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Vol.070 2021.11.05

特別対談 未来を生きる子どもたちのために③

<後編>

学び合いが創り出す
KUMONならではのホスピタリティ

京都大学経営管理大学院教授

原 良憲 (はら よしのり)

兵庫県姫路市出身。1981年東京大学工学部電子工学科卒業。1983年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2005年京都大学博士(情報学)。1983年日本電気株式会社入社以来、日本と米国・シリコンバレーの研究拠点で、メディア情報管理などの研究・事業開発に従事。2006年より京都大学経営管理大学院教授(現職)。同大学院院長(2018~2020年)、サービス学会会長、日本学術会議連携会員、京都市ベンチャー企業目利き委員会審査委員など。

各界の識者とともに、教育の未来やKUMONのこれからを探っていく対談シリーズ。今回は、サービス・イノベーション、インテグレイティド・ホスピタリティなどを専門に、京都大学経営管理大学院にて教鞭をとる原 良憲教授にお越しいただき、公文教育研究会 代表取締役社長の池上秀徳が対談を行いました。後編では非認知能力とICT活用の話題、KUMONのこれからについてエールをいただきました。

目次

    非認知能力をいかに見える化するかがカギ

    原 良憲教授(以下、原):お話をお聞きし、KUMONは創業の時から、相手への気づきや理解といったホスピタリティの要素を持ち合わせていたことが改めて分かりました。指導者が学習のプロセスの中で、生徒の様子に気づいたり、褒めて自己肯定感を高めたりといったことを通して、生徒の自学自習の向上をはかっているのですね。

    特別対談:原良憲教授,池上秀徳

    公文教育研究会 池上(以下、池上):私たちは、そうした生徒たちの自己肯定感や教材を自分で解こうとする意欲などの内面的な力をいかに育むかということにこだわってきましたが、KUMONというと計算を速くするというイメージが世間では強く持たれているように思います。計算が速くなることは、それはそれで意味のある事ですが、そうした学力と同時に内面的な力を高めていくことに取り組んでいることは世の中にあまり認識されていないように思います。生徒の中にそうした変化や成長が起きていても、私たちがこれまでその点を分かりやすく伝えてきていない、言語化できていないことも一因だと思っています。計算が速くなることは分かりやすく、時間や正解数と言った目に見えるものがあるので、保護者にも価値を感じていただきやすいのですが、自分で考えるようになってきた、ねばり強くなってきた、自己肯定感が高まってきた、といったいわゆる「非認知能力」と言われている力は、目に見えにくく数値化もしにくいという難しさがありますね。しかし、学習のプロセスの中で子どもたちの変化・成長に気づき、それを言葉に表現して分かりやすく保護者に伝えていく仕組みが必要だと思っています。こうした仕組みにテクノロジーを積極的に使っていきたいですね。例えば、先生方は保護者とのコミュニケーションをとても大切にしていますが、子どもたちががんばった瞬間を記録にしてデータ化しておくと、このコミュニケーションの場で内面的な力の向上を具体的に保護者に伝えていくことができますね。テクノロジーはコミュニケーションを強力にサポートする魅力的なツールになります。

    原:目に見えないものに、人は価値を見出しにくいところがあります。目に見えるものには対価を払いやすいので、目に見えない無形資産を見える化するというのは大事だと思います。教育の世界で、非認知スキルという言葉をよく聞くようになりましたが、そうした非認知スキルの見える化の動きは今後色々な形で起きてくるでしょうね。ある非認知能力を“データ化する”という点においては、テクノロジー企業が強いと思いますが、大事なことは、どういった非認知能力が生徒にとって大事なのかだと思います。それは、データ化のプロであるテクノロジー企業ではなく、長年、教室という場をもって、指導者という人が学習プロセスを生徒と共に創ってきたKUMONが、優位性を持っていると思います。生徒ごとにどの様に学習を進めていくのが良いのか、過去の成績をもとに予測することは他でもできても、KUMONの長年の実践経験をいかした非認知のデータを組み入れた未来予測は、とても価値あるものになるのではないかと期待しています。

    常に見通しを示すことが重要

    常に見通しを示すことが重要

    池上:そのようにおっしゃっていただき、ありがとうございます。KUMONでは生徒ごとに、どの様に学習を進めていくのか、ということについて“見通し”という言葉をよく使います。研修などでも、“見通し”の重要性を常に強調しています。目標とも言い換えられると思いますが、目標を提示することによって、PDCAを回すことが大事なんですよね。「トンネルの出口を保護者と子どもと共有してほしい」と創始者も常々言っていて、子どもたちが日々の学習の先に何があるのか、学習がいつ終わるのかという“見通し”を共有することを大切にしています。先ほどお伝えした内面的な力は、生徒も保護者も見えないままでいるので、そうしたものを含めて“見通し”をしっかり共有していきたいですね。

