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Vol.051 2018.12.07

跡見学園女子大学 学長
笠原 清志先生

<後編>

を開き、異質なものへの
素直な興味を持ち続けよう

跡見学園女子大学 学長

笠原 清志 (かさはら きよし)

1948年埼玉県生まれ。慶應義塾大学社会学研究科博士課程単位取得修了(社会学博士)。1978年から1980年まで、ユーゴスラビアのベオグラード大学経済学部に留学、1986年4月から立教大学社会学部助教授に就任。その後同学部教授、経営学部教授、副総長を経て、跡見学園女子大学マネジメント学部教授。2018年より同大学長に就任。著書に『自主管理制度の変遷と社会的統合』(時潮社)、『社会主義と個人 ―ユーゴとポーランドから』(集英社新書)ほか多数。

跡見学園女子大学の学長を務める笠原清志先生は、社会学の研究者として、社会主義国の労働や生活などを、現地に滞在しながら研究されてきました。20年近く前からは、バングラデシュの女性自立支援やミャンマーの寺子屋支援などに関わられています。2013年にはバングラデシュ国内で活動する世界有数のNGOであるBRACと公文教育研究会との橋渡しを行い、貧困層の子どもたちへの教育支援をされています。公文との協働に至る経緯や、ソーシャルビジネスの意義、現地での教育にかける思いなどについて伺いました。

目次

    まず「型」から入ることで「習慣」となり、やがて自分のものになる

    跡見学園女子大学学長笠原清志先生

    私が初めて給料をもらったのは、じつは38歳のときでした。海外留学や博士論文の作成のため、大学院終了後もオーバードクターの時期があったことが影響しています。同じく大学教授だった父は寛容で、「人生は急ぐ必要はない」というのが口癖でした。そのおかげで若いときに海外留学も含め知的放浪や悩みも含め、博士論文作成までの時間を十分に確保できたことに感謝しています。

    実家は上野にありましたが、東京大空襲で焼け、埼玉に疎開しているときに私が生まれました。小学校で都内に戻りますが、学校の授業はちゃんと聞かず、どういうわけか「自分には自分のやり方がある」と勝手に思い込み、自己流を貫いているあまり可愛くない小学生であったと思います。これにはプラスとマイナスがありましたね。今となっては、しかるべきときにしかるべき勉強の仕方を受け入れてバランスを取れば、勉強はもっとスムーズに進んだと思います。今は理解できますが、当時はそうしなかったので、いろいろな意味でずいぶん遠回りしたと思います。

    子ども時代も、この点には親からは厳しくは言われませんでしたので、ずるずると自己流のやり方で高校生ぐらいまでいってしまいました。ところが、今思うとすごく重要だなと思う出来事がありました。私が小学校2~3年の頃、父が俳句カルタを買ってきてくれました。松尾芭蕉や与謝野蕪村などの句と絵が書いてあるものです。当時は俳句の深い意味はわかりませんでしたが、カルタに勝つためにはと思い、全部覚えてしまいました。

    すると、高学年の授業で芭蕉や蕪村の話が出てきたときに、単に学習としてだけではなく、わずか17文字の音とリズムだけで描き出す情景の美しさ、奥行きの深さに魅了されるようになしました。つまり、芭蕉や蕪村の見た、そして感じた世界を深いレベルで理解できるようになりました。同じように宮沢賢治、中原中也、そして有島武郎の作品の一部の暗唱や朗読でも同じような経験をしました。俳句や詩の形や型から入り、そこから見える世界が現実を相対化させ、自分を見るもう一つの自分を創っていけたのかもしれません。そのことがいくつかの経験を経て、自らの心を開き、それを通じていろんなものを受け入れる寛容性へとつながっていったように思います。そこで大切なことは、形や型から入りながらも、経験や現実と理念や内面的なものとの相互交流、そしてそれを可能にする人間関係や状況が重要であると思っています。

    KUMONの学習の進め方も、ある意味、形や型から入っていますよね。型が習慣となり、それを繰り返しているうちに、深い意味が自分の中で内在化する。そのプロセスが重要だと思います。

    学生と接して感じられる危機感とは?

