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Vol.099 2023.11.02

外科医/フリーダイバー
横田太郎さん

<後編>

「中道」の精神をもって
やりたいことを一つひとつ大切に行えば
やがてが残っていく

外科医/フリーダイバー

横田 太郎 (よこた たろう)

1983年、熊本市出身。熊本大学医学部卒業後、北海道や福岡の病院に勤務し、外科医としての経験を積む。消化器系がんの治療法を研究するため、九州大学大学院臨床・腫瘍外科に再入学し、熊本大学大学院生命科学研究部腫瘍医学講座に国内留学している。大学院生の一方で、2020年よりフリーダイビングの競技者となる。2022年/2023年、AIDA世界選手権(プール個人戦)日本代表。2023年10月の台湾国際大会にて銀メダル2個、銅メダル1個獲得と日本記録を2つ樹立(種目:スタティック・アプネア、エンデュランス・アプネア 16×50m)。

大学院でがん治療の研究に打ち込む一方、どれだけ長く息を止めていられるかなどを競うフリーダイビングの競技者として、世界のトップを目指している横田太郎さん。
「外科医」と「アスリート」という、幼少期からのふたつの夢を実現させた横田さんは、「公文式学習との出合いがなければどちらにもなれていなかった」と打ち明けます。
医師を志したきっかけや、ふたつの夢の実現につながった独特の学習法、保護者の方へのメッセージなどについて、ユーモアを交えてお話いただきました。

目次

    仏教の「中道」の精神を大切に

    フリーダイビングは、いつでもどこでもトレーニングできるのが魅力です。とくにプールや海などの水の中でなくても、今いる普通の空間で息を止めることもトレーニングにすることができます。日頃よりトイレに入っている時間ですとか、何かの作業の気晴らしも兼ねて、息止めのトレーニングを続けています。

    もちろん、潜水して泳ぐ距離を競う種目もあるので、プールでの泳ぎの練習も大事です。最近はそちらにも本腰を入れ始めて、6歳の娘を公文教室に迎えに行った帰りに、ふたりでプールで泳いでいます。経験がなかった分、泳ぐ方の上達にはまだちょっと時間がかかるかなと思っていたのですが、今年の日本選手権ではフィンをつけて泳ぐダイナミック・アプネアでも意外と良い記録が出たんです。面白い感じで記録が伸びてきているので、今すぐではなくてもいつか日本代表になれるぐらいになれば、自分の武器が増えて良いなと思っています。

    フリーダイビングはそれだけで食べていける競技ではないので、いわゆるデュアルキャリアとして、仕事をしながら競技を続けている人がほとんどです。同年代の仲間も多いので、彼らと、どういう練習方法が効果的か、などといった情報交換をしながら切磋琢磨しています。といっても、地元の熊本には仲間も少ないので、東京や千葉、関西地方の競技者とのつながりに助けられています。それぞれ得意分野が違ったりするのもおもしろいですね。

    2023年韓国世界大会のとき

    デュアルキャリアというと、ものすごい意欲を持って、仕事も競技もどちらもがんばるということになりがちなのですが、それは自分にはちょっと難しいなというのも本音です。生活していくためには仕事は続けないといけないのですが、メリハリをつけるというか、集中する部分と力を抜く部分を分けることも大事なのかなと思っています。

    自分のポリシーは、仏教の教えのひとつである「中道」です。達成するためには時間をじっくりかける必要があるのですが、何事もひとつのことに極端に偏る必要はなく、その時その時でベストな道を選べばいいのではないかと思っています。

    フリーダイビングの競技を始めたばかりの頃、大会に連続で出続けていた時期がありました。結果を出さなければいけないと焦る気持ちがあったのでしょう、高めすぎた集中力に体がついていけず、失神してしまう経験をしました。そのときに、限界を見極めることの大切さを学んだのです。

    限界すれすれを極めても、体を壊してしまうこともあるので、こだわりすぎずに適度に諦めることが大事だとも思っています。競技の記録でも、「もういいや」とあきらめて放置していたら、逆に良くなったりすることもあるんですよ。そういう性格だからこそ、「中道」の精神で、仕事も競技も続けられているのかもしれません。

    40歳、まだまだ伸びていける

    外科医とアスリート、子どもの頃の夢を両方叶えたことをお話してきましたが、最終目標から逆算すれば、どちらもやっと道を踏み出したばかりといったところです。今年40歳になりましたが、フリーダイビングの世界では40歳はまだ若手と呼ばれる世代なんです。とくに男性では20代は珍しく、30代が多いのですが、50代、60代の競技者も活躍しています。

