメッセージで、私の座右の銘でもある「努力が苦でない分野こそ才能」ということです。「才能」には「ギフト」というふりがなをつけたいと思います。ギフトというのは「神様からの贈り物」という意味です。

私は「努力したら必ず成功できる」という嘘だけは言ってはいけないと思っています。確かに努力して成功する人はいますが、「努力しても、うまくいくことばかりではない」という真実は、人生を重ねていくと誰でもわかることです。

「努力したら必ず成功できる」と言ってしまうと、「努力したのにうまくいかなかった。自分はなんてダメな人間なんだ」と、子どもは自信を失ってしまい、やる気をなくしてしまいます。単にその努力した分野が「向いていなかった」だけであり、他の分野だったら天才的な可能性を秘めているかもしれません。

私自身、算数や国語に関しては努力することが苦ではありませんでした。それはやはり、向いていたからです。理科はとにかく苦手で、親から勉強しなさいと言われましたが不得意だったので、いつもイヤイヤやっていたから結果は出ませんでした。向き不向きは誰にでもあって、ムリなことを頑張って続けてもうまくいきません。

なので保護者の方にお願いしたいのは、お子さんがひとつの分野で努力してうまくいかないときに否定しないで、ということです。保護者が「がんばりなさい」と言わなくても、好きな分野なら子どもは自然に努力します。それはもはや「努力」ではないんです。

なので、いろんなことをやってみて、「できなかった」=「自分に向いていなかった」なら、また別のことをやってみる。それをくり返していれば、必ず自分に合うものが見つかります。自分に合うものを見つけたら、ストッパーをはずしてとことんやってみる。そうすることを続けていれば人生はうまくいく。それが私の信念です。

私は理想郷に憧れています。皆お互いをリスペクトし合え、やりたいことができるような社会にしたい。今、英語でも活動しているので海外からの反応もいただきます。リスペクトし合う社会をグローバルに広げていけたら、もっと平和な世の中になるでしょう。

その方法のひとつが本だと思っています。1冊の本が読者の人生を変えることがあるので、その影響力は侮れません。だからこそ、きちんとしたメッセージを届けたい。そうすることで、かなり多くの人の人生を良い方向に動かすことができるのではないかと思っています。世界で起こっている愚かな紛争は、誰も止められない状況ですが、本の力で人間の精神を良い方向に変えれば、長期的には戦争を起こさないようにできる可能性があると、希望を抱いています。

私は自分の才能を最大限使って、世の中の役に立つことをしたい。それが本を出すということです。自分が執筆できる間は、全力で取り組んでいきたいと思っています。

前編を読む

 


 

 

前編のインタビューから

-「自作執筆」と「他者作品の英訳」の二刀流
-公文式をやっていなければ さえない子どもだった
-中学・高校時代は勉強が嫌になり当時の夢はゲームクリエイター

前編を読む

 

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