新しい事業は「常識を疑う」ことから生まれる
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私はアントレプレナーシップの専門家として、大学院で学生に「アントレプレナーと経営戦略」をテーマに講義をするほか、企業の外部取締役なども務めています。
「アントレプレナーシップ」はもともとフランス語です。日本語でニュアンスを伝えるのは難しいのですが、「アントレプレナー」というのは、「企業家」「事業家」「経営者」といわれる人たちの中でも、とくに「リスクをとって新しい事業を創造する人」を指します。皆が気づいていないのに、「この見方を変えたら価値があるのでは」というように、既存のルールに挑む「常識を疑い、代替案を出す人」ともいえます。
そもそも事業というのは、何か「困ったこと」があったとき、それを解決するために生まれるものですが、そこに至るまでにはいろいろな制約があります。その制約があるにもかかわらず可能性を追求し、困難に向き合いながらも新しい事業を創造するという、ある意味矛盾した営みをすることが「アントレプレナーシップ」です。ただ矛盾しているので、じつは徒労に終わることも多い営みでもあります。
しかし、その過程で別の掘り出し物を見つけることもあり、それはそれでおもしろいと思えたり、何も得られなくても「いい旅だった」と思えたりする。そんな精神力や世界観も、アントレプレナーシップの考え方といえるでしょう。
私が経営学に関わるようになったのは、1990年代からですが、当時から「科学技術の事業化」に関心がありました。のちに書いた「大学発ベンチャーの組織化と出口戦略」(中央経済社)という著作では、科学技術をビジネスにする過程で、何が問題になるのか、どうしたらそこに関わった人たちにとって納得できる帰結になるのかといったことをまとめ、平成28年度日本経営学会賞(第90回大会)をいただきました。