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Vol.075 2023.07.21

認知症専門医/ライフドクター®
長谷川嘉哉さん

<前編>

自分の「得意」を認識して
自分の頭でしっかり考え、
行動できる大人になろう

認知症専門医/ライフドクター®

長谷川 嘉哉 (はせがわ よしや)

医療法人ブレイングループ理事長。1966年愛知県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業。2000年に認知症専門外来および在宅医療の実践のため岐阜県土岐市で開業し、在宅生活を医療・介護・福祉の分野で支えるサービスを展開。訪問診療は開業以来6万件以上、在宅看取りは600人以上。ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、病気だけでなく生活、家族も診るライフドクターとして、患者さんやその家族への助言にとどまらず、企業などでも講演。著書に『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た! どうする? どうなる?』『認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい!』(以上、かんき出版)ほか多数。医学博士、日本神経学会専門医、日本内科学会専門医、日本老年医学会専門医。

同居していた祖父が認知症であった経験から、認知症専門医となった長谷川嘉哉さん。毎月約1,000人の外来診療に、訪問診療、在宅看取り、講演や執筆に加え、診療の現場から見えてくる“本当に必要な情報”を、わかりやすくYouTubeやブログで発信し、「知ることができてよかった」「救われた」など、感謝と共感を集めています。長谷川さんが運営する施設では、「脳のトレーニング」としてKUMONの学習療法を取り入れ、「体のトレーニング」とともに、患者さんの「できるだけ長く元気に暮らす」を実現されています。ご自身の経験を踏まえ、未来を生きる子どもたちに力強いメッセージをいただきました。

目次

認知症の「春」から「冬」までを一貫して支える

私は認知症の専門医として、岐阜県の土岐市にあるクリニックで、認知症外来および在宅医療をしています。そのほかに高齢者介護施設を経営し、近隣のグループホームなど16の高齢者施設の協力医もしています。

ボケ日和
『ボケ日和』(左) と『ボケ日和』を原案として
カラテカの矢部太郎さんがマンガ化した
『マンガぼけ日和』

認知症とひとくちにいっても、様々な方がいるのはご存じだと思います。私の著作『ボケ日和』の中では、認知症がたどる経過を「春」「夏」「秋」「冬」で表現しています。「春」は認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)、「夏」は記憶障害などの中核症状が出始める頃、「秋」は妄想や暴言などが増える時期で、「冬」になると生活のすべてに介助が必要になり、人生の終幕を迎える気配が近づきます。この一連の段階に広く関わっているのが、私の仕事の特徴です。

私は大学病院など大病院で働いていたこともありますが、そこでは夏、せいぜい秋までを診るくらいでした。でも最後に必ず「冬」が来ます。ですが、多くの病院では、「冬」の段階は伝えません。あまりにも現実的過ぎるからなのかもしれませんが、この「冬」が、当人も介護者も一番困っている段階なのです。

たとえば「冬」の段階で施設に入所したとして、食べられなくなれば、次には胃ろうをするのか、しないのかという選択をしなくてはなりませんし、その施設が看取りをしてくれなければ、入院先を探さねばなりません。そうしたことまで考えて施設を選ぶべきですが、そこまでは考えていない人が多いように感じます。

そこで、少しでもよりよい理解につながればと、1年半前からYouTubeチャンネル「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」を始めました。チャンネル登録者数は5.8万人を超え、総再生回数は930万回に上り、私自身も驚いています。それだけみなさん、当事者が直面する問題やその解決方法に関する情報をほしがっているんだなと改めて感じています。ちなみに視聴者の8割が55歳以上の女性です。

医療のことだけでなく本の感想なども含んだブログも好評で、600万アクセスになった記事もあります。健康に関するお役立ち情報はもちろん、専門的な医療情報をわかりやすくまとめているので、ぜひのぞいてみてください。

「ピンピンコロリ」を目指し
「脳のリハビリ」と「体のリハビリ」を導入

多くの方にとって、できるだけピンピンと元気に過ごし、最期は自宅で家族に見守られコロリと逝く、「ピンピンコロリ」は理想ではないかと思います。「コロリ」と亡くなるには、できるだけ元気でいる時間を長く持たねばなりません。そのためには「脳のリハビリ」と「体のリハビリ」が必要だと思っています。両方とも脳にとって情報処理活動であり、脳を活性化することにつながるのです。

