昔話は音楽と同じ
リズムの楽しさを壊してはいけない
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みなさんは「昔話」というと、何をイメージしますか。昔話は、口で伝えられてきたお話です。口で伝えられてきたということは、「耳で聞いて」伝えられてきたということ。聞き終ったら消えてしまう、聞いている間だけのもので、音楽と同じ「時間にのった文芸」なのです。
昔話は同じ場面が出てきたら同じ言葉で繰り返します。これも音楽と同じです。しかも繰り返しはだいたい3回。たとえばグリム童話の『白雪姫』は、1度目は紐で、2度目は櫛で、3度目は林檎で殺されます。アニメや映画では林檎だけなので、ご存じない人もいるかもしれませんが、じつは3回殺されているのです。
音楽も、同じメロディを2回繰り返します。そして3回目は少し長く、一番強調されています。つまり3回目が一番大事だということです。これが音楽の基本的なリズムで、このリズムは昔話にもあります。白雪姫も林檎のシーンが一番長いでしょう。ホップ、ステップ、ジャンプという陸上競技のリズムも同じです。人間にとって、このリズムが一番自然だからです。
このリズムは、子どもだけでなく、大人にとっても心地よいもの。そしてその楽しさを壊さないことが大事です。けれども残念なことに、昔話に関しては、たくさん本が出ていたり映画にもなったりしていますが、3つのリズムの前の2つを省略してしまうなど、本来の昔話の「語り口」から離れてしまっているものが多いように感じます。そのことに気づいてもらい、「語り口」がきちんとしている文章を選んでほしいし、さらにそう指導できる人を日本中に広げたい。そんな思いから、全国各地で開く「昔ばなし大学」に、いま力を入れているところです。