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Vol.022 2015.06.26

国際基督教大学教育研究所顧問
千葉杲弘先生

<後編>

チャンスがあるところに
舞い降りてくる

異文化に接することで「自分」を理解して
夢の実現のために学び続けよう

国際基督教大学教育研究所顧問

千葉杲弘 (ちば あきひろ)

1934年東京生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業、同大学大学院教育学研究科修了。1961年、ユネスコパリ本部教育局入局。ユネスコアジア太平洋州教育事務所次長、ユネスコ本部教育局次長、同オペレーション事業調整局局長などを務めたのち、1991年より国際基督教大学教授、2004年より2008年まで同大学COE客員教授。日本ユネスコ国内委員、日本ユネスコ協会連盟理事、世界寺子屋運動委員会委員長、ユネスコアジア文化センター識字協力委員会委員長などを歴任。

日本人として当時最年少の27歳でユネスコ(国際連合教育科学文化機関)のパリ本部に勤務し、世界を舞台に基礎教育の普及と発展に努めてきた千葉杲弘先生。小6のときに終戦を迎え、そのときに感じた平和のありがたさから、ユネスコで働く夢を抱き、実現させました。異文化・多文化のなかでさまざまな経験を積まれた千葉先生が、夢をもつことの素晴らしさを語ってくれました。

目次

「世界を教室」に自分と違った環境に身を置いてみよう

 
国際基督教大学教育研究所顧問 千葉杲弘先生

念願だったユネスコに勤務した私でしたが、定年まで3年を残し、57歳で国際基督教大学(ICU)の教員に転じます。31年間の勤務のなかで、自分がやるべきことはやれたかなという思いと、私がユネスコで体得してきたことを後進の学生に伝えたい、また自分自身が新たな環境に身を置くことで新たな学びが得られるのでは、との思いもありました。

授業で最初にとりあげたのは「識字」の問題でした。日本では「文字の読み書きができるのは当然」との認識がありますが、世界にはそれができない人は何億人もいると伝えると、学生は大きなショックを受けたようです。実体験を交えながらの講義には、ほかの大学の学生までもが聴きにくるようになりました。実際のリアリティから教育の理論を組み立てていくという点に、面白味があったようです。

そんなある時、女子学生が「途上国に連れて行ってください」と訴えてきて、十数人の学生たちとフィリピンへ行くことになりました。フィリピン大学の寮に宿泊して、現地の学生たちとの交流と視察。ゴミの山が自然発火して煙が出る様子から「スモーキーマウンテン」と呼ばれるスラム街にも行きました。私が想像する以上に若い学生たちのショックは大きかったようです。同じ人間なのに、なぜ彼らはここで一生過ごさねばならないのか、自分たちはなぜ恵まれているのか。

自分たちとは違う環境の中に身を置いてみて、「どうしてそうなのか?」「何かできるのではないか?」と考えるようになったのは、とても大きな収穫でした。やはり教室から外へ出てみなければ、学べないものがある。「世界が教室」でなくてはならない、と改めて思う出来事でした。

その後帰国した学生たちは、国際理解を目的とした「ユネスコクラブ」を学内で立ち上げます。これは現在でも続いている活動です。そしてそうした学生たちのなかから、現在は国際機関で働いたり、国際教育に携わる人たちがたくさん出てきているのはうれしい限りです。

千葉先生が考える「グローバル人材」とは?

