スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2016/05/27更新

Vol.032

認知科学者 明和政子先生  後編

やりたいと思ったことは
迷わず進んで「やってみる」
ぶれずに貫く自分をみている人がいる

明和 政子 (みょうわ まさこ)

富山県生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。主な著書に『霊長類から人類を読み解く なぜ「まね」をするのか』(河出書房新社)、『心が芽ばえるとき コミュニケーションの誕生と進化』(NTT出版)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。

ヒトの心だけでなく、チンパンジーの心も研究対象とすることで、「比較認知発達科学」という新分野を開拓された明和政子先生。研究結果から、ヒトの育児スタイルは本来、「共同養育」と提唱し、多くの母親たちの共感を呼んでいます。自らの妊娠・出産・育児体験を踏まえ、ヒトらしい心の発達に必要な条件を科学的に解明しようと研究を続ける明和先生に、ご自身のお子さんとの関わり方も含め、学びの原動力についてうかがいました。

親だって完全ではない
子どもたちは社会みんなで育てよう

認知科学者 明和政子

悶々とした日々を過ごしていたあるとき、京都大学の田中昌人先生のゼミの先輩であった滋賀県立大学の竹下秀子先生から声をかけていただき、同大に専任講師の職を得ました。松沢先生の教えなのですが、「この分野なら私にまかせて」という研究への信頼を築き上げる努力は重ねてきました。やりたいことを、責任をもって果たす。竹下先生は、私の地道な活動を見ていてくださったのだと思います。私も指導学生たちには、「いろんなことに振り回されず、貫きなさい。頑張っていれば、誰かがどこかで見ていてくれるよ」と言っています。

出産後は、チンパンジーからヒトへ研究の軸を移しました。ヒトの心の起源を探るために、ヒトの胎児や新生児の研究を始めました。ヒトの心は他者との関係なくして育ちませんから、ヒトの心を育む環境、つまり、親や社会が果たすべき役割についての科学的解明にも力を注いでいます。そこで得た結論のひとつは、「ヒトの子育ては共同養育が基本」ということです。チンパンジーは、子どもが6歳くらいになり親離れしてから次の子を産みます。一人ひとりをゆっくりと育て上げます。しかし、ヒトは2~3年間隔で出産することが多い。そのうえ、ヒトの子どもは自立するまでに、たいへんな時間と労力がかかります。ヒトは本来、子どもを複数の手で育ててきました。共同養育を基本として進化してきた動物であるはずです。

実際アフリカに行くと、母親以外のおっぱいを飲んでいる赤ちゃんがいて、子育ての気安さに驚かされると同時に、ヒトは共同養育が基本だと確信します。それに対し、現代日本の子育ての状況はありえません。赤ちゃんをベビーカーに乗せ、もうひとりの幼子の手を引いて歩くお母さんの姿を見るたび、胸が張り裂けそうになります。ヒトの進化を考えると、母親ひとりの手で子どもを育てることなど無理なのです。ましてや精神的・経済的に余裕がないと、母親のストレスが過度になってしまうのは当然でしょう。そうした状況を不幸だと放っておかず、母親以外の者―それは他人でもいい―が、いかにおせっかいに子育てにかかわるかが大事です。母親は、母性というものをもった完璧な養育者ではありません。子どもの育ちを守るのは、母親だけでなく社会全体です。これは理想論ではなく、人類の未来にとって必要な営みなのです。

基礎研究者である私に、今できること。それは、ヒトの子育てのあり方を科学的に検証し、その成果を正しく社会に伝えることでしょう。「ヒトとは何か」をつねに考え、責任をもって発信していく。“子育てがうまくいかない”と自分を責め続ける母親に、そうではないよ、ときちんと説明する。子育てに科学で迫る試みはまだ始まったばかりですが、これは人類の未来がかかった最重要課題のひとつです。それが学術界でもここ最近ようやく認知されてきたように思います。とてもうれしいことです。

親が子にすべきこととは?

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