「夢」「学び」を支えるKUMONの「いま」を伝えます

記事検索
Vol.067 2021.04.30

青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授
小野譲司先生

<前編>

「学問」とは「問いを学ぶ」こと
現場に行って自分の目で見て感じて
自ら問いを立ててみよう

青山学院大学 経営学部 マーケティング学科 教授

小野 譲司 (おの じょうじ)

長野県生まれ。明治大学商学部、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得後、2000年、博士(経営学)。明治学院大学経済学部などで教鞭を執り、2011年より現職。サービス産業生産性協議会JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査。著書に『顧客満足[CS]の知識』(日本経済新聞出版)、近刊予定として、小野譲司・小川孔輔編著(2021)『サービスエクセレンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』(生産性出版)。

私たち消費者が「欲しい」「利用したい」と、モノやサービスに魅力を感じるように企業が行う活動がマーケティングです。市場調査や広告宣伝活動などその内容は幅広く、また業種によっても様々な理論が存在します。その中で、サービス業のマーケティングに着目し、「サービスマーケティング」という分野を切り開いてこられた方が小野譲司先生です。KUMONグループに対してのイメージ調査も実施し、KUMONの書写事業では、これまでの「添削指導」から、認めて、自信につなげる「承認指導」への転換にもなりました。小野先生がこの分野を専門にされるようになったきっかけや、データや情報があふれるなかで留意すべきことなどについてうかがいました。

目次

目に見えないからこそおもしろいサービス業の調査

私が研究対象としているサービス業は、観光や飲食、宿泊、鉄道、通信、金融など幅広く、日本のGDPの70%を占めているほど大きな市場です。サービスは目に見えませんが、それを商品として定義し、価格をつけて普及させていく ――そのプロセスがマーケティングなのですが、そこに興味を持ち、大学時代から現在まで研究を続けています。

具体例として、フィットネスクラブのマーケティングについて説明しましょう。フィットネスクラブへの入会は、4月に増えて連休前になると落ちていき、6月になるとまた増えるというように浮き沈みがあります。この浮き沈みをいかに分散して入会いただくかお客さまが入会されない時期にいかに入会いただけるようにするかを考えるのがマーケティングの技です。

モノの場合は、売れなければ在庫として置いておくことができますが、サービス業はモノがないので在庫として置くことができず、別の方法を考えなくてはなりません。それがサービス業の難しさでありおもしろさです。

マーケティングの中には様々な市場調査がありますが、私はCSI(=Customer Satisfaction Index:顧客満足度指数)の調査を専門にしています。ごく簡単にいうと、「消費者目線でサービスを評価する」調査です。後編で詳しく説明しますが、この調査は当初は国の施策として実施していました。2009年からは、国から独立して実施しており、毎年120万人から140万人の消費者を対象に、約30業種400社について顧客満足度を調査しています。

この調査はランキングすることが目的ではありません。実際にサービスを利用したお客さまがサービスをどう見ているかを素直にデータ化し、経営指標として活用してほしいと考えています。その指標を参考に自社の経営やサービスを見直せば、よりいいものを提供できるので、消費者のメリットにもつながります。

そのほかの調査には、ブランド調査や専門家が評価する「格付け」などがありますが、私たちが実施している満足度調査は、より広いサンプル(消費者)を対象に行い、データが偏らないようにしているのが大きな特徴です。

調査からみえたKUMONの特性とは?

「指導者がわが子を見守ってくれている」という実感がKUMONの強み

複数の先生方と「価値共創の研究」をしていたときに、事例研究として深く研究した企業のひとつがKUMONでした。現場を見るまでは、“標準化して教育する”というイメージがありましたが、国内外の事業部のトップに話をうかがったり、実際に教室を訪問したりしていると、そうではないことに興味深さを感じました。

つまり、指導者には創業者の理念が浸透していて、教材は標準化されている。そして最終的な現場(各教室)ではそれぞれの指導者が標準化された教材を上手に生かしながら、子どもたちにも個別に応じた指導が行われている。そんな発見と驚きがありました。でも、個別対応だけでもビジネスとしては成り立ちません。その中間をうまくバランスをとっていると感じました。

その後、KUMONの「顧客満足調査」(「顧客感情調査」)を行うことになり、私は調査設計への助言や、上がってきたデータの読み方、同業企業の調査との比較などについてアドバイスを担当しました。KUMONの“顧客”は、直接的には学んでいる子どもたちですが、調査票に回答するのは保護者です。回収率が非常に高く驚きましたね。

