「子どものこころを診ることができる小児科医になりたい」そう決意した研修医時代

小児科医になろうと心に決めたのは医学部5年生のときです。研修に入ってすぐ、2歳の子が髄膜炎で意識不明の状態で救急搬送されてきました。幸い2週間くらいで見事に快復したのですが、わたしが微笑みかけてもニコリともしません。わたしはその子の笑顔が見たくなり、臨床研修の最終日に「よくがんばったね。ごほうびをあげるよ。どれがいい?」とシールを見せたら、初めてニコッと笑ってくれたのです。そのとき、子どもの力のすばらしさを感じ、「小児科っていいな」と感じた瞬間でした。
そして、「子どものこころを診られる小児科医になりたい」と思うようになったのは、大学卒業後の研修医1年目のときです。小学1年生の男の子との出会いがきっかけでした。その子は原因不明の病気で、下痢がつづいて入退院のくり返し。わたしは主治医の回診に同行して彼を診るのですが、自分のベッド周りのカーテンを締め切り、いつもうつむいて何もしゃべらない……。
「どこか痛いのだろうか?」「気落ちしているのかな?」とその子が気になっても、回診中はつぎの子を診なくてはなりませんし、研修医なので勝手に彼の病室に残ることもできません。すべての回診の終了後に、その子の部屋にもう一度行き、いろいろ話しかけてみました。でも、何日たってもほとんど反応がありません。そうして、「わたしではだめなのかな」と思いはじめたころ、その子がポツリポツリと話しだしたのです。「なぜボクだけお腹が痛くなって、こんな検査ばかりなんだろう」「生きていたくない」と。その言葉から、彼の気持ちが痛いほど伝わってきました。それは、子どもの心のケアの大切さを感じた瞬間でもありました。
病院の検査は楽しいものではありません。がまんが必要だし、痛みをともなう検査もあります。それがたび重なれば、心が折れそうになることもあるでしょう。わたしは彼にこう説明しました。「いまね、わたしたちはきみのお腹の痛くなる原因を調べています」「そのために検査をしています。きょうの検査ではこんなことが、きのうの検査ではこんなことがわかるんだよ」と。何日かかけてくわしく話をすると、ようやく彼の表情が明るくなりました。そして、退院するころには「ボク、大きくなったらお医者さんになる」と言ったのでした。
このときです。「医学的に子どもたちの身体を診るだけでなく、子どものこころにやさしく触れながら、一人ひとりによりそう医療をめざしたい」と真剣に思うようになったのは。