「生中生なし、死中生あり」
難しい仕事を求めると、案外とうまくいく
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宇宙開発事業団(当時・現在のJAXA)に入社後は先に述べたとおり、「きぼう」の開発・運用に関わってきました。JAXAはその名の通り、宇宙航空研究開発を行っている組織なので、新しいことをやらないと意味がありません。新しいことをやるためには、自分自身も学び続けていかなくてはなりません。おかげで20数年、飽きたことはないですね。苦悩の日々でもありますが……(苦笑)。
今、構想している計画は、宇宙ステーションから飛んで帰ってくる人工衛星のようなもので、「フリーフライヤ」と呼ばれています。実現のためには軌道計算が必要になりますが、私はこれまで機械工学が専門でして、軌道計算はやったことがなかったので、現在も猛勉強中です。
実はこの「フリーフライヤ」、部門で「誰かやらないか」と募られて、手をあげたのは私だけでした。私は、選択する時は極力難しいところをチョイスする、ということを心がけています。受験だったら難しい学校を狙う。仕事だったら「誰かやらないか」と言われたことに手をあげる。
なぜかというと、難しい道でも簡単な道でも、どちらを選んでも後悔することはあります。だったら、より難しいほうを選択するほうが後悔は少ないと思うからです。やはり難しいことに挑戦しようという気持ちは大事です。難しい問題に直面した時に、「やっぱり、できないな」と思うことはありますが、それで逃げても状況は改善されないことは、仕事にかかわらずあると思うのです。
私自身は、逃げずに核心に突っ込んでいくことを大事にしています。逃げると解決が難しくなることが多く、むしろ深く調べると、意外に問題を解消できたという経験が多々あります。上杉謙信の言葉で、「生中生なし、死中生あり」という言葉がありますが、まさに、死地(=難しい仕事)を求めると、案外うまくいくことが多いのです。
「このプロジェクトはうまくいくだろうな」と思っていると、まったくそんなことはなく、「駄目じゃないかな」と思うと、意外にうまくいく。そういうことは、本当によくあります。先に述べたExHAM(簡易曝露実験装置)も、もうダメだなという局面もあったのですが、意外に作り切ることができまして……わからないものですね。そもそも仕事というのは、「難しい難しい」と思うとなかなか始まりませんが、始めてみると意外に没頭できますよね。その没頭感は心地いいものです。