たったひとつの試合で味わった大きな挫折は神様が与えてくれた試練だったのかも

勉強やスポーツで大切なのは、そこで成功と挫折を味わうことだと思うんです。勝っていくことだけでなく、負けることも必要、そのどちらも経験することが重要だと思います。そして今、俳優としてお芝居をする上でも、「ここまで努力しないとこれ以上の結果は出ない」という感覚が身に染みています。
僕がやってきた陸上競技の場合は記録が明確に出ます。もし記録を0.1秒縮めたければどれくらいの練習をする必要があるのか、さらに1秒縮めたかったら……という感じで。ぐんぐん伸びている選手を見ると分かるんですよ。もし自分が400mを1日10本しか走らなくて、相手は15本走っていたら、その努力は如実に結果に表れる。そういうことを知っただけでも、陸上を続けてきて良かったなと思います。何しろ陸上にまぐれはありませんから。
大人になると、壁にぶち当たったりとか、絶対に無理だろうなということが自分の意識とは関係なくふりかかってくるものです。そういうときに必ず思い出すことがあります。僕にとって最初にして最大の挫折。それは高校3年生のときの400mハードル競技で失格になったことです。――全国大会に向けて将来がかかる重要な試合でした。
はっきりいって、そのときは人生が終わったと思いましたよ。陸上選手として大学に推薦で進学して、そこから何かしら将来が広がっていくんだろうなと思い描いていた自分の道が、すべて断たれてしまったんですから。9年間がむしゃらにやってきた陸上を捨てて、また一から何かやらなきゃいけないのか……。そのときは自分の中で落ちようがないところまで落ちました。でもそうなると、あとは上を見上げるしかなかったんですね。そこからゆっくりゆっくり立ち上がっていった感じです。
この挫折は、きっと神様が与えてくれた試練だったんだろうなと、今はそう思えます。そして陸上一色だった自分にとって、唯一陸上以外で興味があったのが「俳優」という仕事でした。俳優、というかテレビに出る仕事がしたいと思っていたんです。それまで陸上競技でフタをしてきたその思いに、今度は真正面から向き合おうと思い、上京を決めました。