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Vol.076 2024.01.26

大阪大学大学院医学系研究科 小児科学・教授、医学博士
北畠康司さん

<後編>

親も子も続けるからこそ見える景色がある
保護者は子どもの人生の大切なレフリー
学習のリズムルールで導いていこう

小児科学・教授 医学博士

北畠 康司 (きたばたけ やすじ)

大阪府生まれ。大阪大学医学部卒業後、集中治療室(ICU)、大阪母子医療センター(当時は大阪府立母子保健総合医療センター)NICUなどを経て、京都大学大学院医学研究科で基礎研究に従事。卒業後、米国ジョンズ・ホプキンス大学の神経科ポスドク研究員に。帰国後は大阪大学医学部附属病院のNICUにおいて、小児科医・新生児科医としてたくさんの赤ちゃんの出生立ち会いと治療、外来フォローアップに携わる。またiPS細胞をもちいた小児難病研究の拠点代表として最先端研究を続けており、とくにダウン症候群の病態解明と治療法開発をめざしている。

医療技術の発達で、生まれる前の母胎にいるときの赤ちゃん(胎児)を診察・治療することが可能になっています。新生児集中治療室(NICU)で小児科医・新生児科医として働く北畠康司さんは、そんな胎児や生まれてきた赤ちゃんをケアするとともに、新生児の難病研究を続けています。数ある難病のうち、とくにダウン症候群(以下、ダウン症)の研究に携わる中で、発達を助ける方法のひとつの手段として、北畠さんが勧めているのが公文式学習だそうです。その理由のほか、iPS細胞を使った治療薬開発への道のりや医師として心がけていることなど、幅広くうかがいました。

目次

    帯状に「同じ時間にこれをする」と決めて、保護者がしっかり関わることがコツ

    2023年2月に行われた日本ダウン症療育研究会では、公文の方に「一人ひとりにあわせた学びでどの子も伸びる」という演題で、事例発表をしていただきました。

    事例で紹介された4才の女の子は、私の患者さんでもあります。そのお子さんはダウン症があるだけでなく、くちびるが割れた状態だったりする口唇口蓋裂という先天異常がありました。ダウン症のあるお子さんは、多くの場合言語発達の遅れがみられますが、その上、口唇口蓋裂だとしゃべるのがとても大変になります。

    ところがその女の子は、1歳前からBaby Kumonを始め、歌や読み聞かせなどの働きかけを続けた結果、今ではしゃべることができ、ひらがなを読んだり、数を数えたりすることができるようになっています。

    発表を聞いた保護者は、公文式教室にすでに通われている方の多くは「やっぱりこのままがんばります」と肯定的に捉えてくださり、教室にまだ通っていない保護者や一度やめてしまった方も「もう1回、考えてみます」と前向きに考えるきっかけにしてくださいました。

    実際、公文式学習をやめてしまったお子さんに、再度勧めることもあります。特に中学の特別支援学級に入ると、あまり宿題が出ないこともあるようで、そうなると学習リズムがほぼなくなってしまいます。また、特別支援学級の先生も、学習プログラムをいろいろ考えてくださっているのですが、足し算、ひらがな、お絵かき等々、取り組むものの種類が多くて一貫性がないと、ついていくのが難しいお子さんもいます。

    そこで私は、「自宅では15分だけでもいいので、毎日決まった時間に決まった内容をすること」を勧めています。帯状に「同じ時間にこれをする」としたほうが、一貫性があって無理がないからです。

    ただ、私はあくまでもきっかけを与えるだけで、やはり本人と保護者のやる気が大切です。また、「公文式教室に通わせればそれでいい」ではなく、学習には保護者にもしっかり関わってほしいですね。実際、保護者が積極的に関わろうとするといろいろな働きかけができるので、しゃべるのが早いケースがみられます。公文をうまく活用する・しないは、健常のお子さんと同じではないでしょうか。

    「学び」とは、「知りたいことを知ること」
    学びを得たら「噛んで含めるように」伝えたい

    北畠先生からのメッセージ
    「親はこどもの人生の大切なレフリー」

    私自身を振り返ってみると、実は「学んでいる」という意識はほとんどありません。「知りたい」から知るだけなんです。「学ぶ」というと、どこか努力が必要というように聞こえませんか? 何かをよく知っている人は「知りたい、知ろう」としているだけで、「学ぼう」と思ってはいないのではないかと思います。となると、「学び」とは、「知りたいことを知ること」と言えるのかもしれません。

