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Vol.063 2019.06.19

JAXA 宇宙航空研究開発機構 主任研究開発員
渡辺英幸さん

<後編>

柔軟な価値観を持ち
変化不安と思わずに
チャンスととらえて楽しもう

JAXA 宇宙航空研究開発機構 主任研究開発員

渡辺 英幸 (わたなべ ひでゆき)

1970年千葉県生まれ。私立海城高校卒業。東京大学工学部産業機械工学科卒業。同大学院工学系研究科機械情報工学専攻修了。1995年、宇宙開発事業団・NASDA(当時。現在は宇宙航空研究開発機構・JAXA)入社。宇宙環境利用システム本部・宇宙ステーショングループ、宇宙ステーション運用技術部の開発部員として、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の開発に携わり、現在運用やメンテナンスも担当。現在は民間のロボットを使っての新規開発にも取り組む。著書に『宇宙ステーションにかけた夢 ―日本初の有人宇宙実験室「きぼう」ができるまで』(くもん出版)。

地上から400km上空に建設され、わずか90分という速さで地球を一周する国際宇宙ステーション(ISS)。無重力や真空という独特の宇宙環境を活用し、アメリカやロシアのほか日本など、世界15ヵ国がさまざまな実験・研究や地球・天体の観測などを行っています。その施設のひとつが、日本初の有人実験棟「きぼう」。この「きぼう」に技術者として長年携わっているのが渡辺英幸さん。渡辺さんは世界的なプロジェクトにかかわる中で、常に「難しいほう」を選択してきたそうです。あえて困難を選び取る理由、宇宙に関心を持ったきっかけや今後成し遂げたいことなどについてうかがいました。

目次

「生中生なし、死中生あり」
難しい仕事を求めると、案外とうまくいく

渡辺英幸さん

宇宙開発事業団(当時・現在のJAXA)に入社後は先に述べたとおり、「きぼう」の開発・運用に関わってきました。JAXAはその名の通り、宇宙航空研究開発を行っている組織なので、新しいことをやらないと意味がありません。新しいことをやるためには、自分自身も学び続けていかなくてはなりません。おかげで20数年、飽きたことはないですね。苦悩の日々でもありますが……(苦笑)。

今、構想している計画は、宇宙ステーションから飛んで帰ってくる人工衛星のようなもので、「フリーフライヤ」と呼ばれています。実現のためには軌道計算が必要になりますが、私はこれまで機械工学が専門でして、軌道計算はやったことがなかったので、現在も猛勉強中です。

実はこの「フリーフライヤ」、部門で「誰かやらないか」と募られて、手をあげたのは私だけでした。私は、選択する時は極力難しいところをチョイスする、ということを心がけています。受験だったら難しい学校を狙う。仕事だったら「誰かやらないか」と言われたことに手をあげる。

なぜかというと、難しい道でも簡単な道でも、どちらを選んでも後悔することはあります。だったら、より難しいほうを選択するほうが後悔は少ないと思うからです。やはり難しいことに挑戦しようという気持ちは大事です。難しい問題に直面した時に、「やっぱり、できないな」と思うことはありますが、それで逃げても状況は改善されないことは、仕事にかかわらずあると思うのです。

私自身は、逃げずに核心に突っ込んでいくことを大事にしています。逃げると解決が難しくなることが多く、むしろ深く調べると、意外に問題を解消できたという経験が多々あります。上杉謙信の言葉で、「生中生なし、死中生あり」という言葉がありますが、まさに、死地(=難しい仕事)を求めると、案外うまくいくことが多いのです。

「このプロジェクトはうまくいくだろうな」と思っていると、まったくそんなことはなく、「駄目じゃないかな」と思うと、意外にうまくいく。そういうことは、本当によくあります。先に述べたExHAM(簡易曝露実験装置)も、もうダメだなという局面もあったのですが、意外に作り切ることができまして……わからないものですね。そもそも仕事というのは、「難しい難しい」と思うとなかなか始まりませんが、始めてみると意外に没頭できますよね。その没頭感は心地いいものです。

民間の宇宙企業との協業とは?

