勝負の厳しさを教えてくれた奨励会

小学4年生になって、段を取れるようになり、子どもの大会に出場し入賞できるようになってきました。何となく成果が出始めてきたころです。師匠のところに弟子入りをしたのは小5の秋。なんせまだ11歳ですから、将来を決めるというよりは、漠然と将棋を続けていけたらいいなっていう感じでした。
深くは考えていなかったですね。たとえば野球の世界だったらプロのイメージは誰でも分かりますよね。しかし将棋の世界はどうやったらプロになれるのか、プロになったらどういう暮らしをするのか、全然分からなかったんですよ。だからまったく何も知らないまま入ったのがこの世界です。分かるのは1年に1回試験があるということだけ。
そんな状態で12歳のとき奨励会に入会し、プロの世界に飛び込みました。何も考えないで入ってはみたんですけど、入ってみたら年齢制限という厳しい掟がありまして、20歳の誕生日までに初段、25歳の誕生日までに四段にならないと自動的に退会になってしまうんです。
お世話になった先輩や仲の良かった同期がどんどん辞めていきました。誰に何を言われるわけじゃないですけど、そういう厳しい状況を目の当たりにしたら自然と一生懸命になりますよ。道場で和気あいあいと将棋を指しているのとは雰囲気がまったく違うので。
奨励会では1年で1つは上がらなきゃいけない計算ですが、同じくらいのレベルの子たちが同じような環境でやっているので、そんな簡単には勝てないんです。当たり前ですよね。私はそこで勝負の世界の厳しさを知りました。