サイエンスCGクリエイターは”オーケストラの指揮者”

ぼくは今、希望していたとおりの仕事をしていますが、実は今すごく迷っているんです。ぼくにはすべてのことが一流ではなく二流であるという認識があります。医師としては2年間の初期研修しかやっていない、CGデザイナーとしてのスキルも最低限のことは分かりますけど、超一流のデザインを自分で生み出せるかといえばそうではない。
CGアニメーションも同じです。たとえばディズニーみたいなキャラクターアニメーションは作れない。広く浅くはできるけど、突き抜ける何かが足りない。そこをどうしたらいいのだろう……。これが最近いちばん悩んでいるところです。たぶん、オーケストラの指揮者みたいなポジションがあれば、とてもいいのだと思うんですよね。指揮者は楽器の演奏が上手なわけではないけれど、すべての楽器の音色や特性を知っていて、まとめあげ楽曲を奏でることができる。映画監督とかもそうですね。
それは「通訳」ととらえてもよいのかもしれません。心臓のCGアニメーションを作ったときに、まずは専門のお医者さんや研究者から、研究内容をワ~っと一気に聞くわけですね。すごく専門的なことは分かりませんが、ある程度感覚としては分かる。最低限何が理解できていないかくらいは分かる。しかし、その研究者から提供された膨大なデータをそのままCGデザイナーに渡しても、デザイナーは困ってしまいます。ですから、研究者の話をまずはぼくが受けて、いったんかみくだいて、頭のなかで技術的なものをシミュレーションしながらCGのプロットを立てていく。
一方で、デザイナーの思考も何となくは分かっているつもりで、論理的というより直観的な思考タイプが多い彼らが、その美的センスを存分に発揮するための土台だけは用意しておきたいのです。研究者とデザイナーという、職業上の使用言語や文化が違う人たちの間で、「通訳」しながらよい作品を仕上げていくことこそ、自分のやるべき使命なのかなとも思いはじめています。