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Vol.065 2020.11.20

もり内科クリニック院長/
布施医師会(東大阪市)理事
田仲みすず先生

<前編>

「できること」「得意なこと」に目を向けよう
できないことが増えても、まわりが上手に合いの手を入れる
「お餅つきサポート」で、地域の誰もが笑顔になる

もり内科クリニック院長/布施医師会(東大阪市)理事

田仲 みすず (たなか みすず)

三重県生まれ。近畿大学医学部卒業後、大阪大学第二内科入局。その後市立吹田市民病院、大学病院を経て学位取得。人間ドック中心のクリニックに勤めた後、石垣島の診療所にて約3年間勤務。その間、高速船で離島への診療も行う。大阪に戻ってからは、急性期医療・慢性期医療の両方に対応したミックス型病院にて働く。その後勤務した介護老人保健施設に「学習療法」を導入。クリニック開業後も「認知症サポート医」として「学習療法」の実践と普及活動を継続。2019年には所属する布施医師会に「脳の健康教室」開講を働きかけ、東大阪市の「一般介護予防事業」として実現。地域のコミュニティづくりにも貢献している。

「身近で何でも気軽に相談できるかかりつけ医」をめざし、内科・小児科のクリニックを運営する田仲みすず先生。さまざまな診療現場を経験する中で、「生きる」上での質の重要性を実感し、訪問診療や往診にも注力する一方、認知症維持・改善のための「学習療法」、認知症予防としての「脳の健康教室」の活用・普及にも精力的に取り組まれています。エネルギーとユーモアにあふれた田仲先生ですが、幼い頃から「人生は修行」と思い続けていたとか。これまでの道のりを振り返っていただきながら、学習療法の導入や脳の健康教室開講に至る経緯や効果、認知症ケアの現場で感じることなどについてうかがいました。

目次

目指したのは、地域に根ざした「元気をもらえる」クリニック

もり内科クリニック院長・東大阪市布施医師会理事 田仲みすず先生

私は、42年間地元で診療を続けてきた父からクリニックを引き継ぎ、2011年に新たに開院しました。内科と小児科を診療していますが、患者さんの6割が75歳以上の方です。私が目指すのは、「身近で何でも気軽に相談できるかかりつけ医」。そして「楽しく通えるお医者さん」。クリニックに来たら、元気をもらって帰ってほしいので、自分からそうした空気を醸し出すことが大事かなと思い、いつもテンション高めに診察しています(笑)。

いろいろな現場で診療してきた経験から、「生きるとは」をテーマに「質の高い生活を送るお手伝いをしたい」ということをクリニックのコンセプトにしています。そのため、グループホームでの医療管理も含めて訪問診療や往診にも注力しています。

クリニックで診療するだけでは、患者さんがふだん、どんな生活をしているかは見えてきません。訪問することでその人の生活状況や家族との関わり具合などがひと目でわかり、そこから「どうしたらその人にとって質の高い生活ができるか」のヒントが見えてきます。こう考えるのは、往診をしていた父の姿を間近で見ていたことが影響しているのかもしれません。

クリニックを開院する前の4年間、介護老人保健施設(老健施設)に勤務し、そこで認知症の方、困っているご家族とたくさん出会いました。入所に至るまでみなさん悩み、苦しみ、戸惑って過ごされており、診療所として早い段階から寄り添いたいと思い、開院時から「ものわすれ外来」を行っています。認知症診療に関わる医療機関として信頼され、“ど真ん中”からいろいろと発言したいと思い、地区の医師会活動に理事として参加し、新たに認知症担当部門を設置して頂き、さまざまな活動を続けています。

もり内科クリニック院長・東大阪市布施医師会理事 田仲みすず先生布施医師会主催「脳の健康教室」にて

その一つに東大阪市の地域ケア会議への参加があります。この会議では2019年に市民向けに、学習療法の共同研究者である東北大学加齢医学研究所の川島隆太先生をお呼びして「超高齢社会を元気に過ごすために~脳を鍛えて生き活きと輝く生活を~」とのタイトルで学習療法についても含めた講演会を開催しました。1,200人も集まり、会場はものすごい熱気で感無量でした。講演会はタイミングよく「脳の健康教室」開講準備の一環にもなり、その場で「脳の健康教室」の受講者(学習者)と教室サポーターを募りました。医師会の温かいサポートもあり、初年度は大盛況で終了。2年目の今年はコロナの影響が大きくなる冬を避け、開講時期を早めて現在進行しているところです。

「生きる質をどう高めるか」を考え続けて見つけた「学習療法」

テレビで「学習療法」と運命的な出合い

もり内科クリニック院長・東大阪市布施医師会理事 田仲みすず先生

私が学習療法に出合ったのは2007年。テレビ番組で見たことがきっかけでした。そのころから私のテーマは、「生きる質をどう高めるか」。ご飯を食べて寝るだけでは質が高いとはいえませんから、どうしたら楽しく過ごしてもらえるか、どうしたら笑顔になってもらえるかといったことを、ずっと模索していたのです。

