「生と死」に興味をもち、産婦人科医を志す
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親は働いていたので、同居する祖父母が日々の面倒を見てくれていました。祖母は、立ち振る舞いにとくに厳しい人でした。「神棚のお水を換え、手を合わせてから学校に行きなさい」、「姿勢に心が表れているよ」、「人の目を見て話しなさい」。今でも、その教えが体に染みついています。でも、厳しいだけでなく誰よりも優しく、凛としていて、とても素敵な女性でした。祖母から受けた影響は大きいですね。私は自分で毎日の目標を立て、「今日はここまでやった」という達成感を味わうのが好きなのですが、そこには祖母からの「自分で決めたことは最後までやり通しなさい」という教えがあるように思います。
勉強は好きでした。頑張った分だけ、成果がはっきりと出る活動ですから。地元の公立の小・中・高校に進学し、高校3年の頃には産婦人科医になりたいと思っていました。きっかけは、2年の保健体育の授業で見た、ヒトの生命誕生についての映像でした。精子と卵子が結びついて、すごい勢いで細胞分裂して体らしきものができあがり、やがて心が宿っているかのように体がふるまいはじめ……。とにかく不思議でした。たったひとつの細胞がなぜ分裂していくのか、分裂からなぜこれほどうまく体ができあがっていくのか、いつからそれが人間と呼びうる存在となるのか……。「生と死」に関心をもったことから、産婦人科医になりたいと思ったのです。
医学部への進学を目指して、受験勉強に取り組んでいました。ところが、なぜか最後の最後に迷いが生じてきた。「医学では、人間の心の奥底までたどり着くことはできないのではないか」と思い始めたのです。当時、京都大学では、河合隼雄先生を中心とした臨床心理学が脚光をあびていました。ここに道がある、と強く思いましたが、進路はすでに決まっていました。進路を変更したいと母に言ったら反対されるに決まっている。だから、自ら決まっていた進路を断ち、母には事後報告しました。母の第一声は意外にも、「自分が幸せだと思うように進むのがいいんじゃない?」。今思い出しても、感謝の思いがあふれてきます。