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Vol.079 2024.10.04

囲碁棋士
藤沢里菜さん

<後編>

勝負は負けてからが大事
諦めずに自分が納得できるまで
やってみよう

囲碁棋士

藤沢 里菜 (ふじさわ りな)

1998年埼玉県生まれ。女流本因坊・女流名人・扇興杯タイトル保持者。故藤沢秀行名誉棋聖門下。日本棋院東京本院所属。
6歳のとき囲碁を覚え、7歳から洪道場の師範、洪清泉(ホン セイセン)四段より手ほどきを受ける。2009年日本棋院院生となり、2010年4月には11歳6か月の史上最年少記録(当時)でプロ入りを果たす。2014年6月、「会津中央病院杯」にて、当時の女流棋戦最年少優勝記録を樹立(15歳9か月)。同年10月には女流棋戦最高位である「女流本因坊」を獲得。2022年に女流名人5連覇、2023年にアジア競技大会(中国・杭州)女子団体で銅メダル獲得、呉清源杯(女流の国際棋戦)で準優勝。漫画『群舞のペア碁』(双葉社刊)の監修を担当。

6歳で始めた囲碁に魅了され、2010年4月に11歳6か月の史上最年少記録(当時)でプロ入りを果たした藤沢里菜さん。以来、様々な試合で史上最年少記録を更新し、現在は日本囲碁界を代表するトップ棋士として活躍されています。幼少期からプロを目指して一直線に進むことができたのは、囲碁の楽しさはもちろん、手ほどきをしてくれた先生と、一緒に夢を目指した仲間の存在が大きかったとふり返ります。

目次

    若いときは負けてもいい
    大切なのは次につなげること

    女流本因坊戦就位式で

    プロになり、対局する機会が増える中で、それまでは負けをあまり引きずらなかったのが、そうではなくなってしまいました。負けるとちょっと囲碁がイヤになったりすることもあったんです。

    今でもよく覚えているのは五番勝負で最初2連勝していたのですが、その後3連敗してしまい、タイトルを奪還されてしまいました。その対局後、気持ちをまったく切り替えることができませんでした。

    プロになってしばらくは、「負け」の気持ちを切り替えるために、友だちと遊んだり、テレビやYouTubeを見たりしていました。とくにテレビは小学生の頃、プロになるまでずっと禁止されていたので、その反動で中学生になってからは、対局に負けるとドラマばかり見ていました。

    でも、そんなことをしていても次の試合で負けたらまた落ち込んでしまうし、これまでと同じだなと気づいたんです。結局、勝つことでしか気持ちは切り替えられない、と。

    今、強く感じているのは、「負けてからが大事」だということです。負けてからも先は長いのですから、むしろ若い時はどんどん負けて、次につなげたほうが将来のためになると思っています。

    囲碁は集中力が必要だと言われますが、自分がそれをどう養ったかというと、じつはあまり覚えていないんです。でも囲碁を始めてから集中力が身についたという実感はあります。

    ただ、10時間ずっと集中するのはやはりムリです。私の場合はちょっと目をつぶったりして、脳を休める時間をつくって調整しています。もちろん大事な場面では集中しないといけません。だからこそ、休めるときは少しでも休むことが大切です。

    「先を読む力」はたくさん解いて培っていくしかないと思います。たくさん解いていると、自然に「読み」が鍛えられて、先がどんどん読めるようになります。やはり日々の勉強が役に立ちます。じつは私は日常生活では、どちらかというと先を読まない、計画を立てないタイプなんですが(苦笑)。

    囲碁は初心者にとっては、あまりにも自由すぎてかえってどうしていいかわからないという方もいるかもしれませんね。初心者でも楽しめる囲碁の最低限のルールを紹介すると、1.縦の線と横の線が交差するところに石を打つこと 2.相手の石に囲まれると、自分の石が取られること 3.黒と白が交互に打つこと、の3つです。

    そのほか細かいルールはいろいろありますが、最初はこの3つを覚えればいいと思います。また正式な碁盤は縦横19本ずつの線が引かれた19路盤(ろばん)ですが、初めての方は盤の広さが約四分の一の9路盤を使うといいと思います。私も最初はそうでした。

    先日、公文囲碁教材を拝見したのですが、初心者の方でも、教材のステップをこなしていったら、自然と強くなっていくつくりになっていると感じました。クリアしたら次に進めるようになっているのもゲーム性があって、楽しい。達成感が得られるのでモチベーションになりますよね。そんなふうに導いてくれる教材で学べるなんてうらやましいです。

