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Vol.050 2017.12.01

株式会社日立製作所 研究員 藤井祐介さん

<前編>

自分の信じた道を突き進むことで
「やっててよかった」がいつか訪れる

株式会社日立製作所 研究員

藤井 祐介 (ふじい ゆうすけ)

1980年岐阜県生まれ。公文国際学園中等部・高等部、京都大学理学部物理学科卒業後、東京大学大学院理学研究科修士課程修了。専門は素粒子物理学。大学院在学中の2003年にはスイスで行われた素粒子の実験「ATLAS(アトラス)」のチームメンバーとして、スイスにある実験施設の性能テストに赴いた。2006年より日立製作所に入社し、北海道大学と協力しながら動体追跡粒子線がん治療装置の開発に携わる。2017年には、公益社団法人発明協会が主催した「全国発明表彰」で、この動体追跡粒子線がん治療装置が恩賜発明賞を受賞。公文式は小2から教室に通い始め、算数・数学、英語、国語を学習。公文国際学園でも学習を続け、中2からは公文式フランス語も学習した。

日立製作所の研究員として、がん細胞に放射線を当てて壊す放射線治療を、治療の難しいがんでも可能にする技術の開発に携わっている藤井祐介さん。岐阜県の出身で、中学入学から親元を離れ、神奈川県にある公文国際学園に進学。同校の1期生という立場で個性的な級友たちとの交流を深めながら、のびのびと自分の強みを伸ばしていきました。藤井さんのモットーは、「ほかの人がやらないことをやること」。研究の第一線で活躍する藤井さんに、その道のりをうかがいました。

目次

    呼吸で動くがん細胞を、粒子線で狙い撃ち

    藤井祐介さん
      治療室

    現在私は、日立製作所で「粒子線がん治療装置」の開発に携わっています。がんの治療法には、大きく分けて3種類あります。1つ目は、外科の手術によって腫瘍を取り除く外科療法。2つ目は抗がん剤を使う化学療法。そして、3つ目が放射線療法で、放射線を腫瘍に当てて壊す治療法です。

    この放射線療法で使う放射線は大きく分けてX線と粒子線の2種類があります。X線は波長の短い電磁波のことで、レントゲン写真を撮る際などに使います。そして粒子線とは、高エネルギー粒子の流れのことをいいます。高エネルギー粒子というのは、物質のもととなる原子を構成する原子核(陽子と中性子で構成されているもの)のことです。

    X線での治療と粒子線での治療には違いがあります。体の中にある腫瘍を狙って放射線を当てたときに、X線の場合は体の表面近くに最も強いダメージを与えて、体の深いところへ行けば行くほど与えられるダメージが弱くなっていくという特徴があります。

    一方で、粒子線は腫瘍の位置(身体の内部)でもっとも強いダメージを与えることができます。ですから、粒子線治療は、体力に不安のある子どもや高齢者の患者さんの治療手段として注目されています。

    藤井祐介さん

    ただ、粒子線治療は、すい臓がん、肝臓がん、肺がんなどの10年生存率の低いがんでは行うのが難しい場合があります。というのも、これらのがんは呼吸をすると臓器と一緒に腫瘍が動くため、効率よく粒子線を照射する技術がないと思うような治療が叶わないからです。従来の粒子線治療では、動く範囲全体に放射線を当てていたのですが、そうすると腫瘍のない正常なところにまでダメージを与えてしまいます。そこで、動く腫瘍のみを狙って照射すること、そしてその動きに合わせて短時間で効率よく照射することを目指して試行錯誤してきました。

    具体的には、X線で透視して正確な腫瘍の位置をリアルタイムに計測する技術と、粒子線の照射のタイミングを制御できる技術の2つを高度に融合させたものを作ろうとしました(※)。研究は、正確に腫瘍の位置を計測する技術を持った北海道大学と共同で行いました。人間の呼吸というものは予想以上に複雑かつ不規則です。一方で、粒子線は一度照射すると次に照射するまでに新しい粒子線を作るための時間が必要です。粒子線を照射できるタイミングと、腫瘍の移動のタイミングがなかなか合わないのがこの研究のネックでした。

    また、患者さんごとに呼吸のタイミングは違うので、多くの人に効率よく粒子線を照射できるタイミングを決めるのにも苦労しました。しかし、それらをクリアした技術を開発したことが評価されて、2017年の全国発明表彰で恩賜発明賞を受賞することができました。

    ※総合化学技術会議により制度設計された最先端研究開発プログラムを通じて実施。

    藤井さんが中学から親元を離れることになった理由とは?

