多様性のある環境にこそ新しいものが見えてくる
それが「真の豊かさ」の獲得につながる
国際社会の掲げる教育の目標には人権、開発、平和の3つの見方があります。すべての人が学ぶ権利を保障されなければなりませんし、社会経済開発の有効なツールとしての教育という側面もあります。また、教育は他者や異文化を理解し平和を築く礎となります。
ただ、私は、教育はまず個人にとっての喜びにつながるものだと考えています。教育は人に希望や知的充足をもたらし、人は学びを通じて自分の人生をコントロールできるようになります。教育によって、人が社会に貢献できるようになることは、大きな喜びではないでしょうか。その喜びのために教育をどのように届けられるか?そのための施策を考えるのはおもしろいし、ワクワクします。
私の専門の観点から、今後の教育で重要だと思うのは、「グローバルなガバナンスの構築」です。これは、全世界で同じように教育していくという意味ではなく、多様性がともに輝くようなモザイク型をイメージしています。これまで教育は国ごとに行われてきましたが、それぞれ異なる教育の中に、どこか共通する接合点を見つけていくことが必要なのではないかと考えています。実際に、PISAの学力論や21世紀型スキルなど、学力のあり方についての国際的な議論も活発になっています。共通項はもちながら、それぞれのよさが生かされる教育のあり方が今後求められていくと思います。
国籍や文化が違うというだけでなく、心身に障害のある人や状況の違う人たちが一緒に生活して、仕事をして、一つの社会をつくり上げていく。多様性がひとつの社会を作っていくことは、グローバル化した現代のもつポテンシャルだと思っています。イノベーションというのは、そうした多様性のなかからこそ生まれるからです。
一般に、インクルーシブ教育というと「平等の実現のため」と考えられがちですが、実際には多様性に処する力を身につける「教育の質の向上のため」のというのが本来の考え方です。ある研究では、障害のある子がいるクラスで学ぶと、障害のある子だけでなく、障害のない子の学力も高くなるという結果が出ています。その結果から、多様性があるなかでは、読み・書きだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力なども育つのではないかと考えています。そのための実証的な研究を進め、だれもが希望を持てる教育環境をつくっていきたいと思っています。
大学の国際化も同じで、大学の中に多様性を実現することが、研究の革新につながり、大学の質を上げていくと確信しています。海外留学、あるいは日本国内でも留学生が身近にいたりすると、新しいことが見えてくるものです。
私はグローバル人材というのは、国際社会に貢献する「志」を持った人だと考えていますが、同時に、多様性に対する忍耐力を持ち、その環境を楽しめる人だと思います。留学生交流の仕組みづくりなどを通じて、学生たちが「真に豊かな経験と勉学」ができるよう、「こうあるべき」という押しつけではない大学の国際化に取り組んでいきたいと思っています。