人の行動を変えるにはデータだけでは不完全
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私の恩師である大澤先生は「チャンス発見」という研究テーマを提唱されています。「『めったに起こらないけれども重要なこと』を見つけよう、それはコンピューターだけでは見つけられないので、人間と一緒に協調しながら探していこう」というアプローチです。コンピューターも人間の知識もフル活用して、どううまくミックスできるかが研究テーマでした。
この「データは便利だけれど不完全なので、それしか使わないのは不十分ではないか」というのは、仕掛学も同じです。当時ぼくは人工知能の研究をしていましたが、データは不十分だし、それだけを研究テーマにしていてはできることが限られていると思っていました。とはいえ大澤先生と同じアプローチをとるわけにもいかないので、「人の知識や経験」を使うのではなく、「行動を変えることで問題解決する」というアプローチに進むことにしました。
当初は「フィールドマイニング」と呼び、データに頼ることなく、街なかの魅力を発見しようと活動していました。そこに何らかの仕掛けがあると、街の魅力に気づきます。たとえばぼくが最初に見つけた仕掛けは2006年、天王寺動物園の「筒」でした。望遠鏡のような形で、真ん中に穴があり、ついのぞきたくなる。何の説明書きもなかったのですが、動物以外の見どころに気づいてもらうための仕掛けでした。そうした仕掛けを収集していたら、魅力を発見するだけでなく、いろいろな問題解決に応用できると気づきました。そこで「仕掛学」と名前を変え、現在の研究に至っています。
でも仕掛けを自分で考え出すのは難しい。ですからぼくは、人が集まっているところはとりあえず見に行きます。人が集まっている理由、つまり仕掛けがわかるからです。人だかりは、隠れた仕掛けを他の人が見つけてくれていると言えます。人の行動がどう変わるか、実験をしたこともあります。繁華街にある、普通の木の根元を、友人と何人かで集まって写真に撮っていたら、まわりの人が寄ってきて同じように撮影をし始めた。何かがあると思ったんでしょうね。つまり、ちょっとしたことで人の行動は簡単に変わる、ということです。