    特別対談:原良憲教授,池上秀徳

    原:認知能力だけでなく、非認知能力を見える化する精度が上がれば、学習や指導のPDCAをより効率的、効果的に回せるようになると思います。プロセスをそのままデジタル化するのではなく、全体のプロセスを見ながら、プロセスの変革も見据えてデジタル化することがポイントでしょう。非認知能力の見える化も活用して、学習者と指導者はともに成長していき、一貫したプロセス革新を行う。これが、KUMONのICT活用で最も優先すべき部分と思います。

    池上:“見通し”を持って子どもたちを伸ばしている指導者が、学習者にどのような指導や声かけを行っているかということは、指導者の経験などに裏付けられた暗黙知でもあります。そうした暗黙知もできる限り言語化してデジタルの形で残して共通の財産にしていく、こうしたこともICTの活用が必要なところですね。

    原:ITメーカーに在籍していたときに、技術発展するとともにコモディティ化して、価値が下がっていくという状況を目の当たりにしました。暗黙知を形式知化した際に、価値を棄損させない視点も必要です。

    池上:暗黙知はすべてが形式知化できるわけではありません。また、暗黙知のままでしか伝わらないものもあります。KUMONには、指導者同士がより良い指導の暗黙知を共有し、それを自分の教室で実践することで自分のものにしていくという、学びあう風土があります。

    指導者の学びあう風土

    指導者の学びあう風土

    原:そのKUMONの学びあう風土は、本当に素晴らしいと思います。研究大会、シンポジウム、地区会といった機会に参加させていただいたことがあります。しかも、それらは公文式教室のみならず、学習療法事業や書写事業などでも行われていて、KUMONグループの強みだと思います。

    池上:ありがとうございます。指導者同士が学びあう活動は創始者が大切にしてきたものですが、これはKUMONの誇ってよい風土だと思っています。私たちは、公文式の指導のコアとなる考え方を世界中の指導者や社員と共有するために『指導原理書』というものを持っていますが、その最初のページに、“一指導者のことば”というものを載せています。ある教室の先生がおっしゃっていた言葉ですが、子どもの伸びようとする力は私たちの予想以上のものである驚きと、自分の教室に来たために子どもに損をさせることがないように指導者がどんどん学ばなければならない、という内容です。創始者がすごく気に入って、KUMONの理念の次に大事にしていたほどです。指導者の間でもこの言葉のファンが非常に多いのですが、子どもに損をさせないように自分ももっと成長しなければという考え方が世界中の指導者の共通目標となり、指導者同士の学びあいが脈々と続いてきているわけです。

    原:“一指導者のことば”というのは、素敵な言葉ですね。今ある状態から常に向上していく、プロセスが大事ということに気付いている、まさにKUMONの美意識が顕れた言葉ですね。

    池上:学習者として子どもたちが伸びることはもちろん、指導者たちも教育者というより学習者として指導技術を伸ばさなくてはいけないということを言っているんですね。指導者も社員も学ぶことが好きで、それを見た子どもたちもやる気が出る、スパイラルのようになっているわけです。公文の先生は、子どもたちと同じように、学ぶことに喜びを感じる人が多いように思っています。本当に嬉しいことです。

    原:内面的な力を見える化していく取り組みのところで、指導者と教室という、人と場を持って子どもたちと学習プロセスを共に創ってこられたKUMONだからこそ、非認知の何をデータ化すればいいのかを分かっている優位性があると申しました。そして、そうしたデータを実際に使ってみて、生徒や保護者にとってどうだったのかという暗黙知を、また指導者同士が学びあうことができるわけですよね。つまり、KUMONは、非認知データが進化していく土台があるということだと思います。KUMONは、世界中に教室があるという点や、学習療法事業や書写事業などを含めた生涯教育という点もお持ちなので、そういったことを活かして、非認知データを進化させ続けていかれることを期待しています。

    池上:これからは人生100年の時代ですから、生涯学習、学び続ける精神は大事です。創始者は「大学を出ても学び続ける人になってほしい」という言葉を大事にしていました。子どもたちが公文式教室で過ごす時間は人生にとっては短い期間かもしれませんが、公文式学習で自習する態度と方法を身につけた後、大学に行っても社会に出ても学び続けて欲しいと。

    特別対談:原良憲教授,池上秀徳

    原:それは大学においても、まったく同感ですね。卒業生を送り出して「はい、おしまい」ではない。むしろここからが始まりだと思います。学び続けるための内面的な力である、自分で考える姿勢やねばり強さが身につけば、ライフステージの様々なところでも学べます。KUMONは事業ドメインとしてだけではなく、広い意味での人材育成を行っていると思います。いろいろな考え方や方法論を社会に還元して、課題解決を行ってほしいです。それも単なる社会貢献だけではなくて、持続性を担保しながら進んでほしいと願っています。

    関連リンク 京都大学経営管理大学院


    特別対談:原良憲教授,池上秀徳   

    前編のインタビューから

    -京都の老舗に気付かされた対人サービスの重要性
    -教育サービスにおけるホスピタリティ
    -生徒と先生が共に創る学習プロセス

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