そんなときに、番組で学習療法による高齢者の変化や笑顔をみて衝撃を受け、「これや!」と運命を感じました。「これをきっかけにして生きがいに結びつけていけるのではないか」と強く思ったのです。

当時、私は病院勤務でしたが、ちょうど老健施設に就職することが決まっていました。それで施設のオーナーにそのビデオを見せ、「私はこれがしたいのです」と力説しました。テレビでは効果があっても実際にどうなのか、自分の目で確かめたかったのです。理解していただき、入職して半年くらいで導入することができました。

導入時に心がけたのは、(1)スタッフ全員で情報を共有すること、(2)しっかりしたシステム(仕組み)を作ること、(3)私がいなくなっても続けられるようにすること、の3つです。「学習療法チーム」を結成して、定期的に勉強会を開き、ご利用者さんのビフォーアフターを報告し合いながら、ケアに活かしました。

学習療法は、声を出しながら「読み書き教材」「計算教材」などに取り組みます。支援者(学習療法実践士)はすぐに〇と100点をつけて、「今日も100点満点です!」「いいお声が出ていましたね」と、認めてほめる。これが学習者を笑顔にします。さらに学習した教材を使ってコミュニケーションをします。読み書き教材には回想法の要素も含まれており、その方の好きなことや得意なこと、若いころに経験したことなどを引き出して対話をするのです。

人間には必ず「やる気スイッチ」があるので、それを見つけるために「できる部分」に目を向け、そこを認めほめることでスイッチオンにしてあげれば、他のことに対しても意欲的になります。すると、できることが増え、生活の質が高まり、生きがいを持てるようになるのです。

「学習療法」による様々な変化を体験し、さらなる活動へ

いきいきした高齢者の姿にスタッフのやりがいもアップ

もり内科クリニック院長・東大阪市布施医師会理事 田仲みすず先生

学習療法は、当初は高齢者の脳の活性化が目的でしたが、さらに施設スタッフにも効果があったのは想定外でした。学習療法では、スタッフ1人につき、学習者2人、1回20~30分、時間を過ごします。普段はいろいろな介護業務に追われてコミュニケーションをとる時間が少ないスタッフですが、そこでじっくり向き合えます。その後、皆で情報を集めてケアに活かせるなど、その過程すべてがスタッフの育成につながっているのです。

高齢者が生き生きと変わっていく姿を見ることで、スタッフのやりがいが高まり、退職者が減りました。それにより、安定したケアを行えるようになったほか、皆が同じ方向で楽しく仕事ができるようになり、施設の魅力がアップし、よい人材が集まるようにもなりました。
現在、クリニックでは学習療法を導入していませんが、デイサービスで学習療法をしている方に対し、デイサービスと連携して来院時に学習療法をしたり、学習療法による変化を実際に体験した医師の立場から、認知症が気になる方やご家族へのアドバイスやサポートをしています。

また、予防を目的とした「脳の健康教室」では、受講者は元気な高齢者の方であり、教室サポーターとして地域のボランティアが関わります。これが地域の活性化にもつながっています。なんといっても、「認知症になってもこんなことができるんだ」と、認知症への理解が深まることが、私としてはとてもうれしいですね。

令和元年より、長年の念願だった脳の健康教室を東大阪市の一般介護予防事業として布施医師会が行っています。会長に「脳の健康教室 頑張るのぉ」と名付けていただき、有難いことに医師会で取り組みを暖かく見守ってもらっています。ボランティアのサポーターも学習者もとても熱心に取り組み、社会協議会や地域包括支援センターのスタッフが見学に訪れるなど、地域に認知症への理解が根付きつつあると感じます。

私はテレビで学習療法を知ったとお伝えしましたが、じつはそれ以前に、知人から「公文が学習療法をやっている」と聞いていました。そのときは、「少子化だから高齢者ビジネスに参入するのだな」という感想を持ちました。

それが、学習療法を導入するにあたって公文の社員の方々と接するようになり、会う人会う人が皆、学習療法について熱く語るので驚きました。とても不思議に思って伺うと、公文式創始者の公文公さんの、「『こんなものだ』はいつもなく、『もっといいもの』はいつもある」という言葉に出合いました。このすてきな言葉、創始者の理念がしっかり社員に浸透している会社なのだなと敬意を抱くようになりました。

学習療法を続けていて、マンネリになりそうなとき、凹みそうなとき、そのタイミングに合わせるかのようにさまざまな研修会や集いの場を企画されているのも素晴らしい。参加するとみんなの頑張りに触れ「よっしゃ、私もがんばろう!」と元気が出ます。人前でしゃべることが苦手だった私が、いまでは各地で講演するまでになったのは、学習療法に出合い、「これを伝えるのが私の役割だ!」と思ったから。それが私のポテンシャルとなっています。

関連リンク 医療法人幸志会 もり内科クリニック一般社団法人布施医師会学習療法センター


もり内科クリニック院長・東大阪市布施医師会理事 田仲みすず先生  

後編のインタビューから

-医師の道を選び、石垣島でも診療
-認知症の方の気持ちに寄り添ったサポートを地域でも
-田仲先生からのメッセージ

 

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