スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2016/01/29更新

Vol.028

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
早稲田大学国際部長 黒田一雄先生  後編

教育がもたらす希望は大きい
多様性のなかでの学び
真の豊かさをもたらす

黒田 一雄 (くろだ かずお)

福岡県生まれ。1989年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、当時の東京銀行に就職。アジア経済研究所開発スクール修了後、スタンフォード大学にて国際教育開発、コーネル大学にて教育・開発社会学を専攻、Ph.D.(博士号)取得。米国海外開発評議会研究員や世界銀行を経て、広島大学教育開発国際協力研究センター講師、助教授に。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の助教授を経て、現職に至る。編著に、『国際教育開発論-理論と実践』(有斐閣)、『アジアの高等教育ガバナンス』(勁草書房)など。

「発展途上国の教育開発」をテーマに研究を続ける一方、外務省やJICAなどの国際協力機関で、さまざまな委員を歴任されている黒田先生。いまに至るまでには迷いや寄り道もありましたが、志を貫き、今では日本における国際教育開発の分野で第一人者として国内外で活躍されています。夢の実現に向かって学び続けた源泉は何だったのでしょうか。

多様性のある環境にこそ新しいものが見えてくる
それが「真の豊かさ」の獲得につながる

教育開発学者 黒田一雄先生

国際社会の掲げる教育の目標には人権、開発、平和の3つの見方があります。すべての人が学ぶ権利を保障されなければなりませんし、社会経済開発の有効なツールとしての教育という側面もあります。また、教育は他者や異文化を理解し平和を築く礎となります。

ただ、私は、教育はまず個人にとっての喜びにつながるものだと考えています。教育は人に希望や知的充足をもたらし、人は学びを通じて自分の人生をコントロールできるようになります。教育によって、人が社会に貢献できるようになることは、大きな喜びではないでしょうか。その喜びのために教育をどのように届けられるか?そのための施策を考えるのはおもしろいし、ワクワクします。

私の専門の観点から、今後の教育で重要だと思うのは、「グローバルなガバナンスの構築」です。これは、全世界で同じように教育していくという意味ではなく、多様性がともに輝くようなモザイク型をイメージしています。これまで教育は国ごとに行われてきましたが、それぞれ異なる教育の中に、どこか共通する接合点を見つけていくことが必要なのではないかと考えています。実際に、PISAの学力論や21世紀型スキルなど、学力のあり方についての国際的な議論も活発になっています。共通項はもちながら、それぞれのよさが生かされる教育のあり方が今後求められていくと思います。

国籍や文化が違うというだけでなく、心身に障害のある人や状況の違う人たちが一緒に生活して、仕事をして、一つの社会をつくり上げていく。多様性がひとつの社会を作っていくことは、グローバル化した現代のもつポテンシャルだと思っています。イノベーションというのは、そうした多様性のなかからこそ生まれるからです。

一般に、インクルーシブ教育というと「平等の実現のため」と考えられがちですが、実際には多様性に処する力を身につける「教育の質の向上のため」のというのが本来の考え方です。ある研究では、障害のある子がいるクラスで学ぶと、障害のある子だけでなく、障害のない子の学力も高くなるという結果が出ています。その結果から、多様性があるなかでは、読み・書きだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力なども育つのではないかと考えています。そのための実証的な研究を進め、だれもが希望を持てる教育環境をつくっていきたいと思っています。

大学の国際化も同じで、大学の中に多様性を実現することが、研究の革新につながり、大学の質を上げていくと確信しています。海外留学、あるいは日本国内でも留学生が身近にいたりすると、新しいことが見えてくるものです。

私はグローバル人材というのは、国際社会に貢献する「志」を持った人だと考えていますが、同時に、多様性に対する忍耐力を持ち、その環境を楽しめる人だと思います。留学生交流の仕組みづくりなどを通じて、学生たちが「真に豊かな経験と勉学」ができるよう、「こうあるべき」という押しつけではない大学の国際化に取り組んでいきたいと思っています。

 


 

教育開発学者 黒田一雄先生  

前編のインタビューから

-黒田先生のご専門である「教育開発」とは?
-教育への関心が高まった中学時代
-経済と教育、大学進学時に黒田先生が選んだのは…?

 
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