心の取り扱い方法を伝える仕事
心配なことで頭がいっぱいになる、憂うつで気分が晴れない、悩みばかりで心が苦しい……誰でもそんなときはありますよね。そうした状態になったときにどうすればいいか、「自分の心の取り扱い方法」を伝えるのが私の仕事です。本人が望んでいることができるよう応援する仕事とも言えます。自分の本音を引き出すためにパペット(人形)を使う「パペット・コミュニケーション」というメソッドも独自に開発しました。
メンタルの状態が結果に結びつきやすいスポーツ選手や社会人など、様々な方を対象にしていますが、中でも多いのは学校での講演です。特に悩んでいる子どもに「こういう方法があるよ」と伝えて、心を元気にすることができるように力を入れています。大人は学ぶ場がありますが、子どもは一人で悩みを抱えてしまいがちだからです。
「心の健康」には、「言葉の習慣」が鍵になります。悩んでいるときは「失敗したらどうしよう」「どうせダメだ」という声が、頭の中にくり返し聞こえてくるので不安になったり緊張したり落ち込んだりしてしまいます。ですから、元気になる言葉、プラスの言葉を多めに発するようにすれば、不安な時間は減っていきます。
大人からの言葉も大切です。とくに「問いかけ」は大切です。「どうすればできるかな?」など問いかけられることで思考が導かれます。良質な問いかけは自分の本心に気づくこともできます。子どものうちにどれだけ良質な問いかけをシャワーのように浴びるかによって、その子の人生の質が変わります。
子どもの心を守るためには、日々学校で子どもたちと接している先生方の心が健康でないとなりませんが、実は悩んでいる先生は多いです。「注意などマイナスの言葉しか使っていなかった」と反省する先生もいます。
受験生や保護者への個人セッションもしていますが、そこで感じるのは、子どもをすごく追い詰めてしまっていることです。「いい大学に行かせなくてはいけない(行かなくてはいけない)」「もっともっと努力させなければいけない」というドライバー(行動に駆り立てる思い込み)が強いのです。このドライバーをゆるめるために口頭で伝えるだけでは限界があるので「この本をくり返し読んでくださいね」と渡したくて、たくさん本を書いています。個人セッションをすると苦しんでいた子どもは「自分がいけないんじゃないとわかりました」と言います。
勉強でもスポーツでも、自分の認識次第で楽しくもできれば苦しくもなります。子どもの頃に楽しく学べた経験があると、成長してからも楽しみながら学べるようになります。心の取り扱い方を知って、苦しみから解放してあげたい。子どもたちの心を守りたいと思って活動しています。
「テストの前には3回深呼吸」と
教えてくれた公文の先生
優秀な姉とやんちゃな弟の間にはさまれた私は、家でも学校でも一人でボーっとしていることが多く、なぜか「自分は一人で生きていかなくちゃならないんだ」と思っていました。インドア派で、好きな遊びはお人形を使った空想遊び。このときの経験が、パペット・コミュニケーションの開発につながったのかもしれません。
お習字が好きだったので、将来は習字の先生になるのかなと、漠然と考えていました。ほかにバレエや英会話など、毎日何かしら習いごとに通っていました。そこに公文式が加わったのは、小学4年生の時です。近所に新しく教室ができると、弟と一緒に通うようになりました。簡単な計算からスタートしたので、プリントはすぐに解けます。それを先生が褒めてくれるのがうれしかったですね。無理なく進められるので、計算が得意になっていきました。
中学校でも、先生が出す問題はいつも一番最初に回答。「数学の史子ちゃん」と言われるまでになりました。高校受験時も数学は満点。自信がついていきましたね。公文式学習でコツコツ進めることが身についたお陰で、今も忙しいスケジュールであっても時間をつくってコツコツ本を書いたり、講演の準備を進めたりできています。
中学では新体操部でした。運動が苦手な私は、部活体験でマット運動をしている部を見て「これならできるかも」と入部したのです。本入部して「踊る部なんだ」と驚きましたが、バレエをやっていたので踊ることに抵抗感はなく、そのまま続けました。まじめな性分だったので、言われたことを毎日練習していたら、最初の新人戦で県で優勝し、中2で全国大会へ。「体操の史子ちゃん」になりました。コツコツやったことの成果ですね。
高校は、新体操で有名な学校か、学力に見合った学校に進むか、悩んだ末に新体操を選択。でも練習が厳しくて思い悩みました。当時通っていた公文の教室の先生は「やめたかったら学校を変更する選択肢もあるんだよ」と助言してくれました。仲間に引き留められてなんとか続けましたが、私が悩んでいるとき、公文の先生はいつも親身になって相談に乗ってくれたことが思い出されます。
「テストの前には3回深呼吸するといいよ」と教えてくれたのも公文の先生です。いま、私がメンタルトレーニングをするときに、「まず深呼吸3回しましょう」と伝えていますが、これは公文の先生が教えてくださったことなのです。
高校生の時は、部活が終わってからそのまま公文の教室に直行していました。公文は高校3年生まで続け、受験塾には行かずに希望大学に合格することができました。
心を元気にしてくれた心理学
学びを深めようと35歳で大学院へ
大学でも新体操を続け、大学3年でキャプテンになりました。大会で成績を残すためにリーダーシップを発揮してメンバーを導く立場ですが、「こんな自分がキャプテンになってはだめだ」と毎日自分を責め、半年後には立てないくらいのストレスに……。病院で診察してもらったところ、バセドウ病であることがわかり、それから通院生活が始まりました。一向によくなる気配が見えず、心も弱っていきました。
それでも大学を卒業しようと頑張り、「親子体操」をテーマに卒論をまとめました。世界体操祭で世界の親子体操を視察したところ、海外では体操を「勝つため」ではなく「幸せになるため」にしていると知り、衝撃を受けました。障害者の体操なども視察して視野が広がり「人を幸せにする体操がしたい」と思うようになったんです。
卒業後は体操教室の講師などをしていましたが、転職先の会社で人間関係につまずき、出社できなくなる事態に。病気も完全には回復しておらず、人間関係もうまくいかない。絶望していたときに出会ったのが心理学です。通ったカウンセリング講座で、行動に駆り立てる思い込み「ドライバー」や、相手を認めて働きかける「ストローク」などを知り、自分の心の動きに気づきました。私の心を元気にしてくれた心理学をもっと勉強したいと思い、講師をされていた社会産業教育研究所の所長、岡野嘉宏先生に相談し、本格的に学ぶようになりました。
5年ほど心理学の学びを続けていると、岡野先生から「そろそろ伝える側になったら」と言われました。「私なんて」と自信がなくて葛藤しましたが、「やってみなければわからない」と前向きに考え、伝える側になりました。
そうしているうちにもっと学びを深めたくなり、会社を辞めて大学院へ行くことにしました。35歳のときです。心理学を学ぶほどに、自分の人生の謎が解けていきました。在学中に長男を妊娠・出産し、ベビーカーを押して公園に行き、息子が眠ったらベンチで論文を書いたりしていたのも、今では懐かしい思い出です。
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