    話す言語が違っても囲碁を通して仲良くなれる

    囲碁は陣取りゲームとしてみたら勝ち負けが楽しいと思いますが、魅力はそれだけではありません。

    たとえば毎回違う手を発見できること。私は6歳からこれまで何万局も打ってきましたが、一度として同じ手になったことがないんです。毎回毎回違う手で「この手があったか」と、常に発見があります。白と黒の碁石が碁盤に並ぶゲームなので「形がきれい」と表現されることもあります。

    打つ人、一人ひとり個性があるのも面白いです。対局すると、戦闘派や守り派など、相手の棋風がわかりますし、相手によって自分の打ち方が変わったりもします。

    またペア碁も、単独で打つ時とはまた違った楽しさがあります。パートナーと交互に打つのですが、自分が打とうとしていたところにパートナーが打ってこなかったりして、自分とは違う考えがあることを知ることができるのですごく勉強にもなります。またペア碁では対局中にパートナーと作戦を相談することが禁じられているのですが、だからこそ息が合ったときは楽しいですね。

    7年ほど前、囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」がプロ棋士に勝ったと聞いたときは、衝撃的で信じられませんでした。でも今は私もAIを使って勉強していますし、一人で勉強できるようになったのもAIのおかげ。囲碁の世界が広がり、何年やっていても奥深いと実感するようになり、囲碁がより好きになりました。

    最近は子どもの頃に感じていたのとはまた違う楽しさを感じています。この先50年後もまた違った囲碁の楽しみ方があって、もっともっと楽しんで打っているのだと思うと、わくわくしますね。

    囲碁は世界中で楽しまれているゲームです。私も世界各地に遠征して対局しています。ヨーロッパで開催される大会もありますが、やはりルーツである中国や韓国などアジアが多いですね。

    囲碁のルールは世界共通なので、外国の方と対戦していても、とくに違いは感じません。初めは語学も勉強しようと思いましたが、言葉がなくても交流できることに気づきました。違う言語の棋士でも、囲碁を通して仲良くなれる。それも囲碁の魅力のひとつです。

    仲良くしてもらっている日本棋院所属棋士の徐文燕さんと

    私は12歳ぐらいから韓国に行く機会があったのですが、対局がないときは、現地の選手に焼肉に連れて行ってもらったり、カフェで一緒にパフェを食べたりして、仲良くなっていきました。

    プロになって最初の中国遠征の時は母が同行してくれましたが、2回目からは一人で行きました。女子は一人だったので結構さびしくて、夜あまり眠れなかった思い出があります。でもまだ10代の若い時期に、海外体験ができたのも囲碁のおかげ。囲碁を通じた仕事で世界が広がったと実感しています。

    夢は世界戦での優勝
    囲碁の魅力を広めていきたい

    「プロ棋士になる」という子どもの頃の夢を叶えるために、何を意識してきたかというと、特別に大きいことはないんです。小さい頃は誰でも、遊べるなら遊びたいと思うのでしょうが、私は「プロ棋士になる」という目標が大事だったので、そこを優先していました。

    囲碁を生活の中心にしようと考え、あまり遊びすぎないように、約束を入れすぎないようにと、自然とそういう生活スタイルで過ごしてきて、それは今も同じです。

    そんな自分を振り返って思うのは、夢を叶えるためには、諦めずに自分が満足できるところまでやることが大切だということです。

    ですからやりたいことがあるお子さんには、20代、30代になってやっておけばよかったと後悔するのではなく、10代もしくはそれ未満の小さい頃からでも、自分が納得するまでやってほしいなと思います。

    そして保護者の方には、子どもが楽しんでやれることがあったら、それをサポートしてほしいですね。私の場合は母がサポートしてくれたことが、とてもありがたかったと感じています。お子さんが夢や目標を持っているのであれば、ぜひそれができる環境づくりをしていただけたらと思います。

    私の今の夢は、世界戦で優勝することです。去年決勝まで進みましたが準優勝でしたので、今後目指していけたらと思っています。

    囲碁の普及に関しては「教える」というよりも、実際の対局を通して囲碁の魅力を広めていきたいと思っています。公式記録が残される一般棋戦で活躍して「こういう人がいるんだ」ということを、少しでも多くの方に知っていただき、「自分もやってみたいな」と思ってもらえるように、自分がプレイヤーとして頑張っていきたいと思います。

    (撮影協力:洪道場)

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    前編のインタビューから

    -囲碁は老若男女、誰もが楽しめる「陣取りゲーム」
    -6歳から囲碁漬けの毎日 道場では楽しかった記憶ばかり
    -9歳で受けたプロ試験で「プロ」を強く意識

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