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Vol.056 2018.07.20

朝日新聞社
編集記者 逸見那由子さん

<後編>

人生成功失敗もない
周囲と競わず
自分のペースで進んでいこう

朝日新聞社 編集記者

逸見 那由子 (へんみ なゆこ)

1985年神奈川県生まれ。地元の中学を卒業後、スイス公文学園高等部へ進む。在校中は、短期フランス留学や、ボスニア・ヘルツェゴビナへのボランティアツアーなどを経験。卒業後はフェリス女学院大学へ進学。大学3年時に交換留学生として北京の清華大学へ留学。2009年に朝日新聞社に入社。岐阜と岡山で取材記者を務め、本社に異動、編集記者に。

朝日新聞社に記者として入社し、地方総局での取材記者を経て、現在、本社で編集記者として活躍されている逸見那由子さん。逸見さんが新聞記者になったのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。高校時代を過ごしたスイスでの生活やそこで得た学びなどについてもうかがいました。

目次

    中国で新聞社のインターンを経験したことが転機に

    逸見那由子さん

    スイス公文学園を卒業後し、2005年にフェリス女学院大学に入学しました。ちょうど日本の首相の靖国神社参拝や歴史教科書問題で、中国の反日デモが激化していたころです。中国の人たちが日の丸を燃やしたり、日系スーパーを襲撃したりするデモの様子をニュース番組で見ていて、違和感を覚えました。戦争を経験している世代ならともかく、なぜ若い人たちがこんなにも怒りで暴徒化するのだろうか、と。それが中国に関心を持つきっかけでした。

    実際に中国の人と話をしてみれば何か気付きがあるのではと思い、中国語を学び始めました。大学3年時には北京の清華大学に交換留学生として1年間留学しました。現地で改めてわかったのは、一人の中国人を見て、「中国人はこう」とは言えないということです。当たり前のことですが、テレビに映っている中国人がすべてではないし、日本の漫画が好きと言いながら反日デモをする人もいる。人の感情は一辺倒ではないと学びました。

    新聞記者を目指すきっかけとなったのも留学中です。夏休みの約2か月間、北京にある日本の新聞社の総局でインターンをしたことが転機でした。当時は、中国の研究を続けたくて大学院に進むつもりでした。でも、夏休みに旅行したりや語学学校に通ったりする費用が足りず、勉強を兼ねて新聞社でインターンするのもいいかな、と在中の会社に片っ端から電話をかけました。唯一採用してくれたのがその新聞社でした。

    北京オリンピックの前年だったので、オリンピックを取材する記者のためのアポ取りや通訳をしました。間近で記者の姿を見ていて、「現場に行くからこそ見える中国があるのではないか」と思うようになったのです。中国のメディアだと報道できなくても、外国メディアであれば報道できることも知り、いろんな側面を取材できるのではと、記者という仕事に興味を持つようになりました。

    帰国後すぐに就職活動をはじめましたが、新聞各社をはじめ、他のメディアも全滅。唯一合格したのが朝日新聞社でした。縁があったのでしょうね。私の人生は、出会いの中で先に進んでいる気がします。

    逸見さんが考える新聞の魅力とは?

    広げてみて、思わぬ記事と出会えるのが新聞の魅力

    逸見那由子さん

    今、とくに若者の新聞離れが言われています。新聞社の人間としては、もちろん新聞は読んでほしいのですが、インターネットをはじめ、いろんなネットメディアが登場して、多様な情報が出てくることは、前向きに捉えています。

    ただ、インターネットでは、検索するとトップに来るものをクリックしがちです。裏取り取材があいまいだったり、信憑性を見極めるのが難しかったりするケースもあります。

    一方、新聞はというと、朝日新聞でも取材し尽くせる限りのことを取材して書いていますが、後から新たな事実も出てきますし、物事の方向が変わることもあります。

    ですが、多くの場合、記者が現場に足を運んだり、当事者に話を聞いたりして記事を書いている。このことはとても貴重だと思います。もうひとつの大きな違いは、ネットはクリックして見るものですが、新聞は広げて見るものだということ。紙面を広げることで、いろんな記事に出会うことができます。自分の好きなものだけを食べるのではなく、「これもおいしいじゃない」と気づき、世の中の動きに対して幅を広げるきっかけになります。できれば他紙も読んで「いろんな考えがあるんだ」と思ってほしいですね。

    新聞記事は「へぇ」が大事、と言われます。「へぇ、こんなおもしろいことがあるんだ」「へぇ、そんな人がいるの」「へぇ、そういう考え方があるの」といった感じで、たくさんの「ヘぇ」を届けたいと思っています。

    紙媒体は減る傾向にあります。でも、現場に記者が行って取材して、ということは残っていくし、守っていかねばならないと思っています。かつての常識が今の常識でないように、変わっていくことも必要です。今の時代に合った形で、新たな可能性を探っていきたいと思います。

    逸見さんから子どもたちへのメッセージ

    当事者でなくても関心を持てるような記事を書いていきたい

    逸見那由子さん

    今後の取材テーマとして、関心があるのは「地方財政」です。地方総局にいたときにも取材していましたが、特に人口減少が進む地方で起こる問題は、これからの日本の問題でもあり、都市部でも無関係ではありません。

    たとえば子ども手当を充実させるとしても、そこを充実させるため高齢者の手当を減らさなくてはならないなど、全員にとって100%幸せな政策を約束することは難しい。でも、その中でも妥協点というか、幸せの最大公約数を考えていくことが大事です。

    待機児童の問題も老後不安も、当事者になるまでは身近な問題として捉えにくいものですが、多くの人に少しでも関心を持ってもらえるような記事を書ければと思っています。

    そして、こうした話題は選挙の判断材料につながります。政治家の公約や広報資料もありますが、どこまで本当かファクトチェックをしたり、他の候補者の政策と比較したりするのは新聞が得意とするところ。暮らしをどうしてくれるのか、わかりやすく伝えていきたいですね。

    今の世の中、勝ち負けを意識しがちですが、子どもたちには、人生に成功も失敗もないので、焦らなくて大丈夫と伝えたい。かくいう私もスイス公文学園時代、公文式学習をやっていて「あの子はもうあんなところまで」と他人を気にしていました。でも大事なのは、「自分がここまでできたから次はここ」と、自分自身が一つひとつ積み上げていくことなんです。

    そしてこれも私自身の経験から言えることですが、今現在、思うようにならなくても、後で振り返ってみて「あの時があったから今がある」と思えればいいのではないでしょうか。人は、その人なりの頑張りどきがあると思います。「ここで頑張らなきゃ」と思ったときに初めて頑張っても、遅くない。焦らず自分のペースで進んでいってほしいと思います。

    前編を読む

    関連リンク 朝日新聞社


    逸見那由子さん  

    後編のインタビューから

    -新聞記者の仕事とは?
    -逸見さんが社会的な問題に目を向ける素地を養った子ども時代
    -スイス公文学園での生活とは?

    前編を読む

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