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Vol.062 2019.06.07

国連広報センター所長
根本かおるさん

<後編>

「好奇心」は大切な原動力
What, Why, Howを自らに問いかけて
思考やものの見方を広げよう

国連広報センター所長

根本 かおる (ねもと かおる)

兵庫県生まれ。東京大学法学部を卒業後、テレビ局のアナウンサー、報道記者勤務を経て、フルブライト奨学生として米国コロンビア大学国際関係論大学院で修士号を取得。1996年から2011年までUNHCR職員として、トルコ、ネパールなどで難民援助の最前線で支援活動に当たるとともに、ジュネーブ本部での政策立案なども手がける。WFP(国連世界食糧計画)の広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリージャーナリストを経て2013年より現職。著書に『難民鎖国ニッポンのゆくえ』(ポプラ新書)、『ブータン――「幸福な国」の不都合な真実』(河出書房新社)』など。

アナウンサー、報道記者というマスコミの世界から、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員に転じ、フリージャーナリストを経て、現在、国連広報センターの所長を務める根本かおるさん。自ら進んでキャリアを開拓してきたそのフロンティア精神は、子どもの頃、ドイツでマイノリティ(少数派)の立場を経験したことから養われたといいます。マイノリティとしてのチャレンジをどう克服し、どのようにして希望をかなえてきたのでしょうか。言葉のわからないドイツで「助けられた」という公文式学習の思い出とともに、国連が推進するSDGs(=持続可能な開発目標)の日本への普及・浸透など、現在尽力されている活動についてもうかがいました。

目次

インターンシップで難民支援の活動
自身のマイノリティの権利意識と重なる

根本かおるさん

アメリカの大学院に留学中、国連機関でインターンシップをする機会に恵まれました。そこで国連職員に求められる資質を内側から見ることができ、「もしかしたら自分にもできるかもしれない」と感じ、調べたら日本の外務省が若手を国連機関に派遣するJPO (Junior Professional Officer) という制度があることを知りました。年齢制限ギリギリだったので「これは今やらなきゃ!」と、在学中でしたがチャレンジしたところ合格。マスコミの世界には戻らずに、国連機関に移ることを決意し、当時、緒方貞子さんがトップのUNHCRに勤務することになりました。マイノリティであるがゆえに弾圧・迫害されて故郷に戻れなくなった難民を支援する組織は、自分のマイノリティの権利意識と重なっていると感じ、やりがいがありました。

その後2011年に組織を離れ、フリーランスのジャーナリストとして活動するようになった1つのきっかけは、東日本大震災でした。当時、日本にいた私は、日本自身が避難民を抱えている現状に、海外で培ってきた知見が役立つかもしれないと考えたのです。もう1つは、震災後に来日したブータン国王夫妻をきっかけとしたブータンブームです。ブータンは「幸せの国」として注目されましたが、私は国籍はく奪にあい、国を離れざるを得なかったブータンからの難民たちに寄り添った活動を長くしていたため、幸せだけの国ではないと知っていました。それなのにマスコミは一切そこには触れません。難民のことをここまで知っている自分が口をつぐむわけにはいかない。でも国連職員として書いてしまったら角が立ちます。そのため、2011年いっぱいで国連職員を辞めたのです。

この時期は一個人として何ができるかをすごく考えた時期であり、さまざまな勉強会に行く時間も持てて、「大きな組織を離れても、自分が信じていることに拠って立って生きていける」ことが皮膚感覚でわかりました。これまで完璧主義だった私は、「どうにかなる」と、いい意味でのおおらかさも身につきました。

その後、国連での経験とマスコミでの経験とを統合して役に立てる仕事だと感じ、国連広報センター所長の一般公募に応募して、現在に至っています。いろいろな転機がある中、私は「やってみたい」「楽しそう」と思う方に舵をきっていました。とくに女性は出産や育児、介護などライフステージにより、常に全力疾走するわけにはいきません。同時にいくつものことをこなす中、「何を最優先にすべきか」を考えて決めることが大事だと思います。

世界の共通語になりつつある SDGs とは?

