天文の世界を“不思議なもの”と思い続けた子どものころ

私の仕事は天文学を研究することです。星空は、国も地域も年齢も、道具を持っている・いないにも関係なく誰もが楽しめます。どこの国から眺めても、夏の大三角やオリオン座はあの形。星座はメソポタミア文明が起源と言われていますから、数千年前ですね。天文学は最も古い学問の一つでもあります。記録を残す以前から、人間は星の輝きや動きに注目していました。
数多くのアマチュアが活躍しているという点も、他の学問との違いと言えるでしょう。星空を見上げて「キレイだな」と思うだけでもいいし、道具を使って本格的に観測して深く追求してもいい。門戸が広い天文学は、学問であり文化だと私は思っています。
私と天文学の出会いは5歳のころ、近所の書店で両親が買ってくれた『宇宙』という図鑑です。これを読んだときに感じた不思議さは、いまでも強烈に憶えています。「月は地球の四分の一の大きさか」とか、「でも太陽に比べると、地球はこんなに小さいのか」とか。“わからないな、すごいな、不思議だな”という思いが興味の出発点でした。
また、実家から歩いて5分くらいのところにプラネタリウムを併設した科学施設があったんです。図鑑を見るだけでなく、近所の施設に足を運べたことも大きかったですね。もう一つの実体験としては、小学1年生のときから毎年夏に父親に連れて行ってもらったキャンプがあります。丸い天井に写し出されたプラネタリウムの人工の星とは違って、真っ暗なキャンプ場で見た星々は立体的に見えたんですよ。そのときの怖さに近い驚きを覚えています。
小学生時代の私と天文学との接点は、図鑑とプラネタリウムとキャンプ、この3つがミックスしている状態でした。宇宙の世界を“身近だけれど、手に取れない、すごく不思議なもの”として思い続けていられる環境で過ごせたことは、私にとって幸福なことだったと思います。