これは、「何の教科を学習しているか」といった「行動データ」と、「ねばり強さや宿題を自主的にしているか」といった「心理データ」(内面的なデータ)の2つを付き合わせることで、様々なことがわかる調査です。たとえば、「数学と国語を学習している子」は「自分で考える姿勢がどれくらいできているのか」といったことを見ることができます。

KUMONならではの結果としてわかったのは、指導者の人的要因が高いことです。オンライン学習が増える中、あえてKUMONを選んでいるのは、教室に指導者がいて、わが子をよく見てくれているからであり、そこに価値を見出している人が多くいることがわかりました。これはKUMONの強みであり、他社がまねできない部分だと感じています。加えて、教材への信頼感が高いこともわかりました。

「認め、ほめる指導」もKUMONの特徴です。ただ単にほめるだけではだめで、本人が「認め、ほめられるくらいに成長できたんだな」と実感でき、自信を持つようになることが大事です。そうなれば、教室に通うことの満足につながります。実は、私も公文式の書写教室で自分の名前を書き、添削していただきました。子ども時代は真っ赤にされるだけでほめられた覚えはありませんでしたが、認め、ほめられるとやはりうれしいものですね。

大学時代、人の感情を操作する“心理実験”に興味

市場調査会社でのアルバイトが調査への興味のきっかけに

私は幼稚園までは長野で育ちました。材木問屋の会社を経営していた父は、公的な仕事もしていたので、講演などで日本のみならず世界各地を回っていました。そのためあまり会ったことはなく、さらに私が6歳のときに過労で亡くなりました。思い出としてあるのは、おもちゃを買ってくれず、蔵にある木材を指して「あれでつくれ」と言われたことです。のこぎりを使い自作した記憶があります。

父の死を機に家族で東京へ引っ越して学校生活を送りましたが、勉強はあまりせず、野球やサッカーに明け暮れていました。成績が芳しくなかったのか、中2のとき担任の先生に呼ばれたことを機に勉強を頑張ったら、成績がグッと伸びました。

「手に職をつけたい」と、大学は法学部を目指しました。しかし叶わずに、父や親戚の出身でもある明治大学商学部へ進むことに。入学後も公認会計士や中小企業診断士などの資格取得を目指して勉強するなど、幅広い学びを得た時代だったと思います。

でも実は、商学部での勉強はまったく記憶になくて……(苦笑)。唯一印象に残っているのは、履修をしないいわゆる「もぐり」で参加した心理学の実験をする授業でした。人の感情を操作する“心理実験”も新鮮でしたが、むしろデータを使って仮説を検証することの難しさと面白さを初めて体験しました。たとえば、「ホラー映画やラグビーの試合を見せて感情を操作すると、計算など人の頭の中の情報処理の仕方が変わるだろう」と仮説を立てて実験をする、といったことです。

この感情の調査は、私の今の研究と似ている部分があるかもしれませんが、現在の仕事につながったきっかけの一つは、大学時代にアルバイト先の市場調査会社に入り浸っていたことです。そこでパソコンを習い、ソフトを使って需要予測をするなど、調査のおもしろさに目覚めました。

そんなあるとき、アルバイト先の契約社員の方にこう言われたんです。「きみが調査を好きなのはわかるけれど、調査はクライアントから依頼を受けてやる仕事で、自分が好きにできるわけではない。きみがやりたいのはそれじゃないだろうから大学院へ行って研究をしたほうがいい。」この言葉にも背中を押され、大学院へ進むかどうかの参考になりました。

関連リンク 青山学院大学


青山学院大学 経営学部教授 小野譲司先生  

後編のインタビューから

-顧客満足度指数研究を専門にするまで
-情報やデータをきちんと読み解くリテラシーをつけよう
-学問とは答えを学ぶのではなく、何が問題かを定義していくこと

 

    この記事を知人に薦める可能性は、
    どれくらいありますか?

    12345678910

    点数

    【任意】

    その点数の理由を教えていただけませんか?


    このアンケートは匿名で行われます。このアンケートにより個人情報を取得することはありません。

    関連記事

    バックナンバー

    © 2001 Kumon Institute of Education Co., Ltd. All Rights Reserved.