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Vol.069 2021.09.03

特別対談 未来を生きる子どもたちのために②

<後編>

生涯にわたって必要なのは
自ら「自学自習」できる力

発達心理学者

田島 信元 (たじま のぶもと)

1946年生まれ。東京外国語大学外国語学部ロシア語学科卒業。東京大学大学院教育学研究科修士課程(教育心理学専攻)修了。博士(人間科学)。北海道大学教育学部発達心理学研究室助手、東京外国語大学外国語学部心理学研究室助教授・教授、白百合女子大学人間総合学部発達心理学科教授・同大学付属生涯発達研究教育センター所長を経て、現在、センター特別研究員、東京外国語大学・白百合女子大学名誉教授。

時代の変化がよりスピードを増しているように感じられるなか、「どんな時代、どんな状況になっても、子どもたちが伸びていくために大切なことは何か?」――これからの子どもたちに求められる力、そして育みたい力について、各界の識者とともに探っていきます。
今回は、発達心理学の専門家として長きにわたりKUMONとの共同研究にも関わってくださっている田島信元先生をお迎えして、公文教育研究会 代表取締役社長の池上秀徳が対談を行いました。前編に続く後編では、公文式学習における効果的なICT活用について意見を交わしました。

目次

指導者があってこその「自学自習」

特別対談:田島信元先生,池上秀徳

公文教育研究会 池上(以下、池上):ここまで、KUMONは自学自習力や内面的な力を大事していることを述べてきました。KUMONは自学自習に導く学習法を実践してきましたが、自学自習とは子どもを放っておいて何でもひとりでさせることではありません。子どもが学習していくなかで、支える先生や親は不可欠な存在です。「ひとりでできないところにどういう働きかけを行うかが公文の真髄である」という意味のことを、非認知能力、認知能力という言葉が使われる前からずっと、創始者の公文公は語っていました。
田島先生のご専門である発達心理学では、子どもが一人で到達できる水準と、周囲の人が支援して到達できる水準との間の領域を“発達の最近接領域(ZPD:Zone of Proximal Development) ”と呼んでいると思います。
この領域に適切に働きかけることによって、子どもたちの成長を効果的に促進できると言われていますが、実はKUMONでも、創始者から受け継いできている原理原則の中で、そのことをとても大事にしています。
と言いましても、その理論を意識したというより、実践の中でこだわってきたというものではありますが。

田島信元先生(以下、田島):意識していなかったとしても、KUMONは、ZPDの理論を創業時から内包していたことがすごいですね。大いに賛同します。子どもは自らできる力を持って生まれてくるけれど、決してひとりではできるようにはならない、というのはZPDの理論を構築した心理学者のヴィゴツキーが主張しています。
場が与えられて、考えてみてできる部分もあるし、できない部分もある。そのZPDに対して指導者や周囲が刺激やヒントを与えて、できるようになれば賞賛しましょう。そしてできたらそれでよしではなくて、どうしてできるようになったのかを言語化してフィードバックするのが理想的ですね。
一方で、できなかったところについては、子どもたちもがっかりしているはずだから、「よく頑張ったね、こういう風に考えるといいよ」と、ヒントやモデルを示してあげれば良いんです。手を出しても教え込んでもいけないけれど、放任もよくないんです。
どのように頑張っているのか、悩んでるのか、子どもの目線で関わり合っていくことが大事だと思います。子どもの目の輝きや嘆息とか表情とか息遣い、苦労しているなということは放任していたら見られませんから。

池上:子どもたちが先の見えないトンネルを出口も見えないまま走り続けるのは限界があるから、先の見通しを示したり、伴走しながら子どもを励ますことがとても大切だと、創始者の公文公は教室の先生から気づかされたというエピソードもあるそうです。
先日、陸上のある選手が、1人でやっているとゴールイメージが持てなかったが、コーチをつけたことで飛躍的に記録が伸びたと話していました。アスリートにコーチが必要なように、私は学習者にもコーチが必要と思います。ここまでいってみよう、次はここまでがんばってみて、と子どもに身近なゴールや見通しを示して励ましてあげる、そこを人がサポートできるのも公文式学習の強みなんですよ。これはAIにはできないことかもしれません。

田島:公文式学習が自学自習だからといって、指導者が「1人で10人も20人も教えられるなんて楽でいい」なんて思う人もいるかもしれませんが、とんでもないことです。一方向から教えたり情報を与えるほうがよっぽど楽なんです。
KUMONの指導者ほど、心をくだいて子どもを見守っている状況はないと思います。非認知能力を高める、子どもたちにやる気を起こす、思いを伝えるといったことは、どれだけICT化が進んだとしても、指導者、人の関わりがあってこそできることですね。

KUMONらしいICT活用とは?

KUMONらしいICT活用とは?

