マラドーナがくれたサッカーという夢
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僕がサッカーを始めたのは、小学4年生のとき。1986年のメキシコW杯で大活躍していたマラドーナを観て、本格的にやってみたいと思ったのがきっかけです。じつは元々はジャイアンツファンの野球好き少年でした。だから、相当マラドーナのインパクトが強かったんだと思います。
でも、小学校の卒業文集にはたしか「将来は医者になりたい」って書いたかな。ただ単に大きく出たかっただけだと思うんですけど(笑)。当時はまだサッカー選手が、プロ野球選手のように確立された職業のイメージではなかったんですよね。海外で活躍する日本人選手の存在さえも知らなかった。でも中学2年のころには、「日本リーグでサッカーをやりたい」と考えるようになりました。
うちの両親は「サッカーもいいけど勉強も大事にしなさい」という考えでしたので、サッカーでプロになるなんて「ありえない」と言われていましたね。僕自身も、テストでよくない点を取るのは悔しかったし、中学受験に抽選で落ちてしまうという経験もあって、「好きなサッカーもするけど、勉強もちゃんとしていきたい」と思っていました。
プレッシャーがかかる場面こそ、普段やっていることが出る
公文は小学1年のころから通いました。教室には、友だちと楽しんで行っていましたよ。だけど、早く終わらせて早く遊びたかったので、集中するときは頭の中で徒競走のテーマソングを流しながら問題を解いたりしていましたね。あとは、成績の良い同級生のライバルもいい刺激になりました。
公文で培ったのは「集中力」ですね。自分で目標を決めてやり遂げる。それはサッカーともリンクするところです。いまやっていることに100%集中する。そしてさらに先へと進む。じつはうちの子どもたちも公文に通っています。昨日も、「あと1時間後に出かけなければならないから、お父さんと遊びたかったら早く公文の宿題を終わらせてね」と言ったら、それまでダラダラしていたのに、急にはりきって15分くらいで終わらせていました。やらなければいけないことを後回しにするよりも、早くやってしまったほうが一日は楽しくなる。それは親として根気強く伝えていきたいと思っています。
問題に対する集中力、瞬発力、それから基本の反復ですよね、公文は。サッカーも基本をおろそかにしていると、大事なところで力を発揮できない。本当にプレッシャーがかかる場面こそ、普段やっていることが出るんです。ボールを自分が思っているところにきっちり止められるか。トラップはサッカーの基本の技術ですが、高いレベルに行けば行くほど、相手からのプレッシャーはキツくなり、なかなか思い通りにはさせてもらえません。基礎をしっかりやることは本当に大切だと思います。
現場とは異なる視点をくれたFIFAマスター
大学時代は大学生とプロ選手の二足のわらじを履いていましたが、この選択もいまとなってはよかったと思っています。サッカー選手はどうしても住んでいる世界が狭くなりがちですが、大学に通うことによって、サッカーとは全く関係のない色々な人と接することができましたし、自分の興味の対象を広げてもらえたと思います。そして大学で経済を学んだことが、結果として現役引退後にFIFAマスターに行く動機にもつながりました。
FIFAマスターに行くきっかけとなったのは、現役引退を考えていたときに、日本サッカー協会の田嶋副会長から、「FIFAマスターにはサッカーをマネジメントの視点から勉強できるコースがある。将来日本のサッカーを支えていく人材を目指すうえで重要な経験になるんじゃないか」と声をかけていただいたことです。じつは現役を引退する5年前くらいから、セカンドキャリアのことは考えていました。できればもう一度学びたいなと。そういう意味で、FIFAマスターは内容もタイミングも、そのときの自分にぴったりだと思いました。ただ、授業も論文もすべて英語という点に関してはかなりチャレンジングな環境でしたね。
日本人はあまり主張するのが得意ではないので、たとえばディベートのときなどは黙ってしまいがちです。でもそれではその場にいる意味がない。サッカーのプレー同様にグイグイ来ますからね、外国人は。だから議論の最中に必ず一言物申すようにしていました。FIFAマスターには24ヵ国から30人が集まってきていたので、議論を通じて色々な物の見方を学べましたし、それがいまの自分にもつながっています。
たとえば、サッカーの現場に近い部分しか見えていなかった自分が、マーケティング的にどうであるとか、あるいはリーガル(法律)の観点から見たらどうなのかとか、まったく違う視点で物事を考えられるようになりました。そのことが、自分の一番の強みである“フィールドでの経験”をより際立たせてくれることも分かりました。選手だったことは、きっとこれからも自分の大きな強みだと思うのですが、それだけではいつか行き詰まることもあるでしょう。自分の引き出しの中身を増やせたという意味でも、FIFAマスターは大きな経験でした。
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後編のインタビューから – 押しつけではなく子どもたちのアイディアを大事にする指導スタイル |