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Vol.077 2021.05.14

株式会社roku you代表取締役 教育クリエイター
下向 依梨さん

<前編>

人には自分で思う以上の可能性がある
それを磨くために
解像度を上げて日常を見てみよう

株式会社roku you代表取締役 教育クリエイター

下向 依梨 (しもむかい えり)

大阪府生まれ。中高一貫校に進学するも、高校はスイス公文学園へ。慶應義塾大学総合政策学部に進み、社会企業家について研究。在学中に、社会起業家育成のパターン・ランゲージを開発、出版。その後、米国・ペンシルベニア大学教育大学院で発達心理学において修士号を取得。帰国後は東京のオルタナティブスクール(小学校)で算数・英語などを教える。教材会社で働く一方で、フリーランスとして教育関連の企画など複数のプロジェクトに従事。2018年、教材会社を退職し、教育クリエイターとして独立。2019年に株式会社roku youを設立、代表取締役に就任。一般社団法人日本SEL推進協会代表理事も務める。

「子どもたちによりよい学びを提供したい」そんな思いで全国各地の“現場”を駆け回っている教育クリエイターの下向依梨さん。SEL(Social Emotional Learning)という手法を取り入れ、教育委員会のコンサルティングや探究学習のカリキュラムづくり、教員向けの研修企画運営など、さまざまなアプローチで教育界に風穴を開ける活動をしています。小中学校時代は学校になじめない「闇の時代」を過ごしたそうですが、スイス公文学園に進学して一転。そこでの出会いや体験が今の活動の原点になっているといいます。沖縄を拠点に活動し、「泡盛ガール」としての一面も持つ下向さんに、スイス公文学園でのエピソードや現在の活動、今後の夢などについてうかがいました。

目次

学びは楽しくおもしろい!
「学びのプロダクション」として様々な仕掛けを提供

下向 依梨さん

私が経営する会社のキャッチコピーは「学びプロダクション」。既存の教育界の関係者では、なかなかできないような教育の企画や製作、コンサルティングなどをしています。スタッフの背景も様々で、クリエイターに近いので教育クリエイターと名乗っています。

例えば、全国主要都市を中心に37キャンパスを展開する通信制の高校では、3年間かけて全キャンパスにプロジェクト型の学び(PBL: Project Based Learning)のプログラムを提供しました。沖縄の高校では地域課題に向き合う総合的探求の時間をコーディネートしています。島しょにある小規模小中高にはオンライン授業や部活の導入支援をしました。このように学びには様々なアプローチがありますが、限定したくないので、「学びのプロダクション」と掲げています。

教育アプローチのひとつにSEL(Social Emotional Learning=社会性と情動の学習)という手法があります。他者を理解した上で良好な関係を築ける「社会スキル」(Social)、自己認識能力や自己管理能力など「気持ちや感情に関わるスキル」(Emotional)というふたつを伸ばす学び(Learning)のことをいいます。さらに詳しく言うと、SELには、「自尊感情」(自分が価値のある人間であると感じられている状態)と「対人関係能力」を伸ばしていこうという目的があります。

これは私がアメリカでの大学院時代に出会った手法で、日本の教育にも必要だと感じています。そこで一般社団法人をつくり、講座を開催するなど普及浸透に努めているところです。

実は「泡盛ガール」として、メディアで泡盛について発信したりしています。泡盛に関心を持ったのは、教育関連の仕事を続けることに悩んでいた20代中頃。600年の歴史があり、物語をはらむ泡盛の奥深さにひかれ、そのおもしろさを同世代に伝えたくて、3~4年前から「泡盛ガール」を名乗っています。

社名のroku youは、琉球王朝時代に書かれた『六諭衍義』(りくゆえんぎ)という書物に由来しています。人が人として身につけなければならない6つの教え(六諭)が記され、ひと言でいえばハートとマインドの教科書です。沖縄の言葉でいえば、「ちむぐくる(肝心)」。「頭と心」ではなく「肝と心」を大切にしているのは、SELとつながる部分があると感じています。

立地条件がよく、歴史的にいろんな国から目を付けられてきた沖縄は、戦ではなく対話とおもてなしで平和と調和に務めてきました。根底にあるのは「ちむぐくる」です。私はここに世界の未来のあり方があると思っています。そんな沖縄の可能性と私の思いが重なり、「ちむぐくる」の教科書といえる『六諭衍義』の一部を社名に使わせていただきました。きっかけとなったこの本は、琉球宮廷料理のおかみさんからいただいたもの。私の大切な宝物です。

