「日記が持つ力」にひかれ
「記憶の継承」をライフワークに活動
グアムとハワイの間、日本からはミクロネシアの島々を経由して丸1日かかる場所、そこに29の環礁と5つの島、さらに1,200を超える小さな島々からなるのがマーシャル諸島です。追って詳しくお伝えしますが、私は高3のとき、NGO主催の10日間のツアーで初めてこの島を訪問しました。日本人とわかると日本語で「コンニチハ」と挨拶してくれ、人なつっこい人たちだなというのが最初の印象でした。
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現在、私は、インターネット上の資料館(デジタルアーカイブ)を運営する国立公文書館アジア歴史資料センターの調査員として働いており、ライフワークとして映画製作や書籍作りをしています。これまでに2本の長編映画を作りました。最初に作った映画『タリナイ』は、第二次大戦下のマーシャル諸島にて飢えで亡くなった日本兵・佐藤冨五郎さんが遺した2冊の日記を頼りに、その長男である勉さんが父の最期の地を若者3人と共に訪ねるドキュメンタリーです。多くの人にとってマーシャル諸島と言ってもピンとくるイメージはないかもしれませんが、映画を観ていただけばきっと心の距離が近くなると思います。
地球温暖化や核実験の影響に関心があって、マーシャル諸島へ行きました。行ってみたら60年前に旧日本軍が残した大砲など戦跡がそこかしこにあり、日本語の歌を陽気に歌う人々がいる。私の知らない日本を知っている人たちがいました。約30年もの間、マーシャル諸島を日本が統治していたことを初めて知り、帰国後もマーシャルとつながっていたいと思いました。でも、マーシャルの話ができる機会をなかなか作ることができず、悶々とした日々を過ごしていました。
マーシャルに行けば見えてくる歴史や記憶、出会った人たちの表情を、共有したい。マーシャルを、覚えていたい。そんな思いを込めて作ったのが『タリナイ』という映画です。この映画は、佐藤冨五郎さんが亡くなる直前まで書き遺した日記が糸口となっています。いわば「日記の力」に導かれて制作しましたが、コロナ禍になって、その力をより強く思うようになりました。
記憶が途絶えていく中で、個人が自分のためだけに書いたかもしれない「日記がある世界」と「ない世界」では、後世の人が知る歴史に違いが出てくるのではないかと思うのです。補給路を絶たれ、敗色が濃くなったマーシャル諸島で書かれた佐藤冨五郎さんの日記を通して、敵ではなく飢えとの闘いであった戦争とは何かをリアルに想像することができたように、日記の可能性を考えるドキュメンタリー映画を作ろうと、現在、撮影を進めています。
追いかけている人が何人かいて、その一人が、「個人の記録を社会の遺産に」を合言葉に「女性の日記から学ぶ会」を20年以上続けている島利栄子さんです。島さんは、『タリナイ』上映時のトークショーにゲスト出演くださった明治学院大学専任講師の田中祐介さんからご紹介いただきました。こうしたさまざまな出会いに導かれて、個人が紡ぐ「記憶の伝承」にまつわる作品づくりを進めています。