池上:公文式は指導者がいかに子どもの力を見極めて伸ばしていくかが問われる教育です。これもスポーツの話ですが、あるメジャーリーガーは、以前故障の際に、身体に機器をつけて筋肉量や動きを測定しながらリハビリを行ったそうです。本人の感覚だけではなく、テクノロジーの力で客観的に測定しながら、主観に頼らずチーム一体となって回復の状態をウォッチしていたということですが、ICTの有用性はそこだなと感じました。
KUMONの指導者は教材学習を通して子どもたちの状態を知り、指導を行っています。学習記録はあるのですが、先生自身の感覚で子どもの力を見極め指導されることが多いと思います。ここに、ICTを活用して生徒のさまざまな学習情報を指導に活かせるようになったらどうでしょう。より正確に子どもの状態を見極め、的確な指導ができるようになるだろうと思います。また、多くの教室のビッグデータを参考にすることで、ご自身の指導をより客観的に見ることもできるでしょう。個人の正確な情報の蓄積とビッグデータ活用の上でICTは大きな力になると思います。ただ、これだけは強調しておきたいのですが、最後に子どもの力をよく判断して伸ばすのは指導者であり、結局は人の力ですよね。ICTはそれをサポートする道具に過ぎません。

特別対談:田島信元先生,池上秀徳

田島:その通りだと思います。自学自習というのは基本、人とのコラボ=共創の産物なんです。子どもたちの頭に残るのはコラボ時の先生の言葉であり、その言葉が子どもたちの頭の中で繰り返され、徐々に自分で自分のプロセスをほめ、見守るようになります。こうして取り組むことがいいんだと、頭の中で自己内対話していくことが、自学自習につながっていくと考えています。
自学自習力や内面的な力を高めるために、正答率や間違ったところ、回答時間といった結果だけではなく、子どもがどのように頑張っているか、どのような息遣いで悩んでいるかといったプロセスをきちんと見ていく。そういうプロセスを見ていくことこそが子どもたちの発達には大切で、そのことを実践してきたのがKUMONだと思います。
ぜひとも子どもたちの頑張りやプロセスをデータ化して、多くの子どもたちをほめ、見守ることに活かしてほしいと願っています。

オンラインによる越境体験も学びにプラス

オンラインによる越境体験も学びにプラス

田島:もうひとつICTといえばインターネットがありますね。リモートツールによるインターネットを介したオンライン・コミュニケーションは、リアルなやりとりと比較すると効率は少し下がるかもしれませんが、場面を越えるという利点が確実にありますし、教室と家庭と学校という場を結ぶ役割は大きいと思っています。
KUMONはリアルな対面の場での教育がベースにありますが、オンラインと対面を共用することで学習の可能性が広がりそうです。

池上:KUMONでは子どもたちがプリントに向かう学習は週2回が教室、その他は家庭学習になります。わたしたちは、家庭学習でも教室のように集中して学習する習慣をつけてほしいのですが、家庭学習にはなかなか指導の手が届きませんでした。しかし、コロナ禍によってオンラインという手段が日常的になってきました。KUMONでも家庭学習に対するオンライン指導を進めています。オンラインを活用して家庭での学習を時々覗かせていただければ、教室のような緊張感で家庭学習が進められると思います。

田島:教室と家庭、のように「場」が変わることにはじつはもうひとつ意義があるんです。たとえば教室で足し算を学んだあとで、家庭の食卓でおかずの数だとか、これとこれを足し合わせて料理を作るんだよと学び直すことで、ただ数を足すという作業から、その意味合いが分かり、新しい視点が加わります。
異なる場面間を越境することは、復習プラス学び直すことになり、記憶や使える知識が広がります。少なくとも2つ以上の異なる場面の越境体験をすることが発達心理学では発達の大きな源泉と考えられていて、オンラインを活用することはそうした越境体験を促進してくれるんですよ。

特別対談:田島信元先生,池上秀徳

池上:創始者である公文公の考えはまず学校が前提です。学校もKUMONも違うこと、別のことを体験するから成長するし、学校に行かずに365日KUMONだけでもよくないと。内面的な力を高めるには、家庭、学校、KUMONといろいろな体験が必要だということですね。

田島:ICTやオンラインの活用で、これからの時代のKUMONにさらに期待が膨らみます。

関連リンク 発達心理学者 田島信元先生|KUMON now!スペシャルインタビューKUMON60周年スペシャルコンテンツ(2)田島信元先生|KUMON now!トピックス


特別対談:田島信元先生,池上秀徳   

前編のインタビューから

-21世紀は持っている能力を生かしていく時代
-自分の居場所を感じられれば子どもは伸びていく
-「コラボ、ネゴ、ウォッチ」の関わりと必要なときの即時フィードバック

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