宇宙ステーション開発の経験を活かし
民間のための「宇宙の港」をつくりたい

渡辺英幸さん

今後の宇宙開発は、民間の宇宙企業とどのように協業していくかも重要になってきます。私自身は、宇宙ステーション開発の経験を活かしたいと思っています。

具体的には、先ほどの「フリーフライヤ」が挙げられます。これについてもう少し詳しく説明すると、宇宙を自由に飛び回る人工衛星の開発です。この技術を活用して、地球近傍に衛星の整備工場のようなものを作り上げ、民間の打ち上げる小型衛星(50kg程度の大きさ)をメンテナンスできるような軌道上サービスを実施するプラットフォームを実現したいです。

例えば、小型衛星の推進役を補充したり、アンテナが伸びなければ伸ばしてあげたり、光学カメラなどの観測機器を新しく交換してあげるようなプラットフォームを作り上げたいですね。小型衛星は今や民間のメーカーが作っていますので、そうした民間のための「宇宙の港」みたいなものができると、新しい形を築けるかなと考えています。

私が学生の頃は、日本は技術立国であり、大きなメーカーもあり、日本の中で人生を送ることができました。今は既存の国内産業だけで人生を全うすることは難しい世の中になっています。さらに、国境を越えた民間企業も増え、国家資産を超えるような金額を企業が稼ぐ時代です。

今年は宇宙に関するニュースも多くあり、宇宙に憧れるお子さんもたくさんいるかもしれませんが、私が経験した宇宙ステーションのような長期的で固定的なプロジェクトは、これからはもうあまりないと思われます。

代わりに世界中で巨大ベンチャー企業が台頭してきています。「GAFA」と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonなど、国境を越えた企業が登場して、日本企業は遅れをとっています。こうしたことは、かつては想像できなかったことですよね。つまり、国境を越えた「概念」から新しいことを考えないと、大きなことはできない時代になっています。

JAXAの仕事も、今までは人工衛星Aを作る、ロケットBを作る、という「ものづくり」でしたが、これからはものづくりに終わらない、ビジネスモデルのような大きな「概念」が必要でしょう。例えば、観光事業者が宇宙に行ってバーチャルリアリティで活動するとか、自ら企画して世の中を活性化していくようなプロジェクトが求められると思います。

渡辺さんからのメッセージ

固定概念を持たず、柔軟に考え
変化をチャンスととらえ活かそう

渡辺英幸さん

従来のような「これをやったらいい」「この大学に入ったらいい」といった固定概念は全く通じないでしょう……と言われると、私たちの世代、子を持つ親である私も不安になります。そう考えると、親御さんたちが「自分が正しい」と思うことは、じつは正解ではないのかもしれません。ただ、若い人は、「未来は安心できない」と思っているようにも感じます。じつは親世代を見て、「親の言う通りにやってもしょうがない」なんて考えているのではないでしょうか。

そんな時代にあって、子どもたちには、世の中をよくしていくためにはどんな工夫が必要か、どんなやり方が必要かを、頭を柔らかくして臨んでほしいですね。どうしたらそうした力がつくかというと……私もそんな力をつけたいと日々考えています(苦笑)。ただ、私の長所のひとつは行動力。まずは動くところから始めています。私の場合は、動いて調べて、いろんな人と会って、いろんな人と話をして、いろんな本を読み、経験を増やすしかない。もちろん、このやり方だって正解かどうかはわかりません。

海外に出て学ぶことも必要だと思います。私は残念ながらドメスティックに生きてきましたが、今のJAXAの若いスタッフには、留学経験者も数多くいます。私たちの時代だと、会社に入ってから勉強するなんて……という感じでしたが、今は国内にもうそれほど数多くの学ぶネタがありません。だから海外で何かつかまえてこないとならない機運もあると思います。

そうなると、世界的な視野で考えることが求められて、いろいろな枠組みや仕事の規模を考えられる人が有利になってくるでしょう。ですから、子どもたちには、柔軟な価値観を持って、変化を不安と思わず、楽しんでチャンスに活かしていけるような考え方を持つようになってほしいですね。もちろん私自身も変化を楽しんで、新しい宇宙開発を進めていきたいと思っています。

前編を読む

関連リンク JAXA宇宙航空研究開発機構


渡辺英幸さん  

後編のインタビューから

-難しい道を選ぶ意義
-民間の宇宙企業との協業
-渡辺さんからのメッセージ

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