漆は人間の肌と同じ、水分を吸収して潤う
![]() 新技法で開発された擦れに強い漆器 |
私の実家「輪島キリモト」は、江戸後期の1700年代に「塗師屋(ぬしや)」として創業しました。塗師屋とは、「塗り」と「販売」を兼ねた、いわば製造販売業。その後、昭和の初め、5代目のときに「木地屋」に転業しました。「木地」は原木を彫ったりして漆器のベースをつくる工程です。輪島塗は徹底した分業生産で、各工程に専門の職人がいます。全部で120工程にもなりますが、大きく「木地」「下地塗り」「上塗り」「加飾」の4工程に分けられ、実家ではその土台となる工程を担っていたというわけです。
7代目の父のとき、デザイン提案から仕上げまで行う一貫生産販売体制をとるようになります。いわば、独自路線を歩み出したわけです。「輪島塗」という伝統的工芸品の定義としての技法に加え、金属性のスプーンと一緒に使えるような新技法を創出しています。
「輪島塗」の起源は諸説ありますが、私は室町時代につくられていた説を信じています。約400年も長く受け継がれている理由のひとつは、「土地の力」があること。輪島は漆が育つのに適した風土で、輪島塗の特徴である「輪島地の粉」(漆と混ぜて下地にする珪藻土)を産出する大地があります。そうした土地の力のもとに、職人が集まってきて産地が形成されました。
「もの」として長く使われている理由は、丈夫で長持ちするから。親子孫三代どころか、私が使っているお椀には、「明治44年作」と記されているものもあります。「漆器は手入れが大変」と思われていますが、じつは日々使うことが一番のメンテナンス。人の肌と同じで、水分を吸ったり吐いたりしているので、使って水分を吸って潤うことで長く使えるんです。
逆に1年に1度しか使わないと、水分が抜けてヒビが入ってしまいます。こうした漆の特徴が正しく伝わっていないことはとても残念です。そこで、「漆の魅力をしっかり伝えよう」。もっと言うと「漆を再定義しよう」と、「IKI」というブランドをこの3月に立ち上げました。フランス留学の経験から学んだことが、クリエイターたちと一緒になることで形になったんです。