その街の歴史、社会が建物をつくるぼくの建築へのアプローチ

東京の品川駅の湾岸側に、品川インターシティと品川グランドコモンズという高層ビル群があります。これらの建物は同じような高さで並んでいますが、それはなぜだかわかりますか。近くに羽田空港があって、飛行機の離発着とぶつからない高さの制限ぎりぎりに合わせているからなんです。そんなふうに、「この建物はなんでこんな形でこんなところにあるのかな?」という視点で建築を見ると、その街独自の歴史や背景、文化が見えてきます。もちろん、純粋に芸術として、「デザインがいいね」という見方もできますし、奇抜な形の建築でも構造的な裏付けがないと建てられないので、工学的な視点で見ることもできます。
一方で、社会環境が建築をつくらせる場合もあります。たとえば小学校が建てられているのは公的な教育制度があるからで、制度がなかった大昔には学校という建物はありませんでした。国会議事堂も議会制度をもとに作られました。建築は雑多なものの集積です。だから、いろんな切り口から見ることができて、何にでもつながっていく。さまざまなことが読み取れて、街を歩いていても飽きません。建築をつくったりデザインするのではなく周辺の物語に着目する、それがぼくの建築への関わり方です。
日本で建築学が属するのは、一般的に工学部ですが、幅広い分野にまたがります。耐震構造の研究など、純粋に「工学」に近いものから、構法や材料、またリサイクルを考えたり、空調などをコントロールするといった、「環境」からのアプローチ、設計・デザインという「芸術」的なアプローチもありますし、間取りや配置などを考える「計画学」、さらには「歴史学」など、人文系に限りなく近い分野のものまであります。
ぼくはもともと歴史学が専門で、現在、東北大学大学院の教授として、都市・建築デザイン学の研究室をもち、近現代の建築史や建築論・都市論のほか、設計・デザインの授業も担当しています。ただ、「歴史」の対象とされるのは、だいたい50年以上経ってからのものなので、比較的新しいものについては、批評あるいは評論となります。それで「建築批評家」という肩書きをつけています。