    今年の世界大会に出場したときの私のバディの方は40代、昨年のバディは60代の方でした。若さより水中での経験値が物を言う競技ですから、年齢を重ねて自己ベストを更新し続ける選手が多いのです。

    ※バディシステムとは、競技者同士で2人1組となり、お互いがお互いの競技をサポートし合うことによって、競技パフォーマンスと安全性を高めるシステム。

    年齢に関係なく続けられるのがフリーダイビングの良さですし、自分も得意分野の息止めに関しては、まだまだ先がある、やればやるほど伸びていくのではないかと思っています。事実、今年、日本代表として出場したAIDAフリーダイビングプール世界選手権では、自己ベストを更新し、日本選手の中で1位の成績を残せました。世界一の競技者を目指すべく、今後は医師、大学院生としてこれまで培った研究実績や知見を生かして、医学的な面から競技に関する知識を増やしていきたいとも考えています。

    大学院生としても、研究を始めて今年で4年目になりますので、そろそろ卒業を見据えています。卒業後はまた消化器系専門の外科医として臨床現場に戻る予定です。外科医になった当初は、手術のスキルを高めたくて、北海道や福岡の病院で経験を積んでいましたが、最初にお話した通り、手術の予後の悪い患者さんを助けるために、自分にとって外科の次に分かりやすい治療法として思いついたのが化学療法でした。そしてその研究を続けてきたわけですが、自分の研究がすぐに画期的な治療につながるというものではありません。まだ道半ばではありますが、一人前の外科医として、多くの患者さんを救っていきたいと思っています。

    どちらも気が遠くなるような目標ではありますが、自分の強みは公文で培った粘り強さだと思っているので、目の前の目標を一つひとつ達成していくつもりです。そうすることで、知らず知らずの間に息を止める時間が伸びていったように、またいつの間にかより解像度を上げた形で自分の夢を叶えていることに気づくのかもしれません。

    得られるものは子どもによって千差万別、公文式の奥深さ

    私にとって、公文は唯一の習い事だったと言っても過言ではありません。塾にも行きましたが、それ以外は好きなことだけをやってきた人間として言えるのは、公文から得られたことが非常に多かったということです。

    5歳の娘も3歳の時から公文で算数、国語、英語の3教科に取り組んでいますが、とにかく国語が好きなようです。本を読むのも大好きで、記憶力もとても良い。算数が好きだった自分とはまた違う様子です。

    公文では同じ教材を使って同じように教えているはずなのに、そこから得られるものは子どもによって千差万別なのが面白い。集中力、粘り強さ、自立心――。算数が得意になる子もいれば、国語で力を発揮する子もいる。同じ教え方でも、それぞれの子どもが異なるものを得ることができるのは公文の奥深さですね。公文で得たものは、その子にとって必ず強みになると思います。保護者である親御さんは、その強みに気づいてあげられるはずです。

    今、自分自身がまさにそうなのですが、キャリアを形成していく過程や、方向転換する転機の時期に、親がその子の強みを分かった上で適切なタイミングで伝えてあげられると、それがたとえ辛く厳しいものであったとしても、子どもはきっと後悔しないような道を見つけていける気がします。子どもにとって一番楽しいのは、やりがいを感じられることをしている時なので、それに気づいて、子どもにしっかり教えてあげられるような親でありたいと自分自身も思っています。

    娘は公文以外の習い事にも積極的で、「行きたい、行きたい」といろいろ習っています。親の影響もあるのか、泳ぐことも大好き。一緒にプールに行くと、練習をしている私の真似をして、息を止めて潜水するんですよ。フリーダイビングは安全原則を守っていれば決して危険なスポーツではないのですが、娘が息を止めてイルカのように泳ぐのはちょっとやめてほしいな、と思いながら見守っています(笑)。

    お子さんたちにも、「中道」の大切さを伝えたいですね。何事も、あまり突き詰めてがっつりやろうと構えてしまうと逆に続かないこともあります。自分の息止めもそうでしたが、「なんとなく」という軽い気持ちや、単なる気分転換のつもりでやっただけのようなことが、後々役に立つようなこともあるんです。その時々にやりたいことを一つひとつ大切に行っていけば、すぐに結果が出なくとも、なにか一本、道が残っていくのではないでしょうか。

    前編を読む

     


     

     

    前編のインタビューから

    -消化器系がんの研究のため外科医から大学院生へ
    -公文式教室での「息止め」と『まんが羽生善治物語』
    -初めて出たフリーダイビング大会で感じた手ごたえ

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