足かけ20年以上「きぼう」の技術者として従事
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私は1995年に今の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の前身である宇宙開発事業団(NASDA)に入り、2年半を除いて「国際宇宙ステーション計画」にかかわっています。途中「セントリフュージ」という実験室を2年間し、残りの20年以上は「きぼう」の開発・運用・利用を担当してきました。「きぼう」はISSの中で最大の実験棟で、船内実験室と船外実験プラットフォームの2つの実験スペースで構成されています。「きぼう」自体の開発は終わっているのですが、いろいろな実験を実施しているので、新しい実験装置などを作ったり、メンテナンスや改良を行ったりしています。
今やライフワークといえる私の業務は、「きぼう」の環境制御系、熱制御系を扱うことからスタートしました。環境制御系というのは、無重力な船内に空気の対流を起こすようにファンで空気を撹拌したりすること、熱制御系というのは、船内に通っている水配管が凍らないようにヒーターで制御したりする作業です。
その後、「きぼう」の中に搭載する実験装置との間の技術調整を担当しました。例えば、実験後の血液を入れる冷蔵庫ラックというのがあるのですが、船内に搭載する時に冷却水の凍結などが起きないように調整したりしました。
2005年からは技術の仕事を離れて、丸の内のオフィスでJAXA全体の予算折衝を行う部署に移りましたが、2009年から再び技術現場に戻り、「きぼう」の実験装置の運用に携わることができました。
その後、幸運にも、新しい実験装置、ExHAM(簡易曝露実験装置)の企画から構想・開発・運用までを一貫して担当できました。これは、真空や宇宙放射線など、地球上では得られない環境を利用して、民間企業などが実験をしたいという場合に、実験サンプルなどを「きぼう」船外にロボットアームで取り付ける装置です。船外に何かを取り付けるには、従来は宇宙飛行士が宇宙遊泳をして実施していましたが、宇宙服のなかは0.3気圧と低気圧になっており、1気圧との間をゆっくり気圧を変化させるために丸一日かかってしまいます。そこで、その作業をロボットで行えるように開発したのです。
ExHAMを使うと、例えば、人工衛星アンテナを新しい材料で作る時、宇宙環境で歪まないかどうかを確認することができます。宇宙にさらした実績があると、その後、大型衛星などで採用される可能性が高まり、その後につながるので企業の方にも喜んでいただけました。自分の担当した実験装置で産業界、学界などの様々な人の役に立てることは私にとっても大きな喜びでした。
今、私が一番力を入れている仕事は、将来の探査に向けた技術開発を進めるために、民間のロボットを使って宇宙での活動を自動化・自律化させる開発です。開発のスピードを上げるために、民間のロボット技術を有効に生かすことが仕事の中心を占めています。