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Vol.060 2019.02.22

環境省対馬自然保護官事務所
堺真由子さん

<後編>

遠回りしたとしても
「好き」な気持ちを大切に
一歩を踏み出せばは近づく

環境省対馬自然保護官事務所

堺 真由子 (さかい まゆこ)

神奈川県生まれ。地元の小・中・高校を卒業後、東京農業大学農学部畜産学科(現・動物科学科)の畜産物利用学研究室で、乳酸菌などの研究に従事。卒業後、対馬野生生物保護センター(環境省対馬自然保護官事務所)の事務補佐員として勤務する。

朝鮮半島まで約50km。「国境の島」といわれる長崎県・対馬には、天然記念物のツシマヤマネコをはじめ、この土地のみに生息する生きものがたくさんいます。それらを保護する対馬野生生物保護センターで、普及啓発を担当している堺真由子さんは、大学は畜産学科で学び、食品会社に内定が決まっていました。しかし自分の内なる声に気づき、一から就職活動をやり直します。縁もゆかりもなかった対馬で働くことを決めたのには、どんな背景や思いがあったのでしょうか。ツシマヤマネコや対馬の生きものへの思い、対馬での生活についても、いきいきと語ってくれました。

目次

就職活動中の疑問から、内定を辞退して一からやり直す

ツシマヤマネコ

ツシマヤマネコ(対馬野生生物保護センター提供)

生きものと関わる生活を願いながらも、就職は食品系がいいかなと考え、畜産物利用学研究室に所属し、GABAを生成する乳酸菌を利用した発酵バターの研究に従事していました。就職活動では、研究室の友人はみな食品会社を志望。そのことから私も食品会社に絞りました。ところが、就職活動のために志望動機を書いたり自己分析をしたりしているうちに、「本当にこれでいいのかな?」と疑問がわき始めました。

じつは、研究室で食品の研究をする一方、別の研究室にも出入りして、ヤギ小屋の掃除をしたりヤギの爪を切らせてもらったりしていたんです。在学中は牧場を手伝うサークルを立ち上げたり、学芸員資格を取得するための実習に動物園を選択したりもしていました。

堺真由子さん

就職活動でそんな自分を振り返ると、出た答えは「やっぱり動物に関わる仕事がしたい!」。ようやく自分の本心に気づきました。すでに食品会社から内定をいただいていたのですが、辞退して就職活動をやり直すことにしました。皆が内定をもらって卒論を書く中、私は動物と関われる仕事を探して受けながら卒論も執筆。そんな中で見つけたのが、対馬野生生物保護センターの「事務補佐員」でした。

ツシマヤマネコはもちろん知ってはいましたが、「対馬ってどこ?」という状態。調べていくうちに、「生息する動物は沖縄とも違うし、おもしろそう!」と思いました。また、「ヤマネコが沢山の機関が関わり合って保護されていること」などを知り、興味が膨らみました。

大学時代、動物園や水族館で解説ボランティアをしていたこともあり、ライオンやキリンの人気に比べ、日本固有の動物は地味なため来園者に素通りされる姿を見ていて、日本の動物をもっとPRする必要性を感じていたことも、センターへの就職にひかれた一因です。さらに、たまたま勉強会で知り合った講師の方の紹介で職員の方に連絡をとらせていただいたところ、「事務補佐」とはいっても、任せられる範囲が広く、1年目から戦力となっていろいろな仕事ができそうだと知りました。こうして、対馬に渡って働くことを決めました。

今好きなことを仕事にできている秘訣とは?保護者へのメッセージ

「なんとなく」でもいいから「好き」なことを大切にしよう

堺真由子さん

内定を断って新たに就職活動を始めたとき、研究室の教授や研究室仲間には驚かれましたが、友人から励まされ、両親の理解も得られました。両親は、ボランティアで動物の世話をしに行くときの私の楽しそうな様子を見ていましたし、就職に悩んでいることも知っていました。もともと大学生になった頃から、「自分のことは自分の責任でやりなさい」と言われていて、就職時も「自分の決めた道に進んだ方がいい」とアドバイスしてくれました。