その子がどういう人間かを理解させた上で夢をもたせてあげよう

国際基督教大学教育研究所顧問 千葉杲弘先生

現代は可能性がたくさんある時代です。夢をもてば、かなえられる可能性は非常に大きい。でも、「やりたいことがわからない」「夢がない」という子もいるようですね。私は、「夢があるところにチャンスが舞い降りてくる」と思います。夢がなければチャンスは素通りしてほかの人のところに降りてしまう。学校や教育の役割は、まず、子どもたちに「自分は何か」「どういう人間か」をよく理解させ、そのうえで夢をもたせてあげることだと思います。

気になるのは、「偏差値を高くする」ことだけを目指している傾向です。偏差値を高くしたあと、「自分は何をするか」がなければ意味がありません。「偏差値」とは違って一人ひとりがもつ夢には競争も序列もありません。夢はその子固有の価値であり宝物です。その宝物が何かを自分で気づき、追い求めていってほしいと思います。

そのために、私が自分の人生を通して効果的だと思うのは、やはり「異文化に接すること」です。同じ環境にいて同じ生活を送っていると、なかなか新しいことを考えられませんし、世の中に違う考えの人がいること、違う道があるということにも気づきにくい。何より異文化に接することで、「自分」というものをもう一度見直す機会が得られます。そしてそこからの学びを、自分の体内に吸収して、自分の人生の中で活かしていく。それが夢の実現にもつながります。

教育とは”teaching”ではなく”learning”、つまり「教える」ことではなく「学ぶ」こと。先生やカリキュラムや教科書がどんなに立派でも、生徒が学ばなければ教育とはいえません。我々大人はそっとその背中を押せばいいのです。「いいアイデアだね」「頑張っているね」。そんな言葉が子どもたちを変えていきます。

KUMONの主催するEnglish Immersion Campに参加した子の中には、「飲み水がきれいではないのでお腹を壊して命を落としてしまう子もいる」と途上国の人から聞き、「井戸をつくりたい」という思いを実現させた子や、缶のプルタブを800kg集めて車いすを寄付した子もいます。「自分と違う」状況の人に接して「なんとかしたい」という思いを実行したわけですが、子どもにはそういう何かを成し遂げる「爆発力」があって、夢を支えてあげるとそれを存分に発揮します。これからの日本には、そういう人が増えていくことを期待します。

近年「グローバル人材」といわれますが、私の経験を振り返ると、語学だけでなく、どこに行っても力強く生きていけるタフさ、また個人として生きていけるだけでなく、周りの人と協力して成し遂げていこうという気力があること、さらに新しく生み出したり改良したりする意欲、弱者に対するいたわりの気持ちや、みんなが良くなるという意識、そうしたものを持つことが大事だと思います。

千葉先生が考える「学び」とは?

たくさんの夢を脳みその中に詰めこもう

 
国際基督教大学教育研究所顧問 千葉杲弘先生

私はいま、引退後の活動のひとつとして、日本ユネスコ協会連盟による世界寺子屋運動にもかかわっています。途上国に読み書きを学べる場所をつくる運動で、現地のNGOなどと協力して進めています。近年は経済的な支援だけではなく、現地の人たちが寺子屋で学習したことによって収入を得て自活できるようにし、自分たちがやりたいことを計画、実施できるようにする方針を立てています。

運動開始から25年が経ち、今後の方向性の改善を考える時期になり、私もまだまだ学ばねばならないと思いを新たにしています。ユネスコからICUに転じたときも発想の転換が必要でしたが、今はさらに若い子どもたちと付き合うことがあり、自分もまた進化していると感じています。

私にとって「学び」とは、新しいことを吸収しながら自分の考え方をもう一度考え直すこと。私自身、自分の関心というものをつねに新鮮にしていくよう心がけてきました。そして、学びは生きている限り続いていくものだと思います。

子どもたちには、思いきり楽しく生きてほしいですね。そして願わくは、たくさんの夢を脳みその中に詰め込んでもらいたい。じつは世の中には正解のある問題のほうが少ないです。たくさんのことを学んで、自分の力だけではなくて周りをまきこんで、解決をするための力をつけてほしいです。明日につながる学びを追い求め続けてください。

国際基督教大学教育研究所顧問 千葉杲弘先生  

前編のインタビューから

– 空襲警報におびえ疎開先で終戦をむかえた子ども時代 
– 平和や教育の大切さから「ユネスコで働きたい」という夢へ
– 念願のパリ本部で働くことになるきっかけとは?

前編をよむ

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