    今、自分は経験も年齢もある程度経た立場になったので、学んで「自分だけ満足する」というだけではだめだと思っていて、今は特に学んだことを「伝える」ことにとても気を配っています。患者さんでも学生でもわが子でも、相手が十分理解できるように伝えることを意識しています。

    「噛んで含めるように」という表現がありますよね。動物の親が子に食べさせるときに、子がまだ幼いうちは消化しやすいよう自分が噛んで柔らかくして与えるように、言葉も相手が理解できるまで柔らかくしていく。堅いままだと消化不良を起こし、結局何も分からないままになってしまいます。

    そうならないよう、私は相手をよく見極めて、その上で自分の言葉をどれだけ理解してもらえるかを考えながら伝えるように心がけています。相手の様子を観察し、伝わっていなさそうであれば、言葉を変えて言ったり、違う例を出したりします。

    「子どもにルールを伝える」ときの大事な要素のひとつは、「自分の中でそのルールに一貫性を持たせること」。たとえば、「朝にお菓子を食べてはいけない」というルールを決めたのに、ある日はよくてある日はダメとなったら、子どもは「昨日はよかったのに、なぜ今日はダメなのか」と混乱してしまいます。

    もし例外が出てしまうなら、「本当はこういうルールだけれど、今日はこういう理由だから特別だよ」としっかり説明をします。そうすると子どもは「今日は特別なんだ」と理解します。

    その意味で、保護者は子どもの生活を形作っていく上で人生の大事なレフリーのような役割だと思います。レフリーが気持ちのままにイエローカードやレッドカードを切っていたら、子どもはワケがわからなくなってしまうでしょう。親の方が一貫したルールに基づいて、子どもを導いてあげてほしいと思います。

    そうはいっても、感情的になって、親の方がルールから外れてしまったりすることはありますよね。そのブレをいかに減らすか。それを私自身も意識しながら子育てをしています。

    続けているからこそ見える景色がある
    あきらめずに歩いて行こう

    勉強に関しては、自分もそうでしたが、本人がやりたくないときもあるし、応援している親の方もさせるのがイヤになるときがあります。でも続けていくと、やっぱりそこからしか見えない景色があります。「勉強を続けていてよかった」と思える日が必ず来るので、投げ出さずに続けてほしいですね。

    私自身も40歳を超えてから「勉強してきてよかった」と心底思えるようになりました。「こうしたらおもしろいことができるかも」とアイデアが出るのは、やはり勉強してきたからこそ。そのとき「小学校からずっと勉強してきたのは、この幸せな瞬間を感じるためだったんだ」と心から思いました。

    保護者の方も、「毎日の宿題が本当に子どもの役に立つのか」と疑問に感じることがあるかもしれませんが、「やっててよかった」とお子さんから感謝される日がきっときます。学び続けるツールのひとつとして、公文式学習は取り組みやすいので、活用してみるといいと思います。

    私自身の近い未来の夢は、ダウン症のあるお子さんとその保護者が、気楽に集まれる場づくりができたら、ということです。ダウン症の方だけでなく、知的障害のある人たちとのつながりをもっと深めていきたいとも考えています。

    そしてもう少し先の未来としては、やはりダウン症の治療法を世に出したいということです。それを実現するためにも、基礎研究をしっかり続けていくことが私の役割です。基礎研究は今すぐではなく、10~20年先に花が開く可能性があるものです。でも、それでは間に合わないお子さんもいますし、子ども時代を過ぎた大人にもいい人生を送ってもらいたい。ですから、いま目の前にいる人たちの発達指導やフォローアップにも注力していきたいですね。

    そうして臨床も基礎研究もブラッシュアップさせながら続けていくことで、私自身まだ見えていない景色を見ることができればと願っています。

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    前編のインタビューから

    -目の前の子どもたちのための診療と将来のための基礎研究
    -医師になって3年目、「神経と細胞死」を学びたいと各大学を回る
    -子どもの学びの「リズム」になる公文式は「育て方の学び」にも

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