一年の間に二つの生息エリアが潰されてしまった現実
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現在カヤネズミの生息エリアとなっているこの場所(京都市桂川流域)にたどり着いたのは、いくつかの偶然が重なってのことでした。私がカヤネズミの研究を始めたのが1998年。当時は今ほどカヤネズミのことは知られていなくて、研究もされておらず、どこに生息しているのかもよく分からない状況でした。
最初はとにかくカヤネズミがいそうな場所を本や論文を頼りに足で探して、ようやく出会ったのが、京田辺市にある同志社大学田辺キャンパス近くの休耕田。オレンジ色の小さな生き物を見て、巣も見つけてすごく感動したのを憶えています。ところが次にもう一度そこを訪れてみると、草刈りがされていて、巣もカヤネズミもいなくなっていました。
その後、今度はお茶畑近く、オギやススキが生える小さな茅原(かやはら)で赤ちゃんを見つけて、そこでカヤネズミの親子の観察をずっとしていました。そこが私の最初の調査地ということになりましたが、翌年の春には、開発にともなう土砂捨て場になってしまって……。それからまた探して、この桂川と同じ淀川水系の木津川の堤防に巣をたくさん見つけましたが、調査を再開して1か月後に、またも草刈りによって全滅してしまいました。この桂川を調査地にしたのは、その後です。
たった一年の間に少なくとも二つの調査地が潰されてしまったという現実に、私は危機感を覚えました。日本中でおそらくこんなことがあちこちで起っている、そうなればカヤネズミのような小さな生き物はあっという間にいなくなってしまうのではないか、という危機感です。
カヤネズミのおもなすみかは、オギやススキ、ヨシなどの、背の高いイネ科の植物がたくさん生える草むら(茅原)です。ハツカネズミやクマネズミ、ドブネズミなどの外来種と異なり、人家にすみつくことはありません。昔はふつうに川原や田んぼで出会える生き物でしたが、現在は絶滅の危機にある生きものの情報をまとめた「レッドデータブック」に掲載されるほど、日本から姿をだんだん消しつつあります。その理由は、天敵の増加や食料の不足ではなく、カヤネズミが住める草地の減少です。
そこで、研究と並行しながら保護活動をスタートさせました。それが全国カヤネズミ・ネットワークにつながっています。今は大学で教鞭をとりながら、琵琶湖・淀川水系で、カヤネズミの生態を調べたり、生息環境のモニタリングなどのフィールドワークに取り組み、各地で講演活動も行っています。