英語指導者、英語落語実践者、駐ジョージア大使夫人
多彩な顔を持ち、国内外を駆け巡る
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私は現在、大学でTOEFL iBT®をはじめ、4技能統合型の英語教育の推進・指導をしています。「4技能統合型」というのは、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を、それぞれ伸ばそうとするのではなく、英語で読んだり聞いたりしてインプットしたものを、自分の中で咀嚼し、自分の言葉で話したり書いたりしてアウトプットする、という学び方です。こうしたことは、母国語ではごく自然にできるコミュニケーションですが、外国語では4技能を分けてしまいがちです。
大学で教えるほか、8年前からは英語落語をやり始め、国内外で公演しています。じつは落語は当初、英語教育のツールとして活用しようと考えていました。落語は感情をのせて話すことによって人に伝わる話芸です。ですから、「英語で伝える」ことに役立つのではないかと、以前から興味を持っていました。
指導で使うならよく知らないと…と、たまたま身近に英語落語を教えている同僚がいたのでその教室に入ったところ、自分で演じることにはまってしまいました(笑)。外国の方に公演すると、体をよじって笑ってくれるなど反応がとてもよく、こちらも楽しくなり、相乗効果で盛り上がるんです。今では高座に上がることが生活の一部になっています。
もうひとつ、3年ほど前からは、日本とジョージアをつなぐ活動もしています。ジョージアは、ヨーロッパ・ロシア・中東を結ぶ十字路に位置する国です。夫が駐ジョージア大使であるため、大学の授業がないときには現地に行き、ジョージアで活躍する各界の要人や専門家などとネットワーキングをしたり、2国の文化を互いに紹介する活動をしたりしています。
ジョージアは、四方を大国に囲まれ、北海道ほどの国土に数百万人が住む小さい国。旧ソ連時代は自治国としてソ連の統治下にありましたが、建国およそ2000年にもおよぶ歴史があります。私は現地では英語でコミュニケーションをとっていますが、公用語はジョージア語。どこの語族にも属さない言語学的に珍しい言語です。空手や柔道剣道などの武道がさかんな親日国で、ホスピタリティあふれるとても魅力的な国です。ワイン発祥の地でもあるのですよ。
TOEFL ®シリーズを勧める3つの理由
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私が4技能を統合して教えることがとても重要だと気づいたのは、20年ほど前、夫の仕事の関係でアメリカに滞在していたときです。私は学生時代から英会話学校で教えていたこともあり、現地の大学でTEFL(Teaching English as a Foreign Language:英語を母国語としない人に、英語を教える英語教授法)のコースを履修しました。ここでいろんな教授法に触れ、4技能統合型も学びました。帰国後、当時の日本では統合型の教授法はメジャーではなかったのですが、ちょうどその頃TOEFL iBT®が登場。以来、統合型の問題が出題されるTOEFL iBT®の指導に注力するようになりました。
TOEFL ®は、「英語圏の大学で学ぶ英語力があるかどうか」を測るテストです。力を伸ばすきっかけになるのはもちろん、世界基準で自分の英語力のレベルがわかるので、留学目的の人だけが受験するのではもったいない。多くの人に活用してほしいと思っています。
現在はTOEFL iBT®のほか、小中学生向けのTOEFL Primary®、中高生向けのTOEFL Junior®の大きく3種類がありますが、当初は難易度の高いTOEFL iBT®だけでした。日本の中高生には難しく、もっとやさしいレベルができて欲しいと思っていたので、TOEFL Primary®とTOEFL Junior®ができたときは、とても喜ばしく感じました。
私がTOEFLシリーズを勧める理由は3つあります。まず、複数スキルを統合して回答しなくてはならない点です。聞き取ったり読んだりした内容を要約したうえで、「話す」「書く」など、実際の生活を疑似体験するような問題形式になっているということです。
2つめは、アカデミックな教材、つまりアメリカの教科書を使っている点です。TOEFL iBT®では、大学の教養課程で使う教科書を題材にしています。そのため難易度が高いのですが、TOEFL Primary® 、TOEFL Junior® は小中学校の教科書を題材にしています。私は、小学校で学ぶ内容を英語でマスターできれば、ほとんどの会話に困ることはないと思っているので、十分だと思います。
3つめは、このテストが「日本で」ではなく、「現地で」つくられていることです。アメリカ人にとって当たり前の話題を選んでいるので、日本人には「あれ?」と感じることもありますが、そうした「国が違えば見方が違う」という気づきを得るのは大事なことだと思います。
やさしい英語をたくさん聞いて
「伝えよう」という気持ちで音読するのが上達のコツ
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本年度から小学校5,6年生で英語が教科化されましたが、私自身は、小学校で教科化され、言語活動として英語を学び、その後に知識として文法を学習するのは良い流れだと思いますし、必要な改革だと思っています。言葉はあくまでも手段なので、「英語を使って何をしたいのか」に早く気づくことがさらに大事で、早い時期に英語に触れればその可能性も高まるからです。目標によって学び方も違ってきます。
大学で教えていると、現在の日本の高校ではいろいろな教え方があるのだなと実感します。従来のように訳読中心の学校もあれば、コミュニケーション重視の学校もあり、そのため文法がわからない学生がいたりもします。コミュニケーション重視の方向性は間違っていないと思いますが、文法も避けて通れません。文法的に正しくないと、真意を伝えられないからです。言葉は「伝える」ためにあるので、音読をする際にも「ただ読む」のではなく「伝えよう」という気持で読むことが英語力を伸ばすポイントです。
公文式の英語学習でいいなと思うことのひとつは、音読を取り入れている点です。その際も、「ただ読む」のではなく、「先生に話の内容を伝えよう」という気持ちで読めば、効果が上がるでしょう。
私は4技能の中でもリスニングが大事だと思っています。リスニングは「音が聞き取れる」だけではなく、内容を即座に理解しなくてはなりません。音や単語、構成も自分の中に取り込んで咀嚼しなくてはならず、総合力が試されるからです。
ところが、リスニングに時間をかける人が少ないと感じます。学校で時間を割けないという事情もあるかもしれませんが、リスニングは本来自分でできることなので、積極的に取り組んでほしいですね。その意味では、公文式で使われている「E-Pencil」はよい教材だと思います。正しい発音を小さいときから知ることができますし、「聞く」ことは手軽でないとなかなか続かないからです。
ただ、自分の英語レベルより高い“理解できていない英語”を聞き流していてはなかなか上達しません。時間的に長く聞くのではなく、ひとつの話を深く聞くこと、スクリプトを用いて聞き取れていない原因を探り、意味の分かったものを聞くことが大切です。「わかった」からとすぐに次のレベルに進むのではなく、その「わかった」話を何回も繰り返し聞いて、「わかった」という成功体験を積み重ねることがポイントです。
つまり、英語力アップの近道は、自分にとって「やさしい」と思う英語を、聞いたり読んだりする“量”を増やすこと。そして、読んだり聞いたりした内容を、人に「伝えよう」という気持ちで、書いたり話したりしてください。
自分の意見を「伝える」コツとしては、最初から「私はこう思う」というのではなく、何かを一緒に読んだり聞いたりして相手との話の土台をつくって、その上で自分の意見を相手に伝える、というプロセスが大切だと思います。
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後編のインタビューから -英語指導者の道に進もうと思われたきっかけ |