よく「好きなことを仕事にしないほうがいい」といわれます。私も、東京でスーツを着て働くことに憧れもありましたが、卒論を書くことに疲れたとき、励ましてくれたのは、別の研究室のヤギや羊だったのです。進路は自分の意志次第で、いくらでも変えられると思います。わたしも、高校時代は「好きなこと」を仕事にできるとは思っていませんでしたし、大学の研究室でやっていたことは、今の仕事とはまったくかけ離れています。自分でもブレてばかり、悩んでばかりだったと反省するほどです。

それでも、今好きなことを仕事にできているのは、「なんとなく好き」なことを続けてきたからだと思います。ですから今、「将来どうしようかな」と考えている子どもたちには、「なんとなく」でもいいから、「好き」なことを大切にしてほしいですね。選択しなければならないときに直感した「自分の思い」にしたがって少しずつ進めば、後悔はしないのではないでしょうか。

私がここまで自然や生きものが好きになったのは、小さい頃、母が私の興味に気づいて、その興味が膨らむように、さまざまな体験を積ませてくれ、いろいろな選択肢を見せてくれたからだと思います。ですから保護者の方は、お子さんをぜひいろいろなところに連れ出して、いろいろな体験をさせてあげてください。やりたいことをやらせてもらえる環境はとても大事だと思いますし、そうしてくれた両親に、今は感謝の気持ちでいっぱいです。

対馬に来て、堺さんの気持ちの変化とこれからの抱負とは?

日本固有の動物、身近な動物の魅力を広めていきたい

堺真由子さん

休みの日は、しいたけ農家さんの「菌打ち」を手伝ったり、野鳥観察をしたりと、やっぱり自然を満喫しています(笑)。対馬に来る前は「よそ者扱いされるかな」と不安でしたが、来てみると家族のようにやさしく接してくれる方ばかり。人と人との距離が近く、プライベートがないとも言えますが、「自分のことを覚えてくれてうれしい」という気持ちのほうが強く、私にとっては居心地がいいところです。

じつは、縁もゆかりもなかった対馬での就職を決めたのには、対馬の自然に興味が湧いたほか、「考える時間を持ちたい」と思ったことも理由でした。センターの事務補佐員は3年間という任期が決められているので、この間にしっかり自分の今後を考えたい、まったく知らない環境で一人で暮らしてみたいという、ある意味挑戦をしたくなったのです。任期は残すところあと1年。飼育現場にも関わることができる恵まれた環境で、改めて「動物と接する仕事をしていきたい」と、自分の方向性を再認識することができました。

動物園でヤマネコを見たときは、単に「かわいい」と思うだけでしたが、対馬に来て、いろいろな歴史や背景があり、多くの人が関わっていることを知りました。日本古来の動物は意外と地味で、動物園ではライオンやキリンなど花形の動物に目が行きがちです。しかし、せっかくなら自分たちと共にこの日本に住む生きもの、身近な生きものにも目を向けてもらいたいという思いが、一層強くなりました。

任期中は、もちろんツシマヤマネコをはじめとした対馬の自然の魅力を発信していきたいですし、今後、対馬を離れたとしても、自分が暮らす地域の、小さくて地味かもしれない生きものたちの魅力を、多くの人に知ってもらえるような仕事をしていきたいと思っています。

前編を読む

関連リンク 対馬野生生物保護センター 『ツシマヤマネコ飼育員物語』


堺真由子さん  

後編のインタビューから

-対馬での、対馬特有の生き物を守り、伝える活動
-堺さんの原点となった神奈川県茅ヶ崎での生活とは?
-公文との出会い、今に繋がる公文で得た習慣とは?

前編を読む

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