授業はすべて日本語
くり返し、自分の間違いを確認しながら勉強
プロ棋士をめざすため、日本で生活するにはどうしたらいいのか、片上大輔師匠がわたしのためにいろいろ考えてくれて、師匠の紹介で山梨学院大学への留学が決まりました。ワルシャワの大学を卒業して2013年10月に来日したのですが、そのころ話せる日本語は「○○が好きです」くらい。ひらがなを読むのも、ものすごくゆっくりでした。
大学に編入してからは、日本語に苦労しました。授業はすべて日本語なので、とにかく座って聞くしかありません。先生の口元を見て、聞き取れたらすぐにタブレットで調べたりしていました。
カロリーナさんが学んだ公文式日本語教材 |
公文式で日本語を学び始めたのは、2014年4月からです。公文式日本語教材はストーリーがあって、単語や文法が詳しく書かれているので勉強しやすかったですね。何回もくり返して学ぶので、よく頭に入りました。一番いいと思っているのは、先生が採点してくれること。先生に採点してもらうと、自分では気づかない間違いがわかるので上達します。一人ひとりのレベルに合わせて学べるのもすごくいいと思います。
日本語がわかるようになると、友だちが増えて、モチベーションもあがりました。スーパーで買い物をしやすくなったのもうれしかったですね。一方で、日本語が話せるようになってから人との衝突もありました。今から振り返れば、相手にストレートに意見を言わない日本人のコミュニケーションの仕方に戸惑っていたのだと思います。少しずつ、日本人にもいろいろな人がいることがわかってきました。文化は違うけど、結局人間は同じなんですね。
日本語も将棋も急には上達しない、一歩ずつ進めばいい
日本語を学ぶには、文化も学ばなければならないと思っています。また、相手の文化を理解するだけでなく、行動を合わせることも大事だと思います。ただ、ことばを学ぶうえでもっとも大切なことは、「通じる」こと。ことばは勉強しても使わないと意味がないので、最初は間違えたり失礼なことを言ったりしても、恥ずかしがらずにチャレンジすることです。
山梨学院大学に編入した最初のころ、日本語がしゃべれなくてイライラしていたことがあります。そのとき、ある先生から「急には上達できないので、一歩ずつ進んでいけばいい」と言われ、「ああ、そうだな」とホッとしました。将棋も同じですね。急には上達しませんから、毎日コツコツと将棋の勉強をしています。
対局は長くて疲れるので、次の日は休むようにしています。休んで何をするかというと、コンピューターゲームをしたり音楽を聴いたり。そして対局に負けた後には必ず師匠に「どこで間違えたか」を聞きに行きます。それを聞くと落ち着くんです。負けたのは悔しいけれど、その要因を知ると勉強になり、次の勝負にいきるからです。先ほどお話しした公文式の学び方と似ていますね。人生も同じかもしれません。
将棋を知らない人のために将棋についての本を書きたい
これからの目標は、将棋でどんどん強くなりたい、ということ。そして、いつかタイトルをとりたいです。それから、世界に将棋を普及していきたいです。そのために本を書くのも夢です。将棋をまだよく知らない人のために、将棋についておもしろく書いて興味をもってもらいたいと思っています。その本は英語かポーランド語で書きたいですね。
将棋は、わたしの人生そのものです。もし将棋に出会わなかったら、日本語も話せなかったでしょうし、まったく違う人生になっていたでしょう。
夢を実現するには、楽しくやればいいだけです。あとは、逆のことを言うようですが、根気強く続けることも大事です。わたしにもこんな経験があります。
女流棋士には、下は3級から最高は六段までの全部で9階級があり、2級以上が正式な女流プロ棋士です。2級に昇級するには、大変厳しい条件があります。わたしは3級から昇級しようと試合に出ましたが、なかなか勝てなくて。そのときのプレッシャーは言葉では説明できません。
でもそこで、「なぜ将棋を好きになったか」「なぜプロになりたいか」と、最初の気持ちを思い出したんです。それで力がわいてきて、もう一度頑張ろうと思いました。その後3連勝して、プロになることができました。毎日努力を続けながら、始めた理由や好きな理由など、最初の気持ちを忘れないようにした方がいい。まさに「初心忘るべからず」ですね。
将棋でも日本語でも、くり返し勉強すれば上達します。でも上達したなと思ったら危ない。なまけてしまいますから。そうならないよう、さらに強くなり、そして将棋をもっと世界に普及するように、これからもがんばりたいと思います。
関連リンク 公文式日本語K・ステチェンスカ|女流棋士データベース|日本将棋連盟公式サイト
前編のインタビューから -ポーランドでの子ども時代 |