信じて認めてくれた母 モチベーションを支えてくれた二人の恩師
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進路の選択の際にはいろいろと考え、迷いましたが、“悩む”ことはなかったですね。やりたいことがぼんやりとみえてきていましたし、やりたいと思ったら「やってみないとわからない」と割り切って前に進むタイプなので。最近の学生さんをみていると、手持ちの選択肢の中でベターなものを選ぶタイプが多いような気がします。若い皆さんには、ベストな選択を積極的に考え、「まずやってみよう。失敗しても、次がある」と思える経験を多くもってほしいですね。
今は、子どもに失敗させる、放っておくことが難しい時代なのかもしれません。「まず、やってみる」という思いを強く抱けるかどうかは、幼少期の経験の影響が大きいように思います。私の場合、何をやっても母は信じ、認めてくれました。今の私があるのは、「自分で選択する猶予」を親が与えてくれたから。でも、その反面、祖母の影響もあって、「自分で責任を取らなくては」という意識は高校生くらいから強くありました。親が決めていたら、失敗を親のせいにしていたかもしれません。互いに一貫した信頼があったのだと思います。
受験勉強をやりなおし、河合隼雄先生のもとで学ぼうと、京都大学教育学部に入学しました。ところが、ここでも迷いが生じてしまいました。障害をもつ子どもたちに寄り添いたいと、ボランティアサークルに所属し、活動していました。しかし、彼らの心は多種多様で、教科書で学んだ知識が役に立たない。限界を感じました。これからどこに向かうべきか、数か月一生懸命考えました。そして出した結論は、もういちど生命の原点にたつこと。「人間とは何か、人間らしさとは何か」を考える研究をしようと思いました。
転機は大学4回生のときです。障害児心理・教育のトップリーダーであった田中昌人先生(故人)のゼミに参加していました。先生に私の思いを聞いていただくと、開口一番、「人間を知るには、こういう方法もあるよ」と、愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所(以下、霊長研)を紹介してくださったのです。チンパンジーという存在を通して人間らしさを浮き上がらせるアプロ―チです。
田中先生に、霊長研の松沢哲郎先生を紹介いただき、松沢先生も私の希望を快く受け入れてくださいました。霊長研で研究を始めた当初は、どんなに忙しくてもほぼ毎日30分、個別指導をしてくださいました。この時期、私の素朴な研究へのモチベーションを高め続けてくださった二人の恩師との出会いがなければ、決して今の私はありません。
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