そのため、運営するデイケアセンターでは、脳のリハビリとしてKUMONの学習療法を導入しています。どんな方法がいいか、いろいろ調べた結果、一番シンプルで費用も安く、継続しやすいと感じたからです。加えてKUMONなら、子どもから大人まで誰もが知っています。とくに説明しなくても、「生まれてから死ぬまでKUMONやらなきゃ」というと、ご本人やご家族にすっと受け入れられやすいのです。このブランド力は大きな強みだと思います。実際、患者さんたちは継続して取り組んでいますから、私の選択は正しかったと実感しています。

デイケアセンターでは2010年4月から導入し、毎月40~50名が学習しています。そのほか系列のグループホームでも取り入れています。内容としては、簡単な音読と計算です。人間の頭は、複雑な作業ではかえって脳の一部しか使わなくなってしまいます。簡単な作業のほうが、脳全体を使うのでリハビリには有効なのです。「学習療法実践士」の資格をもったスタッフが在籍していて、個人に合った教材を選んで学習を進めています。

「体のリハビリ」というのは、パワーリハビリ、略して「パワリハ」です。スポーツジムにあるような手足を曲げたりする6機種の機械を使用して、ふだん使っていない筋肉をまんべんなく動かします。体の動きが良くなり、体力もつきます。それだけでなく、軽い負荷の有酸素運動により、さまざまな成分が分泌され、それによってうつ症状や認知症症状が改善されることが期待できます。

認知症の改善には、こうしたご本人のリハビリのほか、ご家族の関わり方も大きく影響します。関心を持ち、声をかけたり、一緒に散歩したりということが、最も効果のあるリハビリだと感じます。

祖父の認知症をきっかけに医師を志す
経営者にあこがれた時期も

我が家は祖父や父を初め、親戚に銀行員が多い家系でした。日曜には父が計算式をつくってくれ、それを私が回答するということをゲーム感覚でやっていましたね。そろばんもほかの子よりもできた記憶があります。小学3年生の頃には利息計算も理解していました。やはり家庭環境なのか…と思われがちですが、姉は数学に関してはまったく苦手で英語が得意。なので、一概に環境が影響しているとは言えないようです。

長谷川 嘉哉

祖父はそろばんの有段者で、銀行でも出世していました。ところが定年後、伴侶である祖母を病気で亡くしてから、少しずつ様子がおかしくなっていきました。私が小4の頃です。当時は私と姉、両親、そして祖父で暮らしていたのですが、それぞれ忙しく、祖父をみていたのが母でした。当時は現在のようなデイサービスもなかったので、母は相当大変だったと思います。

祖父は私が中3の時に亡くなりました。このとき「もっとしてあげられることがあったのでは…」と強く後悔し、「認知症と関わる仕事をしよう」と思うようになりました。母のように介護で大変な思いをしている人の助けになりたいと思ったことも、今の選択に影響していると思います。

ただ、大学進学時は経済学部か医学部かで悩みました。先ほどお伝えしたように、「数字」が身近だったこともあり、業績という数字がダイレクトに実感できるビジネスをやりたいという気持ちもあったのです。しかし初志貫徹して医学部に進み、現在に至っています。おもしろいのは、いま私は、ファイナンシャルプランナーの資格も取得していますし、コンサルティングもすれば、経営もしています。当時「やってみたい」と考えていたことを、実現できているんですよね。

よく、「これまで挫折はなかったんですか。どう乗り越えてきましたか」などと聞かれることがありますが、それは愚問だと思います。振り返ってみればつらかったと思うことはあるかもしれませんが、自分で考えて決めたことですし、自分でなんとかするしかありません。

そもそも私には、つらいから辞めるという選択肢はありませんでした。現状を把握して、やりきるしかありません。時間が解決してくれることもあります。そして、一度乗り越える経験をすると、以降は「なんとかなる、する」と思えるようになります。

後編を読む

関連リンク医療法人ブレイングループ長谷川嘉哉オフィシャルサイト長谷川嘉哉チャンネル「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」 – YouTube長谷川 嘉哉Facebook長谷川 嘉哉Twitter

長谷川 嘉哉  

後編のインタビューから

-ビジネスは必要とされる「空白地帯」を見つけることから
-自分を正しく認識すれば、「好き」なことにも気づける
-子どもの可能性をつぶさないために、親がまず学ぶ

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