「歌には宛先がある」――歌うことは大切なコミュニケーションツール

私は今までずっとひとり殻にこもって、教科書の問いに答えて採点して、ちゃんと勉強すれば百点は取れるっていうことを懸命にやってきました。でもそれでは足りない部分がたくさんあることが分かったんです。歌手として、みんなに歌を届けるとなるとそれだけでは足りないんです。
私、「歌には宛先がある」って感じていて、届けたい相手のことを考えるっていうのを今はいちばんがんばろうと思っています。上手に歌うことだけじゃなくて。おしゃべりが苦手な私にとって、歌うことは大切なコミュニケーションツールです。だけど歌に付随すること、例えば番組でMCを任せられたとき、初めて一緒にお仕事する方へのご挨拶とか、そういうときに未熟さを感じているのが現実です。相手のことを思いやるということは、そういうことにも繋がっていくのではないでしょうか。そうして来てくれたみんなが「楽しかった! また来るぜ!」って思ってもらえるライブができるようになりたいです。
以前、ネットでライブ配信番組をやっていたんですけど、そこではいろいろなコスプレをしてそのキャラクターになりきって弾き語りをするというのがテーマでした。ダークな歌を歌うときはダークな衣装で、元気な歌を歌うときは元気な衣装で、声の表現力を高めるという目的でやっていました。まるでアスリートがコツコツと記録を伸ばしていくような試練でしたね(笑)。
でも、なかなかうまくいかなくて、配信が終わった後に号泣してお母さんを困らせていましたね。歌を届けたいのにどうしてできないんだろうって、自分との闘いでした。それが実を結んだなと感じたのは、ファーストアルバムのレコーディングをしているときです。明るい声色、切ない声色、前よりもっと声の引き出しが充実したような気がするんです。何かを成し遂げたいと思ったら、目の前の小さな苦手をコツコツ克服していくしかないんですね。