    「点」の情報しか知らず、「線」や「面」に結びついていない状態に危機感

    跡見学園女子大学学長笠原清志先生

    今、大学の学長として若者と接する中で、いくつかの危機感を持っています。たとえば、今の学生はインターネット経由でいろんな情報にアクセスできますが、情報を知識にして、その知識を内面化して自分の考えにする機会が極端に欠けています。情報は本当によく知っていても、「点」であって「線」や「面」に結びついていない、つまり知識になっていないのです。だから伝えたいことがあっても、相手に体系的な形式知として伝える能力が弱く、また自分の生き方や考え方について内面化できないのです。その意味で、読書の習慣や友人との議論、そして分野の違った人たちとの交流や異文化体験といったものが重要なのです。

    現在、ネットで読めるからと本を買わない傾向にあります。本は書き込んだり折ったりしてまた見られますが、スマホだとメモできませんし情報が断片的になります。また、気の合う仲間のみと群れる、ネットやラインによって居心地の良いネットワークは形成するが、バーチャルな世界での意見交換なので責任は負わない、このような状況はいたるところに蔓延してきているのではないでしょうか。そう考えると、情報化にはプラスの面もありますが、私たちの思考や知の形成、そして人間関係のあり方において、大きな問題点が表面化するような気がします。

    その解決策として多くの大学が取り組んでいるのが、プロジェクトベースドラーニング(PBL)、つまり課題解決型の学び方です。これは、企業の課題について、学生がグループになって専門家にインタビューしたり、企業訪問をしたりして考察し、3~4ヵ月後にその成果、つまり課題解決のビジネスモデルの提案を、企業の人たちに向けて発表するというようなプログラムです。

    大教室で教員が一方的に話すのを聞く講義形式とは異なった学び方で、教育成果があると思います。しかし教員が深く関わりアドバイスを頻繁にしないとうまくいきません。またPBLは少人数ならやりやすいですが、大人数でいかにやるかが課題で、本校でもそれを探っているところです。手間はかかりますが、こうした教え方をしないと、今の学生の主体的な学ぶ姿勢を引き出せないと感じています。

    笠原先生から保護者へのメッセージ

    「心を開く」ことで得られる驚きや感動を大切に

    跡見学園女子大学学長笠原清志先生

    子どもたちには、驚きや感動というものをいつまでも大切にしてほしいと思います。私は、子ども時代において、形や型から入ること、そして「異質なものに対する素直な驚き」がすごく重要だと思っています。これは、「心を開く」ことにつながります。心が開いていれば、関心が広がりよりたくさんの情報や知識が入ってくるようになります。そのために親ができることは、子どもが喜びや驚きに接したり感動したりする場や、異文化体験ができる機会をつくってあげることでではないでしょうか。

    学生の中にも伸びる学生と伸びない学生がいます。その違いは、心が開いているか開いていないかだと感じています。心が開いていると、いろいろな情報や知識を受け止めて、より成長していきます。しかし、優秀でポテンシャルはあっても、心や知的興味が閉じていると、異質な体験や情報が入ってきても受け止めきれないのです。もったいないと思います。

    社会には自分の努力だけでは越えられない壁があります。能力だけではなく、相手が「あの人いいね」と感じる人間的な魅力と教養があると、他の人たちの引きでその壁を超えられることがあります。ですから心が開いて多くのものを吸収し、人間的な魅力も深められるよう、生きた経験や学び、驚きを大切にしてほしいと思います。教養とはいろいろなことを知っているということではありません。自分を見つめるもう一人の自分を持つことです。

    私自身は、これからもミャンマーの寺子屋支援やバングラデシュのBRACスクールの支援、そして学校に行けない子どもたちに対する支援を続けていきたいと思います。そして、最終的にはミャンマーで寺子屋の先生対応の女子師範大学を作りたいと考えています。友人に同じような夢を持つ人がおり、ミャンマーの宗教省関係で理解者も増えつつありますので、頑張っていきたいと思います。

    あと10年くらいしたらできるかどうか、といったところです。これが、私のライフワークです。

    関連リンク 跡見学園女子大学 貧困層の子どもたちへ持続的な教育支援を目指して|KUMON now!


    跡見学園女子大学学長笠原清志先生  

    前編のインタビューから

    -笠原先生が打破したい「貧困の再生産」とは?
    -社会課題解決に向けて笠原先生が注目した公文の2つの考え方は?
    -笠原先生がソーシャルビジネスに関わるきっかけ

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