聞こえの良い言葉の背景にあることを伝えたい
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現在私が特に関心を持っているのは、「東南アジアで熱帯林がどんどん減少していくなか、現地では何が起こっているのか」ということです。
1990年代、地球環境を守るために「気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」といった国際的な条約が作られました。その一環で、熱帯林を含め、世界の森林を守ることが重要だと言われるようになりました。グローバルな環境保全の重要性が唱えられる中、そのこと自体は確かです。しかし、森林の現場で何が起きているのかということはあまり知られていません。現地に行き、そこに住む人たちから話を聞く中で、「国際的な合意のもとにつくられた条約や政策が、ローカルの住民にとってどんな意味があるのか、また、それが地域でどう活かされているのか」を明らかにするのが私の研究の目的です。
東南アジアなどの途上国には、森林に依存して生活している人たちがたくさんいます。ですから、ただ単に森林を保全するだけではなく、そうした人たちのことを考える必要があります。しかし、そもそも森林減少の背景には、政治的、社会的、経済的な側面が絡み合っていて、問題はそう単純ではありません。その混沌とした状況の中で、どこに問題の根源があるのかということも研究しています。
たとえば、途上国の森林や生物多様性を守るために国立公園が設定された地域では、その地域にずっと昔からそこに住み、森林資源を利用していた先住民が立ち退きを命じられたり、公園内にある資源にアクセスできなくなるという問題も発生しています。そこで、公園を管理する側と住民が共存できる道を探ることも研究テーマの1つになります。
「生物多様性保全」や「森林保全」などはよく聞く言葉だと思いますが、その背景では、先進国に住む私たちには見えないことがたくさん起きています。そこに入り込めるのが研究者です。プラスもあるけれどマイナスもある。そういう中で地球環境問題を多面的に考えていく必要があるのです。