スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2014/12/24更新

Vol.016

特養園長 山崎律美さん  前編

100点をもらえれば誰もがうれしい
人は“ちょうどの学び”
たしかに育つ

山崎 律美 (やまさき りつみ)

福岡県生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。厚生省社会局国立福岡視力障害センター生活指導専門職、佐賀県福祉生活部身体障害者施設生活指導員、児童施設・児童指導員、福祉事務所ケースワーカーなどを経て、1992年に社会福祉法人道海永寿会の特別養護老人ホーム永寿園へ。2003年、西九州大学大学院健康福祉学修士修了。

福祉の専門家・実践者として、障害児・障害者に向き合ってきた山崎さんは、自分が責任者となった老人介護施設で、認知症の高齢者に「読み書き計算」の学習を試みます。そこから誕生した認知症の予防と改善のための『学習療法』は、いまや日本国内はもちろん、海外にも展開されています。自らの進むべき道をまっすぐに突き進んできた山崎さん。そのパワーの源をうかがいました。

忘れられない、100点をもらったときのうれしそうな顔

特養園長 山崎律美さん

大学卒業後は、福岡にある中途失明者の自立を支援する国立の更生施設で働くことになりました。そのあと佐賀県の福祉生活部に移り、重度身体障害者の施設で勤務。そのつぎは福祉事務所のケースワーカーとして、生活保護関係の仕事などもしました。ふり返ってみれば、さまざまな福祉の現場で働いてきましたが、それらを通して学んだ知識やスキルがいまとても役立っています。

佐賀県で働いていたころ夫と知り合い、息子ふたりが生まれました。共稼ぎだったので、勉強する習慣はきちんとつけさせたいと、知人が開いていた公文式教室に通わせることにしました。私が夕食の支度をしているとき、食卓にふたり並んで座らせてプリントをさせました。あわただしい時間でしたが、母子の時間がもてたことは良かったと思います。いまになって思うことですが、ふたりともケンカなどしない穏やかな子で、それは性分だと思っていました。「主人に似とっとかな(似ているのかな)?」と。しかし、いまにして思えば東北大学の川島先生(後出)が言うように、公文式の学習で前頭葉が鍛えられていて、感情のコントロールができていたからかもしれませんね。

福祉事務所のあと、私は児童指導員として知的障害児の施設で働くことになりました。この施設には障害のある幼児から高校生までが寝泊まりし、そこから近くの小学校・中学校に通います。子どもたちにとっては、第二の家のようなところです。そこでの私の主な役割は「学習係」、正式には「児童指導員」です。学校から出される宿題を手伝ったり、わからないところを教えるような仕事ですね。

でも、学校から出される宿題は子どもたちにはむずかしい。どの子もそうなのです。できない宿題をなぜ出すのか。できないことをなぜやらせるのだろう、できることがあるのではないか。できることをさせるほうがいいのでは…、と矛盾を感じていました。そんな思いが何日か続いたある日、わが子ふたりがしていた公文のプリントなら、この子たちはできるんじゃないかと思いつきました。

押し入れにしまってあった息子たちの学習済みプリントの束を取り出し、手書きで毎日ノートにプリント10枚分の問題を書き写し、試みに5人の特殊学級(当時、現在は特別支援学級)に在籍していた子たちにやってもらいました。この5人に学習してもらい学習効果を実証して、公文の事務局に導入をお願いに行こうと考えていたからです。

1ヵ月間データをとってみると、明らかに正答率と学習時間が縮まっているのです。それ以上に驚いたのは、5人の子どもたちの表情が明るく元気になっていたことです。うれしかったですね。じつは、できることをすることで子どもたちが変わるのかは半信半疑でしたが、これで確信がもてました。

ふと気づくと、5人が学習している学習室の様子をほかの子たちがのぞいている。それも、IQ(知能指数)が測定できない重度の障害がある子たちでした。その当時は、どこの施設でもそうでしたが、「何か教えてもすぐに忘れてしまうのだから、勉強よりは手作業やからだを使ってできることをさせよう」という傾向にありました。しかし、のぞいている重度の子たちの表情や眼を見て、「ああ、この子たちも学びたいんだな」と直感しました。

さっそく上司と相談し、公文の事務局にお願いして施設導入という形で、プリントを提供してもらえることになりました。まずは先の5人を含む、IQが測定できる子どもたちに。しばらくして、IQが測定できない重度の子たちも公文をするようになり、50人ほどいた施設の子どもたちみんなが公文をするようになりました。いまでは驚きませんが、重度の子たちが公文で学習ができることに、われわれ職員は目を見張りました。

学校から帰ってきて、夕食をとり、それから公文をします。100点と大きなマルをもらったときのうれしそうな顔を見ると、障害のある子もない子もみんな同じだと感じました。どんな子でも、その子に合ったちょうどのレベルをさせ、少しずつステップアップしていけば、必ず成長できることがわかったのです。

そして、さらに驚くことがおきました。施設の子どもたちが朝食や夕食をよく食べるようになったのです。朝夕の食事を用意する職員から「このごろ残飯が減った」ということが報告されたので、食事の様子よく見てみると確かによく食べている。生活全般も活発になっていました。その当時は、まだ東北大学の川島先生と出会う前で、「学習による脳の活性化」なんてまるで知らないころでしたが、毎日の学習で脳に何らかの良い変化が起きていたのだと思います。結局、佐賀県の職員を退職するまでの10年間、この施設で子どもたちの成長を見ながら働いていました。

後編をよむ

 

特養園長 山崎律美さん   

後編のインタビューから

– 「脳に刺激を与えなければ、認知症は進行してしまう」と直感的に感じた山崎園長
– 大きなマルと100点をもらったときの高齢者の笑顔、そこから誕生した『学習療法』
– 山崎園長が50歳をすぎてから大学院(修士)で学ぼうと決心した理由とは?

 

 
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