    中学校から親元を離れ、
    1期生として公文国際学園に入学

    藤井祐介さん

    今でこそ研究者という仕事をしていますが、子どもの頃から理科に強い興味があったというわけではありませんでした。実際に、小学生時代はテレビゲームばかりやっていました。自宅から小学校までは遠くて、通学は片道1時間かけて歩いていました。だから、学校から帰宅したら、公文をやってテレビゲームで遊ぶともう寝る時間。子どもの頃はまだ、将来の夢もはっきりしたものは持っていませんでした。

    公文は小2の頃から始めました。きっかけは、いとこが公文でもらったというトロフィーや賞状を目にして、自分も「あれがほしい」と思ったからです。学習を始めて数年後、目標どおり、私も公文で進度が高い子どもたちが集まる表彰式に出ることができるようになりました。

    その表彰式で、「新しく公文国際学園という学校が開校します」というパンフレットをもらったんです。それを見て、「全国から選りすぐりの賢い人たちが集まってくる学校だなんて、面白そうだなあ」と思うようになりました。それで、「ここに行ってみたい」と両親に言ったところ、とくに反対もされなかったので、中学校から公文国際学園に進学したんです。ちょうど私の代が1期生で、自分が中学校に上がるときに開校するというタイミングのよさも、「行きたい」という気持ちを後押ししたことはたしかですね。

    私の地元では、当時、私立の中学校に行く子どもはほとんどいませんでした。そんななか、中学校から親元を離れて寮生活を送りながら神奈川県の私立校に通う、しかも自分が1期生というのは今考えれば突拍子もない進路だったと思います。

    でも、私は「今は学校が遠いから、学校の隣に家(寮)があるとはすばらしい」なんて思っていました(笑)。今思うと両親もよく許してくれましたよね。表立っては何も反対せず「行けばいいんじゃない?」という感じだったのですが、実はこっそり公文の先生に相談していたらしい、ということをその後に聞きました。陰ではしっかり私のことを見守ってくれていたんですね。

    公文式で身についた力とは?

    公文を続けることでさまざまな力を身につけた

    藤井祐介さん

    小学生から高校生までずっと公文を続けてきましたが、公文で身についた力の一つは「計画力」ですね。公文をやっていると“1日5枚やったら今の教材は何日で終わる”というのがわかるわけですが、そのおかげで「この参考書は1日2ページやれば何日で終わる」というのもわかるようになりました。

    また、集中力もつきました。受験勉強のときは、この日の何時から何時まで、何をどれだけやるのかを自分で決めて、コーヒーを飲んで、大きな音の音楽をヘッドホンで1曲聴いてから勉強を始める、というルーティンが決まっていました。そして、ルーズリーフにはその日の計画を箇条書きで書いておいて、終わったらそれを黒い線で消していくんです。そんなふうに目に見えるものを作りながらコツコツ勉強していました。

    公文をやっていて楽しいと思えるのは、自分の学年よりも進めるところです。まだ習っていない問題を自分で解けるととても自信がつきますし、うれしくて、さらに進めていこうと思えるんです。

    うちの娘も幼稚園の年少から公文を始めました。最初は妻がつきっきりでやってくれていたようなのですが、小学生になってからは自分でやるようになっています。今は、娘から公文でわからないことを聞かれたら、ちょっとヒントを与えてあげて、それで娘が考えてわかったら「できるようになってるじゃない」とほめるようにしていますね。

    公文をやっているお子さんや親御さんに伝えたいのは、今そのときを精いっぱい頑張っていると、自分が想像もできないところでつながっていくということです。私自身の経験を踏まえても、公文も一生懸命やればそのうち何かに役に立ってくると思います。キャッチフレーズじゃないですけど、本当に「やっててよかった」ということが起こるときが来ると思いますよ。

    後編を読む

    関連リンク 日立製作所 公文国際学園


    藤井祐介さん  

    後編のインタビューから

    -藤井さんのポリシーとは?
    -藤井さんが研究者ではなく企業の研究員になった経緯
    -藤井さんのこれからの夢とは?

    後編を読む

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