SDGs は世界の共通語
「自分には何ができるか」を考えよう

根本かおるさん

現在、国連広報センターで注力しているのは、SDGs(=持続可能な開発目標)の普及・浸透活動です。地球温暖化、格差の拡大、紛争の増大・長期化など、このまま放っておくと、手がつけられなくなります。今の時代がこれに歯止めを打てる最後の時代といわれています。こうした21世紀型の課題に、伝統的な途上国の社会開発課題を合わせて、すべての国連加盟国が立ち向かうべき目標として2015年9月に定められたのがSDGsです。2030年までに17分野の目標達成を目指しています。

公文のように教育関係の企業に関連があるのが、目標4「質の高い教育をみんなに」です。途上国では、女の子は学年が上がるほど、早婚、若年出産、そして貧困のスパイラルから抜け出せないなどで、教育を受ける機会が少なくなります。

私が道を切り拓いて進んでこられたのは、やはり質の高い教育を受ける機会があったからで、教育は子どもたちの将来を大きく変えるものだと感じます。女の子が12年間質の高い教育を受けることにより3300兆円もの経済効果も生まれるという試算もあります。教育は人権や社会政策だけでなく経済政策でもあるのです。教育に携わっている企業は、途上国での子どもたちの生涯賃金や人生設計を大きく変えるドライバーになると期待しています。とくに女の子への教育投資をお願いしたいと思います。

SDGsは小学校では来年度から、中学校では再来年度から学習指導要領の中に盛り込まれます。今後、入試問題にも出てくるでしょう。早くからSDGsに触れて正しく理解し、17の目標にたどり着くにはどうすればいいか、「自分には何ができるか」を考えることが大切です。これは思考力を養う訓練にもなります。

例えば持続可能な社会をつくるために、「レジ袋をもらわない」「電気をこまめに消す」など足元からできることはたくさんあります。足元の行動は、世界規模で語られている課題とつながっています。SDGsは世界共通語としてシェアできるのです。そう思えば、自分の生活圏以外の人たちはどう暮らしているのか好奇心がかき立てられますし、刺激も受け、思考の幅が広がるきっかけになります。

根本さんからのメッセージ

「どうせ」という言葉は伝染する
親自身の後ろ姿を子どもに見せよう

根本かおるさん

国際的な仕事をしたいと思っているお子さんには、「言葉はツールだと思って身につけて」とお伝えしたいですね。言葉は、「世界に目を向けていろいろな情報に触れる」、「自分が考えていることを相手に伝える」、そして「相手の言おうとしていることを理解する」ためになくてはならないツールです。それを身につけているかどうかで世界の広がり方が全然違ってきます。

私自身は小学校高学年の頃、「ビートルズの歌詞を原文で理解したい」と思って、辞書を引きながら英語の歌詞にチャレンジしていました。料理好きな人は、各地の料理を現地の言葉で書かれたレシピでつくってみたいとか、映画好きなら字幕ではなくオリジナルの言葉で理解したいとか、いろいろな好奇心があるでしょうから、それを入り口にすればいいと思います。

私は、好奇心はとても大切なドライバー(=原動力)だと思っています。これは何なんだろう(=What)、なぜだろう(=Why)、どうなっているんだろう(=How)という視点を持つと、考え方が広がるので、子どもたちにはその視点を忘れないようにしてほしいですね。一番怖いのは「無関心」です。

保護者の皆さんには、「どうせ」という言葉を使わないことをお願いしたいですね。「どうせ」は可能性の芽を摘んでしまう言葉で、伝染してしまいます。親がいろんなことにおもしろがってみたり、怒ってみたりする姿を、子どもは見て育ちます。そんな親自身の後ろ姿を見せればいいのではないでしょうか。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、計画段階からSDGsを盛り込むことができた初めての大会となります。世界40億人の人が視聴するといわれている一大イベントで、世界の注目が日本に集まります。そうした場で、日本の委員会メンバーと力を合わせて、SDGsの発信をしていく予定で、大きな手応えが得られるのではないかと期待しています。

そして2025年には大阪・関西万博があります。これも「SDGs万博」として誘致しているので、影響力に期待がかかります。1970年の大阪万博の時、私は7回行きました。世界に目を向けるきっかけとなった体験の1つです。私がワクワクしたように、2025年の万博も、子どもの好奇心をかき立てる、心に残るものになってほしいと思います。国連も何らかの形で関わっていくと思うので、今から楽しみにしています。

前編を読む

関連リンク 国連広報センター


根本かおるさん  

前編のインタビューから

-外国が身近な存在だった子ども時代
-ドイツでの学校生活を救ってくれたもの
-「道がなければ切り拓く」発想の原点になったのは?

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