答えのない問いを考えるのが好きな子ども時代

「答えのない問い」を問うことが好き
周囲になじめなかった小中学校時代

下向 依梨さん

私は大阪府豊中市で生まれ育ちました。子どもの頃の記憶というと、校庭で走り回っていたことと、旅で自然を満喫していたことでしょうか。母によると、2歳くらいから「なんで?」と問うのが好きだったそうで、それは学校に入ってからもずっと続いていました。体を動かすのも大好きで、学校の休み時間には男子と野球をするなど活発でした。

そんな私にとって、コンクリートに囲まれた自宅周辺は退屈な場所。そこから私を旅に引っ張り出して、世界の広さを教えてくれたのが両親です。とくに父は若い頃、バックパッカーで世界一周をした経験もあり、聞いたこともない言語で現地の人とコミュニケーションをとる姿は私の憧れでした。4歳上の姉と家族4人で国内外さまざまな場所に行きました。初めての海外旅行は小1の頃、ニュージーランド。スイスやオーストリア、カナダなど自然豊かな場所が多かったですね。

私はなぜか小さい頃から数字が好きで、同じく数字好きの祖父とよく数で遊んでいました。箱に並んでいるお菓子を使ってかけ算・割り算を3歳くらいからしていたそうです。そんな姿を見ていたからか、姉が私に宿題をやらせるようになって……(苦笑)。ただ、それがとても楽しくて、「小学校に入ればこんな楽しい勉強がもっとできるんだ!」とワクワクしていました。ところが4学年上の勉強をしていたので、入学したら授業があまりにも簡単で、退屈で……。

勉強だけでなく友人との話題にもなじめませんでした。旅でおもしろかった出来事を友だちに話すと、「自慢しているの?」と返されたり、疑問に感じたことをいうと怪訝な顔をされたり。自分の感情を周囲に伝えることができなくなり、闇の時代を過ごしました。

知的好奇心の高い子が集まる学校に行けば違うのではと思い、中高一貫校を受験して進学しました。ところがそこでは、「テストをいかに効率的に解いて、いかに東大に行くか」という話題ばかり。私は答えのないことを問いたかったのに、温度差を感じ、中3になると登校する日も減っていきました。このまま日本の学校に行き続けて私の未来はあるのか、と思い悩みましたね。

現在の活動の原点となった高校時代

日本の学校生活を飛び出しKLASへ
「対話」を経験したことが現在の活動の原点に

下向 依梨さん>スイス公文学園にて

転機となったのは、中3の夏休みにカナダのサマースクールに参加したことです。ここでは「子育ては男性がすべきか、しないべきか。それはなぜか」など、私が求めていた「答えのない問い」を様々な国の子と議論する経験をしました。それがとても楽しくて、「海外の学校に行けばこうしたことができるんだ」と考え、留学雑誌を買い込んでスイス公文学園(KUMON Leysin Academy of Switzerland/KLAS)を見つけました。

最終的にKLASを選んだのは、4ヵ国語を公用語とするスイスという場所に可能性を感じたこと、日本人の生徒が中心なので親も安心できる、といったことからです。父は「思っていたより早いけど、海外へ行くのはいいことだ」と歓迎してくれて、母は不安そうでしたが反対はしませんでした。

親元を離れてスイスに行くことには私自身も不安はなく、むしろコンクリートに囲まれた生活からの開放感で一杯でした。KLASでは1年目にとても印象深く、また現在の私の活動の原点となっている忘れられない出来事がありました。入学して2ヵ月経った頃、いつも一緒にご飯を食べているメンバー6人で、これまでの振返りをやろうとなりました。「みんなストレスたまっているよね。お互いに吐き出そう」と。各自が残りの全員に「いいところ」「直してもらいたいところ」を伝え合いました。そのとき驚いたのは、「あなたのことをもっと知りたいし、仲良くなりたいから、言いにくいことも言うね」と言われたことです。これまで私は信頼できる友人はおらず、その子がいやだったらそれで関係は終わりだったので、心底びっくりしました。同時にとてもうれしかったことを覚えています。

このときの「対話」で、これまでいかに自分が無自覚に人を傷つけていたか気づきました。例えば私はこれまで成績トップで、できない子を見下していた、そのことにも気づいていませんでした。それから他者を理解する難しさと同時に、信頼関係を築くおもしろさも知ることができました。以来、「対話」が私のテーマとなり、それが現在の活動にもつながっていると思います。

後編を読む

関連リンク

株式会社roku you日本SEL推進協会スイス公文国際学園高等部(KLAS)公式サイトスイス公文学園高等部(KLAS)の3つの柱 |KUMON now!スイス公文学園高等部 |KUMON now!


下向 依梨さん   

後編のインタビューから

-KUMONで出会った敗北感と達成感
-人の成長に欠かせないあるものとは
-リアルなものに触れることで可能性が広がる

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